戦国異伝
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第七十九話 人たらしの才その二
その顔で彼が来るのを待った。そしてだった。
程なくしてその羽柴が従者達を連れて城に来た。その報を受けてだ。
荒木は不敵な笑みを浮かべてだ。そのことを告げに来た家臣にだ。こう言ったのだった。
「では茶室にじゃ」
「そこにですか」
「羽柴殿を招かれるのですか」
「そうする。茶でも飲みながら話そう」
こうだ。不敵な笑みと共に言ったのである。
そしてそのうえでだ。その家臣にだ。荒木は言うのだった。
「これより戦じゃ」
「あの、戦とは」
「戦は刀や弓だけで行うものではない」
不敵な笑みと共にだ。彼は語る。
「舌、そして茶でもじゃ」
「戦は行われるのですか」
「そうじゃ。茶は戦でもあるのじゃ」
彼は茶をこう評する。そしてだ。
その話をしてだ。その家臣に告げたのだった。
「ではよいな。わしは今から茶室に入る」
「そして羽柴殿もそこにお招きして」
「そのうえで戦をするぞ」
「畏まりました」
こうしてだ。荒木は城の茶室に入った。そしてそこで羽柴を待つのだった。
羽柴は少ししてからその茶室の前に来た。その小さな茶室を見てだ。
従者達が怪訝な顔になりだ。口々に言うのだった。
「まさか茶を飲みながら話をするというのでしょうか」
「荒木殿は確かに数奇者と聞いていますが」
「だからこそ茶でしょうか」
「それを嗜みながらということでしょうか」
「残念じゃがわしは茶は飲むが茶道は今一つ慣れぬ」
この辺りは仕方がなかった。やはり羽柴は百姓の倅でありこうしたものに幼い頃から触れてはいないのだ。茶道に触れる様になったのもつい最近だ。それではだった。
「まだはじめたばかりじゃしな」
「左様ですな。だかこそです」
「羽柴殿を惑わす為に茶室でというのでしょうか」
「お話を」
「そうかも知れぬのう」
こうは言ってもだ。羽柴の顔はだ。
余裕があるものだった。そしてその顔で言うのだった。
「しかしそれでもじゃ」
「はい、荒木殿は何としても織田家に来てもらわねばなりません」
「絶対に」
「そうじゃ。確かにわしは茶には慣れてはおらん」
このことを認識したうえで言う羽柴だった。
「しかしそれでも今回の仕事には自信がある」
「無事荒木殿を織田家に迎える」
「それができるというのですか」
「そうじゃ。できる」
絶対にだとだ。羽柴は余裕のある笑みで言う。
「では今からかかろうぞ」
「はい、それではです」
「今よりお願いします」
「それでは」
茶室に招かれているのは羽柴だけだ。従者達は招かれてはいない。それで茶室に入るのは彼だけだった。それで従者達は彼を見送るのだった。
羽柴はその彼等に気さくに手を振って別れてだ。こんなことを言った。
「では帰ればじゃ」
「はい、その時は」
「どうされますか」
「美味い菓子でも食おうぞ」
こう言ったのである。彼等に。
「砂糖を使った甘い菓子をな」
「いや、砂糖を使ったものは流石にです」
「あまりにも高うございます」
「ですからそれは幾ら何でも」
「褒美に過ぎます」
「ははは、それもそうじゃな」
笑ってだ。従者達に返す羽柴だった。
「しかしできればじゃ」
「その砂糖菓子をですか」
「馳走にというのですか」
「そうじゃ。まあ確かに砂糖菓子は高いがのう」
だがそれでもだと言う。羽柴はさらに言うのだった。
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