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戦国異伝

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第七十三話 近江掌握その一


                  第七十三話  近江掌握
 柴田と蜂須賀はだ。互いにだ。
 見合いそのうえでだ。言い合うのだった。
「では今よりじゃ」
「はい、今からですね」
「攻めるぞ」
「畏まりました。しかしです」
 蜂須賀は柴田のその厳しい顔を見て言うのだった。
「いや、権六殿は敵に回したくはないと思いました」
「急に何じゃ」
「こうして間近で見ると」
 柴田のだ。その顔をだというのだ。
「実に恐ろしいものでござる」
「待たぬか」 
 顔のことを言われて柴田はだ。
 その厳しい顔を怒らせてだ。こう蜂須賀に言った。
「わしの顔の何処が怖いのじゃ」
「ですから全体がでございます」
「おのれ、御主かわしを織田家の赤鬼というのは」
「それで牛助殿が青鬼ですな」
「牛助のことはともかくわしが何故赤鬼なのじゃ」
「ですから恐ろしいからでございます」
 伊達に鬼の柴田とまで言われている訳ではない。確かに彼の顔は怖い。特に戦の場においてはこのことはとりわけ目立つものだった。
 その柴田が真っ赤になって怒るその顔はだ。まさにだった。
 飛騨者のだ。大蛇とあや取りが言うのだった。
「確かに権六さんの顔ってそれこそだよな」
「じ、地獄の鬼」
「だよな。おいら権六さんが地獄にいても驚かないぜ」
「か、金棒が本当によく似合う」
「御主等まで何じゃ。わしはそんなに怖いのか」
「だから自覚してないのかね」
 風は今の柴田の言葉に少し呆れる様に笑って言った。
「権六さんの怖さは織田家でそれこそ屈指なんだよ」
「平手の爺さんの拳骨はもっと怖いけれどな」
 からくりは彼の名も出した。織田家の長老である彼のだ。
「まさに鉄より硬く炎より熱いだからな」
「平手殿に比べればわしは随分優しいと思うがのう」
 柴田はむっとした顔で飛騨者達に対しても言う。
「全く。何故いつも言われるのじゃ」
「あれでございましょう」
 雪斎がここでその柴田に言う。彼も他の今川の者達も参陣しているのだ。
 その彼がだ。柴田に言うのである。
「それだけ権六殿が親しみやすい方なのでしょうか」
「それはないのではないのか?」
 柴田は首を捻り雪斎に返す。
「鬼と言うのに何故親しまれるのじゃ」
「それは愛称というもので」
「愛称だというのか」
「左様です。それなのでしょう」
「ううむ、鬼が愛称とはのう」
 柴田はそう言われてもだ。納得しない顔でだ。
 そのうえでだ。彼は言うのだった。
「それはまた難儀なものじゃ」
「しかしどなたも権六殿を嫌ってはおりませぬ」
「だといいのじゃが」
「嫌われていれば誰も話しかけたりしませぬ」
「むっ、そうなるか」
「はい、そうなります」
 雪斎はまだ柴田に話す。
「ですから鬼と言われてもです」
「特に難儀に思うことはないか」
「そう思います」
「だといいのじゃがな」
「いやいや、権六殿の説教たるやです」
 ここで出て来たのは慶次だった。いつもの様にその大柄な身体を妙にひょうきんに動かしてだ。そしてそのうえで柴田に対して話をしてきたのである。
「まさにまず拳から」
「また御主か」
「しかし大抵はそこで終わります」
「どれだけ怒っても拳一発で終わらせるべきじゃ」
 口での説教もあるがだ。それでも柴田は確かにそれで終わらせる男だ。
 だからだ。慶次も笑顔で言うのである。
「あっさりとした方でございます」
「平手殿の様に口煩くともじゃ」
 また言う蜂須賀だった。彼は慶次と共に出て来ている。 
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