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戦国異伝

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第八十話 大和糾合その二


 かつて今川の家臣だった者達だ。その彼等が声をあげてきたのだ。
「我等も今では織田の臣ぞ」
「ならば殿のお力になろう」
「御守りするぞ」
「信長様は義元様と氏真様のお命を助けられました」
 旧今川家の者達を代表してだ。また雪斎が言う。
「そのご恩、決して忘れませぬ」
「それ故にか」
「はい、桶狭間では首を取られても不思議ではありませんでした」
 むしろそれが普通だ。戦では首が手柄の証となるからだ。だが信長は義元と氏真を生け捕りにして義元は出家させて済まし氏真は親しい家康の下に行かせるに任せた。そのうえで今川の家臣の多くを召抱えたのだ。
 このことに対してだ。雪斎は言うのだった。
「それをお助け頂いたのですから」
「恩か」
「それに信長様の器に感じ入りました」
 意気、それだった。
「あれだけのものを見せられるとです」
「忠誠を誓わずにいられぬか」
「拙僧は今まで今川の臣でした」
 死ぬまでそうだと思っていたのだ。だがそれがだったのだ。
「ですがそれがです」
「変わられたか、和上も」
「はい、確かにこれまでは敵でしたが」
「だが今は」
「義元様のお命も救って頂きました」
 戦に破れてもだ。そうしてもらったというのだ。
「このことは決して忘れませぬ」
「それ故か」
「左様です。だからこそです」
「あの者が何かをすれば」
「拙僧も容赦しませぬ」
 強い目でだ。雪斎は滝川に話す。
「先鋒にして幸いでしたな」
「そうじゃな。何かあれば」
「すぐに攻められます」
「さて、何時何をしてくる」
 完全にだ。滝川も雪斎も松永を疑っていた。彼は必ず裏切ると思っている。
 そしてそのうえでだ。滝川は言うのだった。
「わしは容赦せぬぞ」
「常に見張っておきましょうぞ」
「そうじゃな」
 二人だけでなく他の面々も松永を警戒していた。大和に入った軍勢は張り詰めた空気の中で進軍していた。そして奈良の町の横を通りそのうえでだ。筒井氏の城に入った。
 筒井氏の主は筒井順慶だ。広い額に細い目を持つ男だ。顔は何処か儒者めいている。
 その彼が滝川達を出迎えてだ。こう言うのだった。
「よくぞ来られました」
「はい、それでなのですが」
「お話は聞いておりまする」
 筒井は静かな物腰で滝川達に応える。しかしだ。
 ここで筒井はだ。こんなことを言った。
「今この大和の国人達をこの城に呼んでおります」
「左様ですか」
「興福寺とも話はつけておりまする」
「では人が集まり次第」
「しかしです」
 ここでだった。筒井は言うのだった。
「大和と言ってこれが広いのです」
「そういえば北だけでなく」
「はい、南もあります」
 大和は広くだ。大きく来たと南に分かれるというのだ。筒井がここで言うのは南のことだた。
「その南には吉野や十津川があります」
「あの南朝があった」
「そうです。あの地は険しく入るには厄介な場所です」
「相当山が険しいですな」
「信長様はあの地まで手を向けられるのですね」
「はい、そうです」
 まさにそうだとだ。滝川は筒井に答える。 
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