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戦国異伝

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第七十三話 近江掌握その十二


「その御用でしたら今にでも」
「こら佐助、幾ら何でも血の気が多過ぎるであろう」
 幸村は笑って猿飛を叱った。
「それではないわ」
「ではあれですか」
「そうじゃ。御主達は近畿、織田殿の勢力圏を巡りじゃ」
「そのうえで織田殿のことを調べる」
「そうされよというのですな」
「そうじゃ。そのことを命じる」
 信玄に言われたことをだ。幸村は彼等に命じたのである。
「わかったな」
「畏まりました」
 三好伊佐が一同を代表して応えて一礼した。
「さすれば今より」
「そうじゃ。ただしじゃ」
「ただしといいますと」
「行くのは御主等だけではない」
 彼等十勇士が織田の領内に入るのではないというのだ。
 では他には誰が赴くのかもだ。幸村は言った。
「わしもじゃ」
「何と、幸村様もですか」
「織田殿の領内にですか」
「我等と共に入られてですか」
「織田殿を御覧になられるのですか」
「既に殿のお許しは得ている」
 その目でのやり取り、それこそがだったのだ。
 言葉には出さないが目では決まっていた、そのことを話してだった。
 幸村は十勇士にだ。こう言うのだった。
「では今すぐに支度をして行くとしよう」
「幸村様が我等と共にですか」
「尾張の蛟龍の巣に入れるとは」
「これまた愉快なことですな」
 十勇士達は幸村のその言葉を受けてだった。そのうえでだ。
 声も気を意気をあげさせてだ。そうして言うのだった。
「ではこれよりですな」
「真田主従の乗り込みをですな」
「しますか」
「さて、織田信長殿はどういった方なのか」
 幸村はその目を楽しげに光らせてだった。
 その強い光のままでだ。言うのだった。
「会うのが楽しみである」
「織田殿の色は青でしたな」
 海野がここでこう言った。
「確かそうでしたな」
「その通りじゃ。青じゃ」
「それに対して我等武田は赤」
 無論真田の者達も赤だ。織田が具足や陣笠、旗や鞍までも青に統一しているのに対して武田は赤だ。まさに正反対の色だった。
 その青と赤にだ。海野はさらに言及したのである。
「木と火ですな」
「五行思想じゃな」
「はい、木は火によって燃えまする」
「うむ、では我等はか」
「織田を恐れる必要はありますまい」
「侮りはいかんが恐れもまたいかん」
 幸村はこの二つを戒めていた。そのうえで戦っているのだ。
 だからこそだ。十勇士達にも言ったのである。
「では。織田殿といえどもだ」
「恐れずにですな」6
「そのうえで」
「そして侮らぬ」
 このことも同時に言ったのだった。
「決してな」
「畏まりました、それでは」
「今より」
「うむ、行こうぞ」
 こうしてだった。準備をしてからだった。
 幸村と十勇士達は近畿に旅立った。そしてそこでだ。織田信長という男を見るのだった。


第七十三話   完


                     2011・12・30 
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