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戦国異伝

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第七十一話 羽柴秀吉その一


                    第七十一話  羽柴秀吉 
 木下は休憩の時にだ。傍らにいる秀長に話した。
 二人は今握り飯を食っている。そうしながらの話だった。
「ねねはじゃ。こんなことを言ったのじゃ」
「義姉上が何と」
「うむ。どうせじゃから誰かにあやかってじゃ」
 そうした名はどうかというのだ。
「そしてじゃ。縁起も担いではどうかとな」
「誰かにあやかり縁起もですか」
「そうじゃ。随分と難しいことを言ってきたわ」
 さしもの木下も今は困った顔になっている。だからこそ相談役の弟に今話しているのである。
 その話を聞きだ。秀長もだ。
 考える顔でだ。こう兄に言った。
「どなたかにあやかるとなるとです」
「うむ、どういった名がよいかのう」
「家臣の方のどなたかの御名前を拝借すればどうでしょうか」
 こう兄に言ったのである。
「それではどうでしょうか」
「ふむ、我が家のか」
「そうです。それはどうでしょうか」
「ふむ。いい考えじゃな」
 妻の言葉を思い出しつつ弟の言葉を聞きだ。そうしてだ。
 彼はこうだ。その弟に話すのだった。
「ではじゃ。柴田殿と丹羽殿はどうじゃろうか」
「その御二人ですか」
「織田家の武といえばやはり柴田殿じゃ」
 誰もが認めることだった。主の信長も含めて。
「佐久間殿もおられるがな」
「そうですな。攻めるとなればやはり柴田殿ですな」
「かかれ柴田じゃ。権六殿にそれで勝てる者はおるまい」
「はい、それでまずは柴田殿ですな」
「あの方の武勇にあやかろうぞ」
 真剣な顔でだ。木下はまず彼にあやかることを述べた。
 そしてだ。次の丹羽についても話すのだった。
「そして丹羽殿じゃが」
「あの方にされた理由は」
「あの方は一見地味じゃがここぞという時に大事なことを為される」
 丹羽のそうした縁の下の力持ちを見てのことだった。
「それでじゃ。五郎左殿にもあやかりたいのじゃ」
「丹羽殿の様にもですか」
「あの方もまた織田家の柱じゃ」
 柴田と並ぶだ。そうだというのだ。
「四天王を選べとなるとまず入られる方じゃな」
「織田家で四天王といいますと」
 それを聞くとだ。秀長はすぐに述べた。
「権六殿に久助殿、そして五郎左殿ですな」
「間違いなく三人は決まるのう」
 他にも四宿老がいるとされている。こちらは平手を筆頭に柴田、佐久間、林とされている。どちらにしても柴田が入っていることが織田家における彼の重要さを示していた。
「そして最後の一人にはじゃ」
「兄上がですか」
「そうなりたいものじゃ。だからじゃ」
 それでだ。あやかるというのである。
「そういうことじゃ。では決まりじゃな」
「はい、では権六殿と五郎左殿で」
「それでどういった名にするかじゃな」
 二人にあやかると決めてもまだだった。決めるべきことがあった。
 そのことについてだ。木下は弟にこんな名前を出した。
「柴羽ではどうもいかんな」
「それは縁起としては」
「ならんな。言うにしても呼ぶにしてもしっくりいかんな」
「そうですな。しかしそれを逆にされてはどうでしょうか」
 柴と羽をだ。逆にしてみればどうかというのだ。
 そしてここでだ。秀長は言った。
「羽柴になりますがこれは即ちです」
「橋場じゃな」
「はい、橋の場、即ち土地と土地をつなぎ人を行き来させるものです」
「よいではないか」
「はい、それではですね」
「それでいこう」
 楽しく笑ってだ。木下は述べた。
「わしの名前は今から羽柴秀吉じゃ」
「五郎左殿と権六殿、それに」
「橋場じゃ。これでよいわ」
 こうだ。満面の笑顔で言うのである。 
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