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戦国異伝

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第七十二話 六角との戦その四


「あ奴は米じゃとな」
「何故米なのでしょうか」
「欠かせぬものだからじゃ」
「成程、米は確かに」
「欠かせぬな」
「米がなくては何も出来ませぬ」
 中川もだ。佐久間のその言葉に頷く。そしてそのうえでだ。
 あらためて自分達の攻勢を見る。確かに三人衆は頑張っている。しかしだ。
 それ以上にだ。思いも寄らぬ奮戦を見せている者がいた。それはというと。
 細川だった。幕府からの客将である彼の指揮は無駄がない。地味だが。
 それを見てだ。佐久間は言うのだった。
「細川殿の戦ぶりもあれで」
「見事ですな」
「うむ、よくわかっておられる」
 戦がだ。そうだというのだ。
「公卿の方の様に思っていたがな」
「ですな。摂関家のご落胤だそうですし」
「それでもじゃ。やはり武家じゃな」
「はい、お見事です」
 その無駄のない動きで攻める細川だった。その彼の活躍もありだ。若田山城は順調にだ。攻めているのだった。
 箕作城ではだ。羽柴がだった。
 彼は丹羽と滝川が攻める直前にだ。こう進言したのである。
「まずは今より攻めてです」
「うむ、鉄砲を使ってじゃな」
「そのうえで兵達を寄せてじゃな」
 大体若田山城と同じ攻め方だ。二人はそれでいこうと考えていたのだ。
 だがその二人にだ。羽柴は言ったのである。
「いえ、確かに鉄砲は撃ち兵は動かしますが」
「攻めぬのか」
「兵達はあくまで寄せるだけで」
 それだけでだというのだ。
「今は攻めずにおきましょう」
「何かの陽動か?」
 それに気付いたのは滝川が先だった。
「そのうえでか」
「はい、夜に一気に攻めましょう」
「だから昼は騒ぐだけか」
「鉄砲を撃ち兵達が騒ぐだけです」
 あくまでだ。それだけだというのだ。
「そうして夜にです」
「一気に攻めるか」
 丹羽のだ。普段は穏やかな目が光った。
 そしてだ。彼は言うのだった。
「昼に騒ぎ城の兵達に夜はないと思わせてじゃな」
「そのうえで一気に」
「よし、ではそうしようぞ」
 丹羽もだ。羽柴の言葉に頷いた。こうしてだった。
 彼等はまずは鉄砲を撃ち兵を動かす。そうして城の兵達に攻めようとしている様に見せる。その動きを見てだ。城の兵達も実際に迎え撃とうとだ。城から弓矢を放つ。しかしだ。
 織田の兵達は弓矢が届く距離には近付かない。丹羽の指揮がそうさせていた。
「よいか、今はじゃ」
「はい、積極的にですか」
「攻めませぬか」
「敵の弓矢に当たらぬ場所におれ」
 そしてその場で騒ぎ攻める様に見せよというのだ。
「よいな、そうせよ」
「しかしそれではです」
「城は陥ちませぬが」
「それでもですか」
「そうじゃ。これでよいのじゃ」
 こう言う丹羽だった。そしてだ。
 滝川も丹羽の傍で同じ様にだ。派手に鉄砲を撃たせるがだ。
 あくまで撃つだけでだ。それは積極的なものではなかった。そうして朝から夕刻まで騒いだ。それが終わってすぐにだ。
 彼等は皆大飯を食った。常に羽柴と共にいる秀長が用意したものだ。
 その大飯を食う兵達にだ。羽柴は言うのだった。
「よいか、たんと食う様にな」
「では明日こそですか」
「派手に攻めますか」
「ははは、少し休むのじゃ」
 兵達にもだ。今は真意を隠していた。 
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