戦国異伝
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第七十五話 都に入りその五
「まことにのう」
「はい、それでは」
明智と細川は義昭との話をこれで終わらせた。そのうえでだ。
二人は和田惟政と共にだ。信長のいる本能寺に馬で向かった。その途中だ。
織田の青い兵達を見た。その彼等はだ。
至って行儀よく悪さ一つしない。それを見てだ。まずは和田、やや小柄で風采のあがらぬ顔だが妙に目の光の鋭い彼が言ったのである。
「織田殿が強く言っておられたとはいえこれは」
「はい、ここまでとはです」
「それがしも思いませんでした」
明智と細川がすぐに答える。
「しかし織田殿は見事に兵を率いておられますな」
「しかも法は厳格です」
「ただ戦に強いだけではありませんな」
「こうしたことまで気を配られるとは」
二人と和田が見たのはこのことだった。それでだ。
和田は二人にだ。こんなことも言ったのである。
「これは武田殿や上杉殿に比肩しますな」
「武田殿とですか」
和田のその言葉を聞いてだ。明智はだ。
まずは考える顔になった。そしてそれからだった。
すぐにはっきりとした顔になりだ。こう述べたのである。
「確かに。兵を率いることにかけては」
「はい。確かに織田殿の兵は弱いです」
その兵の弱さは最早折り紙つきだった。武田や上杉の兵とは比べものにならない。
だがそれでもだった。その彼等を率いる信長はというのだ。
「一糸乱れぬまでの率い方ですな」
「よもやここまで都で静かにさせているとは」
今度は細川が唸る様に述べた。
「予想以上ですな」
「左様ですな。しかしです」
こうも言う和田だった。
「このことも見ますと」
「織田殿はですな」
「天下を治められますな」
和田もだ。このことを確信したのだった。
「確かにまだまだこれからですが」
「しかし考えてみればです」
明智がだ。ふと言ったこととは。
「織田殿が尾張を統一されたのはお父上が亡くなられすぐでしたな」
「はい」
「瞬く間に尾張を統一され程なくして桶狭間において今川殿を退けられました」
明智はこのことも話した。
「それからすぐに伊勢、美濃を手に入れられ今に至ります」
「然程時は経っておられませぬな」
「しかし今では都にこうして入られています」
「では。このままの勢いでは」
「近畿を押さえられるでしょう」
今度は明智が断言したのだった。
「播磨に丹波も。伊賀やそうした国もです」
「ううむ、それでは天下第一の勢力になられますな」
「そうなれば天下も見えてきますな」
「ですな。織田殿はまさに天に昇られるのですか」
「蛟龍とはです」
明智は信長のその通称も話に出した。
「水の中に潜んでいますがやがてはです」
「正真正銘の龍となり天に昇りますな」
「はい、ですから」
「織田殿は天に昇られますか」
「まさにその時かと」
都を押さえた、今がそれだというのだ。
このことを話してだ。さらに言うのだった。
「そして乱世はこれで大きく変わります」
「泰平に向かいますか」
「織田殿がそうされます」
信長がこの乱世を泰平に導く、そうするというのだ。
「今それがはじまったのです」
「上洛が終わりではなく」
「はじまりです」
まさにそれだというのだ。
「天下布武のです」
「織田殿が言われている」
「そしてその天下布武の後は」
そこに何があるか。明智にはもう見えていた。
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