戦国異伝
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第八十話 大和糾合その七
ふとだ。滝川はあの男を思い出してだった。
「そういえば津々木もまた」
「その者は確か」
「はい、勘十郎様を惑わしたぶらかした者です」
あの者のことをだ。雪斎に述べたのである。
「あの者もまたです」
「ですな。あの勘十郎様を惑わすとは」
雪斎はそこに尋常ではないものを見ていた。そのうえでだ。
一旦瞑目しそのうえからだ。こう言うのだった。
「その津々木という者、どう考えても」
「只者ではありませんな」
「左道を学んでいるのでしょうか」
雪斎は眉を曇らせてこう述べた。
「度々聞くことを考えますと」
「その可能性はありますな」
「そうかと」
「ううむ。ではあの時倒せなかったのは」
「左道故かと」
こう滝川に述べる雪斎だった。
「あれは剣では中々相手にできませぬ」
「それで、でざるか」
「はい。拙僧も左道の存在は聞いておりますが」
だがそれでもだというのだ。
「実際にこの目で見たことはです」
「ありませぬな」
「そうした術は。外道の術故」
使ってはならない術、それ故にだというのだ。
「使う者もそうはおりませぬ」
「そうですな。大抵は好き好んで左道なぞ」
入らないとだ。滝川も深い顔で述べる。
「外道を歩みたがらないものです」
「そうです。あれは闇の力です」
左道、即ち妖術はそうだというのだ。
「光にありはしませぬ故」
「その様な術なぞ」
「誰も使いたがりませぬな」
「はい、大抵の者がです」
そうだというのだ。大抵は好んで外道を学ばないというのだ。
だがそれでもだった。雪斎はここでこうも言ったのである。
「しかし。中にはそれぞれの求めるものに目が眩みです」
「欲に捉われ」
「それを求めるあまりです」
「左道に入ってしまう」
「そうなってしまう者も稀にいるのです」
「それがあの者でしたか」
「津々木だったかと」
そうではないかというのだ。こう言ったのである。
「あくまで話を聞いただけですが」
「それでもそう思われるのですね」
「はい」
まさにその通りだと答える雪斎だった。
「そしてその闇ですが」
「闇が一体」
「妖気を漂わせる闇もそうはありませぬ」
「そうした闇はですか」
「ありませぬ。しかしあの男は」
「松永久秀は」
「どうしてもよからぬものを感じてしまいます」
そしてそのよからぬものがだ。何かというのだ。
「そうしたものをです」
「感じられますか」
今度は筒井が雪斎に尋ねる。
「では松永めも」
「どうでしょうか。拙僧は津々木という者は知りませぬ」
「では」
「今は何とも言えませぬ」
雪斎は筒井の問いにこう答えるしかなかった。
「津々木という男のことは知りませぬし」
「だからでございますか」
「そうです。ですがあくまで勘ではです」
そうしたものから感じ取るものはだった。
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