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戦国異伝

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第七十一話 羽柴秀吉その八


 その彼はだ。誰かかというと。彼の方から一礼して長政に述べた。
「徳川家康にございます」
「貴殿がですか」
「はい、浅井長政殿ですね」
「左様です」
 彼もだ。微笑みその家康に言葉を返す。
「おはつにお目にかかります」
「こちらこそ。ではこれからも宜しくお願いします」
「はい。それでは」
 まずは挨拶からだった。そうしてだ。
 家康はだ。笑顔でこう長政に話してきたのだ。
「お話は聞いております」
「それがしの、ですか」
「はい、二倍の六角殿の兵に勝たれたとか」
「あの戦のことでございますか」
「そうそうできるものではありませぬ」
 長政のだ。その武勇の話だった。
 そうしてだ。次にはだ。この話をしたのである。
「そして目を見させてもらいましたが」
「それがしの目をですか」
「孟子を。幼い頃信長殿から拝借し今は自分でも持っていますが」
 明の古い書、儒学のそれからの話だった。
「それに書かれていました」
「孟子ですか」
「孟子は御存知でしょうか」
「一度読んだことはあります」
 大名の嗜みとしてだ。読んでいたのだ。長政にしてもだ。
「そしてその書に書かれていることですか」
「人を見るにはその目を見よと書かれています」
「はい、確かにその記述がありました」
「それです。そうして見させてもらったのですが」
 長政の目からだ。長政自身をだというのだ。
「浅井殿は非常に澄んだ目をしておられます」
「そしてその澄んだ目がでござるな」
「そのまま浅井殿を映し出しています」
 そうだというのだ。他ならぬ彼をだ。
「非常によい御心を持っておられますね」
「だといいうのですが。しかしです」
「しかしとは」
「孟子のその記述に従い徳川殿の目を見ますと」
 彼の方からもだ。そうして家康を見たのである。
 彼のその澄んだ深い目を見てだ。長政は述べたのである。
「徳川殿も非常によい御心を持っておられるかと」
「ははは、それがしもですか」
「それがしはそう思います」
「だといいのですが。それがしの様な者が」
「義兄上が選ばれただけはあります」
 同盟者としてだ。共に生きることをだというのだ。
「まことにそう思います」
「いや、それは買いかぶりですぞ」
「それがしもそう思いませぬ」 
 にこりと笑いだ。長政は家康に返した。
「徳川殿だからこそです」
「信長殿が選ばれたというのですか」
「はい、そうです」
 まさにだ。そうだというのだ。
「そして我等は共に」
「はい、実はそれがしもです」
 家康はだ。どうかというのだ。自分自身で。
「野心とかそういったものはです」
「ありませんか」
「興味がありません」
 そうだというのだ。
「今の状況で満足しています」
「三河と遠江で」
「いや、徳川殿ならばより多くのものが手に入るでしょう」
「ははは、そうであってもそれはいりませぬ」
「百万石に相応しい方かと」
「百万石、それは幾ら何でも」
「いえ、それがしも目には自信があります」
 だからこそだというのだ。長政もだ。
 そしてだ。彼はまた言うのだった。 
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