戦国異伝
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第七十六話 九十九茄子その四
「それを持っている者の命なのじゃ」
「さすればです」
信長のその話を聞きだ。矢部がだった。
いぶかしむ顔になりだ。こう主に問うたのだった。
「この御仁は命を差し出してきたというのですか」
「うむ、わしにじゃ」
「では殿は」
「見よ。九十九茄子だけではない」
見ればそうだった。差し出されている茶器は他にもあった。そしてその茶器達もだ。
どれも逸品だった。その全てを見てだった。
信長はだ。こう言ったのだった。
「平蜘蛛以外は持って来たか」
「流石にあれだけはです」
「出せぬというのじゃな」
「それがしの心の臓でございます」
まさにそれだとだ。松永はここでは余裕のない真顔で答えてきたのだった。
「ですからこれだけはです」
「心の臓を出してしまえば誰でも死ぬ」
「はい、ですから」
「命を出すことはできても心の臓は無理じゃな」
「その通りでございます」
「ではよい」
その茶器、平蜘蛛はだというのだ。
「それは求めぬ」
「畏まりました」
「では九十九茄子に他の茶器はじゃ」
その茶器全てがだというのだった。
「有り難く受け取っておこう」
「ではそれがしは」
「青の服を用意しておこう」
青は織田の色だ。それは即ちだった。
「すぐに着るがいい」
「わかりました。それでは」
松永も彼の家臣達もだ。信長に対して頭を垂れて平伏した。こうしてだ。
松永弾正久秀は信長の家臣となった。それを受けてだ。
信長はあらためてだ。家臣達に告げたのだった。
「では攻め方を変える」
「大和はほぼ完全に手に入りました」
ここで信長に言ってきたのは生駒だった。軍師の一人である彼がだ。
「その分兵を向ける必要がなくなりましたし」
「それに加えてじゃな」
「大和の方面から河内に攻め入ることもできるようになりました」
生駒はこのことも信長に話したのである。
「これはかなり大きいかと」
「その大和の兵を使ってのう」
「筒井殿に興福寺の下にある国人達に」
生駒は松永を見た。やはり彼も納得していない。
だがそれでも主である信長が決めたことだ。それならばだった。
納得するしかなかった。それで言うのだった。
「この御仁の兵が加わりましたから」
「そうじゃ。後はじゃ」
信長もさらに言う。
「大和から攻め入るだけじゃ」
「はい、ただ」
「その兵は寄せ集めじゃ」
信長は大和の兵達を一言で看破した。まさにそれだとだ。
そのうえでだ。こうも言うのだった。
「だからこそ優れた者を頭に置く」
「してそれはどなたでしょうか」
「久助」
滝川の顔を見た信長だった。そしてだった。
彼に対してだ。こう告げたのだった。
「予定を変える。御主は大和に向かえ」
「そしてそこからですな」
「河内に入りそこから三好を脅かすのじゃ」
そうせよというのだ。その滝川に対して。
「よいな。好きなだけ暴れるがいい」
「ではそうさせて頂きます」
「般若に八郎、八郎三郎もじゃな」
蜂屋に中川、池田勝正にも声をかける。
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