戦国異伝
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第七十九話 人たらしの才その九
信長は考える顔でだ。こう言ったのだった。
「無理があるやもな。だから居城を変えようか」
「岐阜からですか」
「新たな場所に」
「かといって何かとややこしい都に留まるつもりもない」
都を拠点にすることはだ。信長は最初から考えていなかった。それは何故かということもだ。彼は池田と森に対してだ。確かな声で答えたのである。
「都は公方様と幕府もありじゃ」
「それに帝と朝廷に」
「寺社もありますな」
「一つ一つだけでも難しいがそういったものが幾つもあって絡み合っておる」
そういった場所だからだというのだ。
「その様な場所におっては国を治めるどころではない。色々と相手をする方に力を使ってのう」
「だから都に拠点を置かれない」
「そうされますか」
「都を離れて都を見られてじゃ」
そしてだというのだ。
「領地全体を治められる場所じゃな」
「そういった場所があるのですか」
「領地に」
「あるのう。まあそれはおいおい調べる。少なくとも暫くは無理じゃな」
居城を移す、そのことはだというのだ。
「この戦とその後の政で金は使う。播磨までは何とか治めてそして都とも話をしていく」
「都にある様々な勢力ともですな」
「そうされますか」
「暫くは。何年かになるか」
信長はここでは長い見方をしていた。そのうえで考えてもいる。
「岐阜におって治めるか」
「その居城に移ることよりもですか」
「まずは政ですか」
「そうじゃ。仕方ない」
いささか本末転倒であってもだ。領地全体を無難に治める為に居城を移したくとも政の為に金が必要でありだ。居城を移すことができぬというのだ。
この矛盾についてだ。信長は眉を顰めさせて述べた。
「それでも何とかやっていくか」
「ですか。何年かは」
「そうされますか」
「西の毛利は国境を固めておく」
備えの話にもなった。まずは西のこの家だった。
「毛利は我等との境に達するまで時がある。それにじゃ」
「それに?」
「それにとは」
「毛利も治める方に関心がある」84
戦をするよりもだ。そちらにだというのだ。
「だからこそじゃ。接しても暫くは我等とは揉めぬな」
「毛利はそうなのですか」
「あの家は」
「そうじゃ。毛利元就は油断できぬがのう」
その謀略についてはだ。信長は充分に知っていた。そのうえでの言葉だった。
「しかしそれでもじゃ。あの者は危険でもじゃ」
「愚かではない」
「そうなのですか」
「そうじゃ。愚かではないからこそ今はせぬ」
何をしないか。それも語る信長だった。
「戦も謀もじゃ」
「では西は境を固めるだけでいい」
「そうなりますか」
「問題は東と内じゃな」
内、それもだというのだ。
「東の武田と上杉はやはり手強い」
「その両家はわかります」
今度は森が述べてきた。
「ですが。内とは」
「本願寺じゃ。あそこじゃ」
信長はここで出したのはだ。この寺だった。
「あの寺がどうなるかじゃ」
「一向宗、ですか」
「あの者達ですか」
「加賀や紀伊を見るのじゃ」
そういった国々をだ。信長は挙げてきた。
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