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戦国異伝

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第七十一話 羽柴秀吉その四


 浅井の藍、それに徳川の黄も加わった。その三色の軍を見てだ。
 林がだ。満足そうに弟に述べた。
「見事なものじゃな」
「そうですな。織田の青だけではなくです」
「そこに浅井の藍と徳川の黄も加わった」
「その軍合わせて六万です」
 通具の言葉もだ。実に満足そうなものだった。
 弟のその満足している声を聞いてだ。林はまた言うのだった。
「既に近江の南には人を送っておるしな」
「では近江の国人達もまた」
「次々と我が軍に加わる」
 そうなるというのだ。
「そして六角の直臣達も動揺するじゃろうからな」
「そこに揺さ振りをかけますか」
「そうしたことなら得意じゃ」
 林の得意とするものはこうしたことだった。それでだ。
 弟にもだ。こう言うのである。
「既に殿からお話が出ているしな」
「ではそれがしもですか」
「そうじゃ。近江の国人達の懐柔を進めていこうぞ」
「では。我等が進めば進むだけですな」
「兵が増える」
 そうなるというのだ。
「よいことじゃ」
「そうですな。しかし問題は」
「うむ、観音寺城じゃ」
 それまで意気揚々だった林の顔が急に強張る。そうしてだ。
 弟にだ。これまでとはうって変わってだ。深刻な顔で述べたのである。その述べた言葉は。
「あの城は陥とすのは容易ではない様じゃな」
「そうですな。それは」
「あの城もまた堅城じゃ」
 織田家が今拠点としている岐阜城、かつての稲葉山城と同じくだというのだ。
「それをどう攻めるかじゃがな」
「そのことについてはやはり」
「半兵衛じゃな」
「あの者の知恵を見せてもらいましょうか」
「本朝の張子房じゃな」
 明の古の頃の軍師だ。その彼を引き合いに出しての言葉だった。
「その知恵で。あの城をどう陥とすかじゃが」
「果たしてどういった知恵を出すか」
「問題はそこじゃが。さて」
「さてとは?」
「半兵衛の策は確かに凄いものじゃ」
 そのことは林も認める。それだけ彼の軍略は見事なのだ。
 そしてそれ故にだとだ。彼は弟に話すのだった。
「それを見せてもらうか」
「左様ですな。それでは」
「織田家には実に人が揃ってきておる」
 林は今度はこんなことを言った。
 そのうえでだ。合流を終えまた出発しようという軍勢を見てだった。
「もう天下の軍になってきておるわ」
「では殿はこのままですか」
「天下を手に入れられるのう」
 楽しげに微笑み言ったのである。
「まさにじゃ」
「最初殿が天下を目指されると言われた時は驚きました」
「ははは、それはわしもじゃ」
 そのことについてはだ。林もだ。
 顔を崩して笑ってからだ。こう弟に述べたのである。
「あの頃はまだ尾張の一部しか手に入れておらんかったからな」
「しかし大殿が亡くなられすぐに兵を挙げられ」
 そこからはまさに電光石火だった。瞬く間にだ。
「いや、もうここまで話が進むとは」
「思わなかったわ」
「しかもただ土地を多く手に入れただけではありませぬ」
「政もじゃ」
 それも非常によく収まっていた。織田家はまさに天下随一の家になっていた。
 そうなるまでのことを振り返りつつだ。林は話す。そうしたのである。
 そしてだ。その二人のところにだ。幸田が来たのである。そのうえで二人に告げた。
「御二人共そろそろです」
「うむ、出発じゃな」
「合流も終えて」
「はい、殿の御命令です」
 そのだ。総司令官である信長のだというのだ。 
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