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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百三話 キラ=ヤマト

               第百三話 キラ=ヤマト
プラントの連邦政府への宣戦布告はそれだけではなかった。必然的に攻撃を仕掛けてきたティターンズとも戦争になり、そしてネオ=ジオンもまたナチュラルである為プラントは敵視していた。戦いはそのまま四つ巴になろうとしていた。
その中でプラントはすぐに作戦に移ろうとしていた。総動員令がかけられ既に作戦が発動されていた。
「オペレーション=ウロボロスか」
「はい」
パトリックはシーゲルと二人で議長室にいた。
「決定は議会の総意です」
パトリックはシーゲルに対して言う。
「今更覆すことは許されませんぞ、クライン議長」
「それはわかっている」
それは議長である彼が最もよくわかっていることであった。頷くしかなかった。
「我々は自由と独立を自らの手で勝ち取るのです」
「だが」
それでも彼にはまだ迷いがあった。考える余地があったのだ。
「議長」
しかしパトリックはそんな彼にさらに言う。
「地球連邦政府が我々に何をしたか忘れたのですか!?」
血のバレンタインではない。今までのことだ。
「政府は我々が黙殺することは我々が権利を有する一個の人間とは認めていないことの証ですぞ」
「しかしだ」
シーゲルは反論する。
「それでも我々はナチュラルと共存してきた」
「だが、それも終わりです」
しかしパトリックはそれを切り捨てる。
「今後の連邦の政策は、我々に忍従と隷属を強いるものです」
「果たしてそれも」
「わからないと仰るのですか?」
「確かに三輪長官の様な人物もいる」
「はい」
彼の出鱈目さはプラントにも知れ渡っていた。
「だが。彼だけではない」
シーゲルにはそれがわかっていた。
「ミスマル司令やイゴール長官は話がわかる人物だという。それにロンド=ベルは」
「我々の為に戦ってくれましたな」
「そうだ、ティターンズと」
「しかし彼等と同じ連邦軍は我々に攻撃を仕掛けてきた」
「あれはブルーコスモスの陰謀ではないのか?」
「確かにそれもあるでしょう」
パトリックはそれを認めた。
「しかし連邦軍が我々に攻撃したという事実はどうなりますか」
「どうなる、か」
「そうです。あれは紛れも無く殲滅を意図したものです。違うでしょうか」
「その指揮官はサザーランド提督だったな」
「はい」
「だがその彼は今行方を絶っている」
「ティターンズの差し金だと」
「そうだ。ならば我々はティターンズとだけ戦えばいいのではないのか」
「甘いですな」
しかしパトリックはそれを吐き捨てた。
「甘いか」
「そうです。実際にナチュラルの間には我々の存在を知り、排除しようという動きが出ております」
「それは知っているが」
「ならば議長」
パトリックの声が強くなる。
「ナチュラルとコーディネイターは共に生きていると仰るつもりか?」
「それは」
「確かに我々はこのプラントで独自の生活を営み連邦政府とは接触してきませんでした」
「そうだ。だがこれからは」
「友好的な政策なぞ最早甘い幻想に過ぎません」
「甘い幻想か」
「血のバレンタイン」
「パトリック」
「あの中には私の妻もいたのだ」
声に微かに沈痛なものが篭もっていた。
「私にとって妻は」
「気持ちはわかるが」
「いい妻だった。私なぞには勿体無い位のな」
彼は愛妻家として知られていた。若い頃から相思相愛であり、一児ももうけていた。だからこそ彼は今ナチュラルに対して激しい憎悪を抱いていたのだ。
「無論これは私の私情では済まない。他にも多くの同胞が」
「それを考えるとか」
「そうだ。シーゲル」
パトリックは彼の名を口にした。彼等は長い間の親友同士でもあるのだ。
「矢は放たれたのだ」
「放たれたか」
「そうだ、我々コーディネイターが生き残る為に」
彼は言う。
「オペレーション=ウロボロスを発動するぞ」
「・・・・・・わかった」
最早こうなっては止めることはできなかった。戦乱の歯車はまた大きな音を立てていた。ザフト軍は即座に地球圏に向かい降下を開始した。その頃連邦軍は地上ではミケーネ軍、宇宙ではネオ=ジオン、ホラー軍団等に兵を割かざるを得ず、ザフトには向かえなかった。その結果北アフリカ、赤道を中心としてザフトの侵入を許すことになってしまったのであった。
この動きはティターンズも知っていた。ジャミトフ達はそれをゼダンの門から見ていた。
「面白いことになってきましたね」
アズラエルとジブリールはジャミトフとバスクにそう話していた。
「ザフトの地球侵攻がか」
「はい。これで地球はさらなる混乱に陥ります」
「また我等が動けると」
「そうです。それで提案したことがあるのですが」
「何だ?」
四人は空中に漂う椅子に座り互いに向かい合っていた。ジャミトフはその中でアズラエルに問うた。
「また。地球に侵攻するのです」
「地球にか」
「そうです。今連邦軍は戦力が足りません」
多くの敵に戦力を割いているのを見過ごしていなかった。
「今が好機です」
「それで何処に降下するのだ?」
「既に赤道等はザフトに抑えられているぞ」
バスクが注文をつけてきた。
「北極はどうでしょうか」
ジブリールが口を開いた。
「北極か」
「はい。あそこならばユーラシアにもアメリカ大陸にも影響を及ぼすことができます」
「戦略的に実に都合がいいですが」
「ふむ」
「如何でしょうか」
「よし」
ジャミトフはそれに頷くことにした。
「ならばそれをやってみせよ」
「はい」
「ブルーコスモスの兵だけでは足りないだろう。我々の兵も貸す」
「有り難うございます」
「それではすぐにでも」
「ところでだ」
ジャミトフはまた聞いてきた。
「何か?」
「先の戦いで三機のガンダムを使っていたな」
「はい」
ジブリールがそれに応える。
「あれが何か」
「あのガンダムはブルーコスモスで開発されたものだな」
「左様です」
「他にも三機開発中です」
アズラエルとジブリールはそれぞれ答えた。
「そうか」
「これ等のガンダムでザフトも連邦も蹴散らして御覧に入れます」
「あの三機は戦術兵器ですが今開発中の三機は」
「違うというのだな」
「そうです、戦略兵器です」
アズラエルはバスクの言葉に不敵に笑みを返してきた。例えジャミトフ、バスクの前であろうとも臆してはいなかったのだ。
「一機で戦場の趨勢を決することができます」
「それを三機しかも」
「しかも?」
「サイコガンダムがありましたね」
ジブリールが言った。
「あれか」
バスクが頬を動かした。ティターンズで開発された恐るべきモビルアーマーであった。かってフォウ=ムラサメが乗っており、カミーユが彼女をその呪縛から解き放ったのである。マークツーもまたロザミア=バダムが乗っており彼女もまたカミーユに救われている。
「あれからヒントを得た巨大ガンダムも三機開発中です」
「それ等のガンダムを中心として地球圏を攻めるのだな」
「はい」
「その予定です」
「では思う存分やってみるがいい」
「吉報を待っているぞ」
「わかりました」
「それではすぐにでも」
「連邦軍宇宙軍はこちらが引き付ける」
バスクが彼等に言った。
「降下の際は安心しておけ」
「はい」
こうしてティターンズの次の作戦は決まった。再度地球に降下し北極圏に勢力を築くことになった。アズラエルとジブリールはすぐにジャミトフ達の前から姿を消した。ジャミトフは二人がいなくなってからバスクに声をかけてきた。
「どう思うか」
「あの二人ですか」
「そうだ。何処で切ればいいと思うか」
「ザフトを潰すまででしょう」
バスクは素っ気無くこう述べた。
「どうせそれまでに毛躓いています」
「そうだな」
「その後で。ロンド=ベルかネオ=ジオンにでも向けて捨石とすればよいです」
「所詮はその程度の連中だな」
「自分達はそうは思っていないようですが」
「我々を利用していると」
「そう思っているのでしょう」
「滑稽な話だな」
「自分達こそが利用されているとも知らずに」
「だが。かえって利用し易い」
「はい」
「全くの無能よりも小才の利く駒の方がな。精々使わせてもらおう」
「はっ」
「だが地球へは主力を向ける」
「主だったエース達もですな」
「そうだ。彼等にも召集をかけておけ」
「はっ」
「これでもう一度地球圏の覇権を握れればそれに越したことはないしな」
ジャミトフもバスクもブルーコスモスを徹底的に利用するつもりであった。それはブルーコスモスも同じだったが彼等よりもジャミトフ達は政治を知っていた。役者が違ったのであった。
「さて」
ジブリールは自室で黒猫を前に酒を飲んでいた。
「行くか、地球に」
「ニャーーーー」
黒猫は可愛い声で鳴いた。ジブリールはそれを見て目を細めるのであった。
ティターンズもまた地球に降下することになった。ジェリドやヤザンといったエースパイロット達が総動員されることになった。
「聞いたか、ジェリド」
「ああ」
ジェリドはカクリコンに応えていた。
「今度は北極なんだってな」
「そうだ」
「で、指揮官は誰だ?またダニンガン少佐か?」
「いや、ダニンガン少佐はこのゼダンに留まるらしい」
「そうか」
「じゃあ誰なんだ?」
ダンケルがカクリコンに問う。
「ブルーコスモスの連中らしいな」
「ブルーコスモスか」
ジェリド達は彼等の名前が出て顔を曇らせた。
「大丈夫かい」
まずはライラが言った。
「単なる企業家が戦争の指揮を採っても」
「さてな」
カクリコンは突き放した様に返した。
「若しかするとあのダニンガン少佐よりも凄い戦略を見せてくれるのかもな」
「おいおい、それはかえって凄いぞ」
ラムサスがカクリコンの言葉を聞いて言う。
「あれより上だとは」
「下ではなく、か」
ドレルがそれに突っ込みを入れる。
「ベクトルが違うのさ」
「ううむ」
ヤザンの言葉に顔を顰めさせる。
「どちらにしろ。まともな戦略を立てるとは思えないな」
ザビーネが顔を顰めさせる。
「下手をすればまた地球から撤退か」
「勘弁して欲しいね、現場の人間としちゃ」
クロノクルとファラが言った。
「まあ、生き残るつもりはあるけれどね」
「私はどうなってもいいわ」
カテジナだけは違う意見であった。
「戦えればね」
「そうなの」
「ええ、そうよ」
マウアーの問いにも考えは変わらない。
「特にウッソとね」
「いいねえ、その剥き出しの感情ってやつは」
ヤザンはそんなカテジナを見て笑みを浮かべた。
「俺も戦いは好きだからな」
「ヤザン、じゃああんたはこの作戦乗り気なんだね」
「奴等は好きじゃねえがな」
ライラに答える。
「一般市民なんざ狙っても意味ねえだろ」
「そうだね」
「どっちみちあの連中は大した奴等じゃない。そのうち自滅するさ」
「冷静に見ているんだな」
「おいおい、ジェリド」
ヤザンはジェリドにも返す。
「御前だってこの程度のことはわかるだろ」
「まあな」
実はジェリドもそう見ていた。
「あのアズラエルって奴は。自分が思っている程優秀じゃないな」
「体よく言えば馬鹿だな」
「全然体よくじゃないね、それは」
「あれを馬鹿って言わなかったら何を馬鹿って言うんだよ」
ファラに言い返す。
「お手並み拝見ってとこだな。危なくなったら適当な理由つけて逃げればいいしな」
「だが奴等は最早ティターンズの最高幹部だぞ」
カクリコンが付け加える。
「それは忘れるな」
「そこは要領よくやればいいさ。じゃあ行くか」
「ああ」
ティターンズのエース達もブルーコスモスと共に戦場に向かうことになった。だが彼等はアズラエル達を全く信用してはいなかった。信用どころか馬鹿にしているのが現状であった。
ザフトとティターンズが動き出していたその頃ロンド=ベルはオーベースにて混乱していく戦局の中でどうすべきか模索していた。
「既にザフト軍が地球に入った」
「そしてティターンズもまた」
「プラントはネオ=ジオンにも宣戦を布告した」
「状況は刻一刻と悪くなっているな」
だが彼等はどうすべきか掴みかねていた。今一つ敵が掴めないでいたのだ。
「ったくよお、どうなってんだよ」
ケーンがそんな戦局を見てたまりかねたように言った。
「折角ドレイク軍もドクーガもガイゾックもギガノスもオルバンもやっつけたってのによ」
「ここにきてザフトですか」
ジョルジュの顔も晴れてはいなかった。
「新しい敵なんてね。避けたかった敵が」
ジュンコも苦い顔をしている。
「そして彼等がまた地球へ。ネオ=ジオンも向かっているそうだ」
「じゃあこんなところで悠長なこと言っていられねえぞ」
宙が言う。
「さっさと敵を一つでも始末しねえと」
「だが敵は彼等だけではないのだよ」
大文字がそんな宙に言った。
「暗黒ホラー軍団もいる」
「奴等が」
「そうだ。まずは彼等を何とかしておきたい。まずは外からの脅威だ」
「けどよ、こうしているうちにザフトが」
「そのザフトは今新造戦艦やモビルスーツを次々と就航させているそうですね」
シーブックが言った。
「その中にはガンダムもあるとか」
「ガンダム」
「はい。何でもインパルスガンダムというそうです」
「一体どんなガンダムなんだ?それは」
「何かコアファイターの機能も持つ多目的のガンダムみたいですね」
「ブイガンダムみたいなものですか?」
それにウッソが問う。
「近いらしいな」
「へえ」
「ただ、エネルギーを母艦から供給できるらしい。それでかなりの戦闘時間を誇るらしいな」
「何だ、エステバリスと似てるな」
それを聞いたダイゴウジが気付いた。
「そういえばそうですね」
アキトもそれに頷く。
「何か似ていますね」
「そのパイロットはシン=アスカというらしい」
「シン=アスカ」
「ザフト軍じゃトップクラスのエースらしい。だが彼は地球には来ていない」
「じゃあ何処に」
「聞いた話じゃザフトの新造艦ミネルバに配置されているらしい。ミネルバは俺達に向かっているそうだ」
「エースをエースにぶつけるということだな」
「多分」
シーブックは今度はクワトロに応えた。
「他にもヴェサリウスという艦艇も向かっているそうです」
「そっちはどうなっているんだ?」
アムロが問うた。
「またガンダムがいるのか?」
「そっちにはガンダムはいないみたいですね」
「そうか」
「ただ、そちらにもザフトのエースが何人も乗っているそうです。ですから数は少ないですが」
「手強いか」
「はい」
シーブックは頷いた。
「油断は出来ないです」
「何だよ、ザフトは小さいから数は少ないと思ったのによ」
「少数精鋭とはまたやってくれるね」
タップとライトが言った。
「だがガンダムを開発しているとはな。油断できない」
「他のガンダムも開発しているかも知れませんね」
「それは否定できないわね」
エマがカミーユに応える。
「既にガンダムを開発しているんだから」
「はい」
「そういえば今ヘリオポリスで開発されているっていう五機のガンダムはどうなったんだ?」
コウがガンダムと聞いてふと思い出した。
「あれは確か俺達に配備されるんだったよな」
「はい、確か」
クリスが答える。
「その予定の筈ですけれど」
「それだったら今ヒイロ達が受け取りに言っているわ」
シモンが言った。
「彼等がか」
ギャブレーがそれを聞いて呟く。
「あの五人だったら大丈夫だと思うわ」
「そうだな。こうした仕事にはヒイロ達が最適だ」
ニーがそれに頷く。
「新しいパイロットも配属されるでしょうし少しは戦いが楽になるわね」
「そうね」
セシリーがファの言葉に応じる。彼等は彼等で激しい戦いの中に身を置いており少しでも余裕が欲しいのであった。
そのヘリオポリス。ここはオーブが所有する資源開発コロニーである。ここに今二隻の戦艦が近付いてきていた。
「第一外装剥離、減速四マッハ」
密かに報告があがっていた。
「角度良好、強制冷却停止まで二十八秒。空力制御開始」
「アルファワンより各機」
見れば変わった形のモビルスーツが展開していた。
「薬室の装填を確認」
「ブラボーツー」
「チャーリースリー」
「デルタフォー」
「第二外装剥離」
「よし」
それを聞く仮面の男が満足そうに頷いた。
「どうやら気付かれてはいないようだな」
「そうですね」
モニターに現われた金髪の美女がそれに応える。見れば彼女もザフトの指揮官の白い軍服である。
「全ては順調です」
「では予定通り私の部隊が突入する」
「はい」
「貴官の部隊及びミネルバはコロニー周辺の警戒及び脱出経路の確保を頼むぞ」
「わかりました」
彼等はコロニーへ近付いていく。戦いが間も無くはじまろうとしていた。
「ところでその五機のガンダムですけれど」
ヘリオポリスの中には既にカトル達が潜入していた。彼は側にいるトロワ達に声をかけていた。
「僕達が操縦することになるんでしょうかね」
「いや、どうやら違うらしいな」
ウーヒェイがそれに答える。
「そうなんですか」
「俺達とはまた違うパイロットが乗るようだ」
「へえ」
「あれか?所謂補充兵ってやつか」
「そうらしいな」
デュオにはトロワが答えた。彼等は五人並んでヘリオポリスの街中を歩いていた。なお服装は普段のままである。
「人員も足りていなかったからな」
「激戦に次ぐ激戦だからな。腕利きをゴマンと欲しいな」
「一人でもやればいい」
「ヒイロ、おめえはまた特別なんだよ」
「弱い奴が幾らいても話にはならん」
「ウーヒェイも相変わらずですね」
「だが心配のし過ぎだな」
ここでトロワが言った。
「何でだよ」
「仮にもロンド=ベルに配属だ。最前線に立つパイロットにそうはまずい奴はいない」
「そんなものかね」
「まあ期待していましょうよ」
カトルが締めくくりにきた。4
「どんな人達が来てくれるのかね」
その頃ヘリオポリスには連邦軍の一隻の戦艦が入港していた。見ればかってのホワイトベースを彷彿とさせるシルエットである。
「軸線修正、右六コンマ五一ポイント」
艦橋とCICで通信が行き交う。
「進入ベクトル良好」
「制動噴射停止、電磁パケットに制御を移管する」
「減速率二・五六、停船する。待機せよ」
艦が入港した。そして停泊する。
「これでこの船の任務もまずは終了だ」
その指揮にあたる艦長が言った。
「君も護衛の任御苦労だったな」
そして隣に立っている連邦軍の軍服の男に顔を向けた。金色の髪を持つ美男子であった。
「ムウ=ラ=フラガ大尉」
「いえ、航路では何もなく幸いでありました」
ムウはそれに応えて言った。
「あと周辺にザフト艦の動きは?」
「あの二隻か」
「はい」
「ここまで追っては来ないようだな。ここは一応中立勢力だしな」
「一応、ですか」
「そうだ」
艦長はムウに応えた。
「それで先に向かわせたマリュー=ラミアス大尉とパイロット達はどうしていうか」
「既にチェックを開始しているようです」
「そうか」
艦長はその報告を聞いて安心したように頷いた。
「それは何よりだ」
「しかし彼等だけ向かわしてよかったのですか?」
「どういうことかね?」
「ザフトの工作員ですよ」
ムウは言った。
「彼等が狙っている可能性も」
「いや、それはないだろう」
だが艦長はそれを否定した。
「ここは形式とはいえ中立だぞ。まさかそんなことは」
「だといいですけれどね」
「まあ君は今は身体を休めてくれ」
「いいんですか」
「ああ。ロンド=ベルからの護衛も来ているという。今はとりあえずは休んでくれ」
「わかりました。それじゃあ」
「うむ」
ムウは自室に帰った。そしてこの艦艇は入港しその身体を休めるのであった。
ヒイロ達もいるヘリオポリス市街。今ここに一組のカップルが歩いていた。
一人は茶色の髪の少年、もう一人は少年と同じ茶色の大きな瞳を持つ少女であった。二人は並んで何処かに向かって歩いていた。
その二人の横の電気屋のテレビが放送をかけていた。
「再び活動を活発化させたティターンズは地球に向かっており」
男のキャスターがニュースを伝えていた。
「ネオ=ジオンもまた動きを速め」
「地球に降下したザフトは北アフリカを中心に侵攻を続け」
別のテレビでは女のキャスターがニュースを読んでいる。
「またバーム星人との講和は」
「暗黒ホラー軍団は」
「何か一向に平和にならないよな」
「本当ね」
少女は少年の言葉に憂い気な表情を作った。
「このヘリオポリスは平和だってのに」
「一応はね。けれどティターンズがいるのよ」
「そうか、奴等が」
「暗黒ホラー軍団なんてのもいるし。おまけにザフトまで」
「やけに物騒なんだな、宇宙も」
「そうよ、だからここも安全じゃないわよ」
「そうか」
「そういうこと。だから気をつけないと」
「そうだな」
だが彼等はまだ平和な暮らしを行っていた。その証拠にテレビのニュースを聞いてもまだ不安な顔になるだけで済んでいたからである。
「で、キラは?」
「ここにいると思うけど」
二人は学園の校庭まで来た。そこで誰かを探す。
「あっ、いたいた」
「ねえキラ」
「あっ、トール、ミリアリア」
茶色の髪の中性的な容姿の少年がそこにいた。見ればベンチに座って機械の緑色の小鳥を膝に置きノートパソコンを覗いていた。
彼の名はキラ=ヤマト。この学園の学生だ。そして彼に声をかけたおは彼の友人であるトール=ケーニヒとミリアリア=ハゥ。三人は同じ工学部のカレッジの学生なのだ。
「こんなとこにいたのかよ。カトー教授が御前のこと探してたぜ」
「またぁ?」
キラはそれを聞いて困った顔になった。
「見掛けたらすぐ引っぱって来いって言われたのよ」
「すぐにって」
「またなにか手伝わされてるの?」
「まあね」
キラは困った顔のまま答えた。
「昨日渡されたのだってまだ終わってないのに」
「まあそう言うなって」
トールはそう言って彼を宥める。
「頼りにされてるって証拠だろ?将来有望だから」
「そうかなあ」
「まあぼやかないの。さっ、行きましょう」
「うん。行こう、トリィ」
「チチチ」
三人と機械の小鳥は一旦学園から出た。そしてまた市街を歩く。その遠くから女の子達の声が聞こえてくる。
「だからそういうんじゃないんだってば」
その中心にいる紅い髪を後ろで束ねた少女が友人達に説明していた。背も高く、容姿は友人達より一際際立っている。はっきりとわかる美しさであった。
「嘘でしょ、そんなの」
「本当のこと言ってよ」
「だからさ。あっ」
「どうしたの?」
ここでッ少女は前から来るキラ達に気付いた。
「あれ?ミリアリア」
「あら、フレイ」
ミリアリアがまず少女に気付いた。
「どうしたの?学校?」
「今日は休講なのよ」
「へえ」
「それでね」
「ねえミリアリア」
この少女フレイ=アルスターの友人達が彼女に声をかけてきた。
「ミリアリアなら知ってるんじゃない?」
「何を?」
だが彼女はキョトンとした顔であった。
「フレイったらね」
「ええ」
「ちょ、ちょっと」
フレイは慌てて友人達の言葉を遮ろうとする。だがそれは適わなかった。
「この娘ったら、サイ・アーガイルに手紙貰ったの」
「えっ?」
キラはそれを聞いて驚きの声をあげた。
「それ本当!?」
「ええ本当よ」
友人達はキラに答える。
「元々親同士が決めた許婚だったじゃない」
「そういえばそうだったな」
トールがそれを聞いて思い出したように言う。
「今まで忘れてたけど」
「だったら別に不自然でも驚くことでもないじゃない」
「だからそういう問題じゃなくてね」
友人達はおかしそうに言う。
「サイが本当にフレイのことを」
「好きなんだってことが」
「あんた達もういい加減に!」
フレイは顔を真っ赤にしていた。それを道から見る一台の車があった。車はキラ達の側を通り過ぎる。その中で黒い髪の若い女性がキラ達を横目で見て呟いた。
「何とも平和なことだな」
「そうですね」
車を運転する若い男がそれに応えた。
「あのぐらいの歳でもう前線に出る者もいるというのに」
「ロンド=ベルですか」
「彼等だけではない。ザフトにしろ」
「ザフトも」
「少年兵が多く配属されている。それに対してここは」
そんな話をしながら車は通り過ぎる。その頃ザフトでも動きがあった。
ヴェサリウス艦内。今ここにザフトのトップガン達が集まっていた。
その中の一人アスラン=ザラ。彼は真剣な顔で出撃準備にあたっていた。
「どうした、アスラン」
イザークが彼に声をかける。
「イザーク」
「緊張しているのか?御前らしくもない」
「怖いのか?」
ディアッカも声をかける。
「たかだかコロニー潜入でよ。ガンダム強奪するだけじゃねえか」
「いえ、それは違いますよ」
ニコルがディアッカに注意する。
「これは危険な任務ですよ。オーブは中立勢力だと思わない方がいいです」
「ニコル」
「おいおい、そりゃまた心配し過ぎなんじゃねえの?」
「そうだ、ニコル貴様怖気付いているのか」
「僕は別に」
「シホ、御前はどうなんだよ」
「私は」
ディアッカはイザークの横にいる黒く長い髪の少女に声をかけてきた。
「赤服として怖気付くなんて恥ずかしいよな」
「いや、それは違うな」
「隊長」
そこにクルーゼがやって来た。
「ニコルが正しい。今回の作戦が持つ意味は大きいぞ」
「そうなんですか」
「そうだ。その為に我々は君達を使うのだ」
「俺達を」
「ザフトきってのトップガンをな。それも何人も」
「俺も入れてですね」
ハイネもそこにやって来た。
「そしてシン=アスカも」
「あいつまで来ているのか」
「来ているのは彼だけではないがな」
クルーゼはイザークに応えた。
「ルナマリア=ホークにレイ=ザ=バレルもいる」
「あの二人も」
「彼等の名前だけでどれだけ重要な作戦なのかはわかってもらえると思うが」
「そうだな」
ディアッカが頷く。
「ザフトのエースが勢揃いだからな」
「この作戦で戦局が変わるのですね」
「その通りだ」
クルーゼはシホに返す。
「諸君等の肩にザフトの命運がかかっている。大いに期待しているぞ」
「はい!」
彼等は敬礼した。そしてそれぞれ出撃したのであった。
「あっ、来たか」
教授に呼ばれたモルゲンルーテ研究所に行くともうキラの友人達が二人いた。金髪の眼鏡の少年がサイ=アーガイルでもう一人黒い髪のスソを短く切った少年がカズイ=バスカークである。
「何かあるの?」
「ああ、教授から頼まれことだよ」
サイは研究所に入って来たキラに声をかける。トールとミリアリアも一緒である。
「これな」
サイは一枚のディスクをキラに手渡す。
「昨日渡しそびれていたやつらしいよ」
「そうなんだ。!?」
キラはここで部屋にもう一人いるのに気付いた。緑の帽子を被った金色の髪の少年だ。
「あの人は?」
「教授のお客さんだよ」
サイが説明する。
「ここで待ってろって言われたらしいんだ」
「へえ」
「何か見ない顔だな」
トールが少年の顔を見て言った。
「そうね。うちの生徒じゃないみたい」
「まあお客さんなら特に気にすることないじゃない。それよりもさ」
「教授だよな」
「何処に行ったんだろうな。折角キラが来たのに」
「待っていようか、御茶でも飲みながら」
「君もどう?」
「私はいい」
少年はキラの誘いを断った。
「そう」
「それじゃ御茶入れるわね」
「ああ」
皆はミリアリアの入れてくれる御茶を飲み、お菓子を食べはじめた。そして時間を潰していた。
ザフトの工作員達はさらに潜入していく。遂にはモビルスーツまで入って来た。
「なっ!?」
「ザフトのモビルスーツ!?そんな」
研究所の中で作業をしていたつなぎの作業服を着たブラウンの髪の美女が驚きの声をあげる。見れば見事なプロポーションの持ち主だ。
「マリュー=ラミアス大尉!」
そこに作業服の男達が来て彼女に声をかける。
「ザフトの工作員と思われる者達の攻撃を各地で受けています!」
「何ですって!?」
「既にバスター、デュエル、ブリッツを奪われました!」
「クッ!」
「そしてこちらにもやって来ます!」
「とりあえずは応戦よ!」
彼女は指示を下した。
「そしてその間にストライクとイージスを運び出すわ!いいわね!」
「了解!」
彼等は連邦軍の者達だった。すぐに応戦態勢を整えたのであった。学園内に警報が鳴り響く。
「!?」
「どうしたんだ!?」
それを聞いてキラ達も顔をあげた。
「とりあえず避難の警報だよな」
「出るか」
彼等はまだ平穏としていた。席を立つとキラが少年に声をかけた。
「君も」
「ああ」
彼等は纏まって避難所へ向かう。そこではもう避難誘導が行われていた。
「何だこりゃ」
トールがそれを見て声をあげる。
「何があったんですか?」
「ザフトのモビルスーツが侵入して来たんだよ」
誘導員がサイに答える。
「!!」
それを聞いた少年の顔が一変した。驚愕の顔色になる。
「ザフトが!?」
「どうして」
「とにかく今は君達も避難した方がいい。刻は一刻を争うぞ」
「はい」
「それじゃあ」
「くっ!」
だが少年はそれに従わず何処かへ走って行く。
「あっ君!」
「何処へ!」
「僕が行きます!」
キラが彼を追う。
「おい、キラ!」
「すぐに戻るから!」
彼も駆けだした。既に学園のあちこちでも爆発が起こっていた。
モビルスーツが飛翔するヘリオポリス。それを見てヒイロ達も動きだしていた。
「まさかとは思ったけどな」
「ええ」
「ザフトが仕掛けて来るとは」
「どうやら。ガンダムを狙ったらしい」
デュオ、カトル、ウーヒェイ、トロワが続けて言った。
「どうするよ、それで」
「僕達も動くしかないでしょう」
「ガンダムはもう用意してある」
「迷うことはない」
「それでは決まりだな」
ヒイロが最後に口を開いた。
「出撃だ」
彼等もその場を走り去った。そして戦場に向かうのであった。
既に三機のガンダムが動きはじめていた。その中にはイザーク、ディアッカ、ニコルがいる。
「ほお、凄いもんじゃないか」
まずはイザークが動かして見て感想を述べた。それからディアッカに顔を向けた。
「どうだディアッカ、そっちは」
「いい感じだ」
ディアッカもそれに応える。78
「アップデータ起動、ナーブリンク再構築」
言いながら機体を操作する。
「キャリブレート完了、動ける!」
「ニコル」
イザークは今度はニコルに顔を向けた。
「そっちはどうだ?」
「待ってください、もう少し」
「そうか」
「いけました、大丈夫です」
「よし、これでいいな」
三機のガンダムが立ち上がった。だがまだ灰色であった。
「五機あるんだったよな」
「そうだったな」
イザークはディアッカの言葉に応えた。
「後の二機はまだ工場だな」
「そっちはアスランとシホが向かっているぞ」
ハイネから通信が入った。
「ハイネ」
「俺がそちらの援護に行く」
「頼めるか?」
「ああ。任せておけ」
「僕達は行かなくていいんですか?」
「ハイネが行くのなら大丈夫だ」
イザークはニコルにそう返した。
「けど」
「それにあの二人なら大丈夫だ。気にすることはない」
「そうですか」
「それによ、今はまだ戦闘は無理だぜ」
ディアッカが言った。
「動かすのが手一杯だ。戦闘はとても」
「はあ」
「それに俺達の任務はこのガンダムをクルーゼ隊長にお届けすることだ。それはわかっているな」
「はい」
ニコルはその言葉に頷くしかなかった。
「そういうことだな。じゃあここは退くか」
「ああ」
三人はコロニーの中から離脱した。そこにヒイロ達五機のガンダムが襲い掛かる。
「何っ、ガンダムだと」
「おいおい、マジかよ」
イザークとディアッカが声をあげる。
「まずいですよ、このままじゃ」
「心配することはない!」
だがそこに一機のガンダムが姿を現わした。そこには黒い髪の少年がいた。
「シン」
「ニコル、ここは俺に任せろ。御前達はヴェサリウスに下がれ」
「はい、お願いします」
「頼むぜ、ここは」
ディアッカも声をかける。
「今の俺達じゃ戦闘はちょっと無理みたいだからな」
「わかっている。早く下がれ」
「ああ」
三人は撤退していく。そしてシンの乗るガンダムの左右に二機のザクが来た。
「シン、相手は五人だ。油断するな」
金色の髪の少年がその中の一機にいた。
「そうよ、ガンダムでもね」
そしてもう一機には赤紫の髪の少女がいた。
「レイ、ルナマリア」
シンは二人の名を呼んだ。
「三人は下がった。後はアスラン達だけだ」
「ミネルバも援護に来てくれるから。無理はしないでね」
「ああ、わかった」
頷いた後でヒイロ達に顔を向ける。
「ここは足止めだけだな」
「そういうこと。じゃあやりましょう」
「ああ」
「あれがザフトのガンダムだな」
ウーヒェイがシンのガンダムを見て言う。
「面白いね、あちこちにガンダムがあって」
デュオはその横で軽口を叩く。
「けれどあのガンダムの性能はまだわかっていません。迂闊に攻めるのはまずいですよ」
「ここは。コロニーの防衛に向かうべきか」
「皆が行け。ここは俺で食い止める」
「ヒイロ」
「馬鹿言ってるんじゃねえよ、相手はガンダムだぜ」
「しかも三機だ。御前一人でどうにかなるのか」
「じゃあ僕とトロワがコロニーの中に向かいます」
カトルが素早くヒイロとデュオ、ウーヒェイの間に入った。
「それでいいですよね、トロワ」
「俺は構わない」
トロワもそれに合わせる。
「そういうことです。これで三対三ですよね」
「おっ、そうだな」
「では俺にも異存はない」
「そういうことで。じゃあそっちは任せましたよ」
「わかった。では俺はあのガンダムの相手をする」
「じゃあ俺とウーヒェイはザクを」
「コーディネイターの実力、見せてもらう!」
三機のガンダムがシン達に向かう。シンはそれを見てすぐに身構えた。
「あの翼のあるガンダム・・・・・・ウイングゼロカスタムか」
「ロンド=ベルのモビルドーツの中の一機だ」
「ってことは中にいるのはヒイロ=ユイね」
「やはり邪魔をする気かロンド=ベル。なら!」
シンは突進する。まずはビームライフルを放つ。
「俺が倒す!」
乱射であった。だがヒイロはそれをかわしていく。
「腕はいい。だが」
彼はシンの攻撃をかわしながらその動きを冷静に見極めていた。
「感情に任せている。それでは」
「かわすなあっ!」
ヒイロノ言葉通りだった。シンはその感情を激昂させてきた。
「御前達にはやられはしない!俺は!俺は!」
二人は互いにビームサーベルを抜き斬り合う。その横ではデュオ、ウーヒェイがレイ、ルナマリアとの戦いに入っていた。
コロニーの中と外で戦いが続く中キラは少年を追っていた。もう建物の中のあちこちから爆発が起こっていた。
「君、待つんだ!」
キラが彼に声をかける。
「それ以上行ったら!」
ここで爆発が起こった。彼は咄嗟に少年をそれから庇う。だがここで少年の帽子が飛んだ。
「!?」
そこから長い豊かな髪が姿を現わした。彼はそれを見て思わず声を漏らした。
「女の・・・・・・子!?」
「今まで何だと思ってたんだ!」
声も女の子のものであった。見れば整った野性的な顔立ちをしている。
「いや、その」
「私のことはいいんだ!」
女の子は言う。
「今はそれどころじゃない!」
彼女はキラの制止を振り切ってまた走り出した。
「あっ、だからそっちは!」
「いいって言ってるだろ!」
もうキラには構っていなかった。だがキラも彼女を追う。何時しか二人は工場に辿り着いていた。
そこにモビルスーツがあった。二機のガンダムが横たわっている。
「えっ、これって」
キラもそれが何なのかわかった。
「ガンダム・・・・・・どうして」
「やっぱり」
女の子はその二機のガンダムを見て苦い顔になった。
「御父様、どうして」
そして言う。
「どうして裏切ったの」
「どうしてって」
「御父様の裏切り者!何でこんなことを!」
「一体何が」
キラは女の子に声をかけようとする。だがその時だった。
発砲する音が聞こえてきた。キラはそれを聞いてすぐに動いた。
「君、泣いている場合じゃないよ!」
少女に声をかける。
「早くここから逃げよう!」
少女の手を掴もうとする。だがその時だった。
「子供!?」
マリューが彼等に気付いた。思わずハッとなる。
彼女は今アスラン達と銃撃戦に入っていたのだ。彼等の目的はガンダムであった。8
「君は逃げて!」
「しかし!」
「いいから!僕も後から行くから!」
そう言って彼女を先に走らせる。
「わかったね。それじゃあ」
「あ、ああ」
少女はキラに対して頷く。
「それじゃあな」
「うん」
少女は走り去っていく。キラもそれを見送って避難しようとする。だが。
銃撃戦が激しくなった。連邦軍が押されていた。
「もうすぐですね」
「そうだな」
アスランはその中シホに応えた。
「こちらにはガンダムは二機みたいですね」
「そうだな。一機は俺で」
「もう一機は私が」
「行くぞ、シホ」
連邦軍の抵抗が弱まったのを見て言った。
「今が」
「はい」
シホが前に出る。だがそこで一瞬の油断があった。
「今ね!」
マリューがピストルを放った。それがシホを貫いた。
「きゃっ!」
「シホ!」
シホはそのまま倒れた。アスランは駆け寄りたくても駆け寄れない。
「大丈夫かシホ!」
「は、はい」
幸いにも彼女は無事であった。だが負傷していた。
「けれど肩は」
「その怪我では無理だ」
アスランはシホに対して言った。
「撤退した方がいい」
「けれどガンダムが」
「それよりも怪我の方が先だ。どのみち肩をやられていては操縦は出来ないだろう?」
「しかし」
「もう一機は俺に任せてくれ」
アスランは言った。
「だから」
「わかりました。それでは」
「誰かシホの援護に回ってくれ」
何人かの兵士に言う。
「そしてそのまま撤退してくれ」
「わかりました」
「その間に俺は」
彼は意を決していた。
「ガンダムを」
ガンダムに向かって駆けていく。連邦軍の反撃は間に合わなかった。彼は遂にガンダムのうちの一機に辿り着いた。
「あれは!」
キラはこの時咄嗟にもう一機のガンダムに身を隠した。
「ザフトの!」
「ちょっとそこの君!」
側にいたマリューが彼に声をかける。
「どうしてこんなところに」
「それは」
マリューに事情を説明しようとする。ガンダムに乗り込もうとしたアスランはそちらに顔を向けた。
「!?」
「!?」
キラと目が合った。その瞬間二人の時間が止まった。
「キラ・・・・・・!?」
まずはアスランが言った。
「アスラン!?アスランなの!?」
「どうしてこんなところで」
アスランは思わず呟いた。
「アスラン、君は・・・・・・」
「キラ・・・・・・」
「アスラン・・・・・・」
二人の間に幼い日々のことが蘇る。だがそれは一瞬のことであった。
「アスラン!」
そこにハイネのジンがやって来た。
「そのガンダムに早く乗り込め!」
「わかった!」
アスランはそれに応える。
「もう一機はシホが!」
「シホは無理だ」
「どうしたんだ!?」
「負傷した。だから撤退させた」
「そうか。ではそのガンダムは俺が捕獲する」
「いいのか?」
「任せておけ。だから御前はそのガンダムに乗って早く撤退しろ」
「わかった。それじゃあ」
「ああ」
アスランはガンダムに乗り込む。その時キラを見た。
「どうしてこんなところで」
「アスラン・・・・・・」
「くっ、イージスが!」
マリューは歯噛みする。だがどうにもならなかった。
その間にアスランはガンダムを動かしはじめた。そのままその場から退いていく。
「アスラン、どうして・・・・・・」
「君、ぼうっとしてる場合じゃないわ!」
キラにマリューが声をかける。
「早く、こんなところにいたら!」
「!?」
マリューはガンダムのコクピットにキラを引きずり込んだ。咄嗟のことであった。
「ここは一体」
「ガンダムのコクピットよ」
「ここが」
「早く、早く何とかしないと」
彼女は焦っていた。
「ザフトにこのガンダムまで」
動きはじめる。だがそこにミゲルが来る。
「遅い!」
「ムッ!」
咄嗟にバルカンを放つ。このガンダムではイーゲルシュタインという。
大したことはない威嚇兵器だ。だが一瞬だけでも退かせることは出来た。
「チイッ!」
「何とか時間は稼いだわね」
マリューはそれを見てまずは安堵した。
「けれど」
その間にイージスが姿を消している。ハイネのジンは態勢を立て直している。一刻の猶予もなかった。
「無茶苦茶ですよ」
その横でキラが言った。
「こんなOSでこれだけの機体を動かそうなんて」
コクピットを覗きながら言う。
「まだ全部終わってないのよ」
マリューはそれに言い訳めいたことを言う。
「仕方ないでしょ」
「仕方なくは」
「だが今度は」
そう言い合っている間にもハイネは攻撃に入ろうとする。
「やらせはしない!」
「どいてください!」
「えっ!?」
キラの突然強くなった言葉に戸惑いを覚える。既にキラはコクピットの正面にマリューを押しのける形で来ていた。
(この子……?)
咄嗟にジンの攻撃をかわす。その間に入力していく。
(キャリブレーション取りつつゼロモーメントポイント及びCPGを再設定)
細かい打ち込みが続く。
(疑似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結!ニュートラルリンケージ=ネットワーク再構築)
ガンダムの中で何かが変わった。
(メタ運動野パラメータ更新!フィードフォワード制御再起動伝達関数!コリオリ偏差修正!)
動きが明らかに変わってきていた。
(運動ルーチン接続!システムオンライン!ブートストラップ起動!)
「何だと、あのガンダム」
ハイネもそれを見ていた。
「急に動きが」
「これでよし!いけます!」
「いけるって」
「大丈夫です!ここは任せて下さい!」
「君、一体・・・・・・」
「いいですから!」
「おい、こっちだよな」
「ああ」
そこにトール達四人がやって来た。
「キラが行ったのは」
「ここだったわよね」
「けれど何処にもいないよ」
「そんなことはないよ。早く探そう」
サイがカズイに言う。だがそこで彼等を待っていたのは戦闘であった。
「お、おいあれ!」
「へっ!?う、うわっ!」
カズイが指差した先を見てトールが声をあげる。
「まだ戦闘が!?」
「しかもモビルスーツで、嘘っ!?」
サイもミリアリアも驚いていた。そしてそれをキラが見つけた。
「やらせない!」
ジンに向かって行く。キラは友人を護る為に今剣を手に取った。
その時また一機ジンがコロニーに入ろうとしていた。その中にはクルーゼがいた。
「シン達は上手く敵を引き付けているな」
「ですね」
ヴェサリウスから通信が入った。ガデスが声の主であった。
「ですが中にロンド=ベルのものと思われるガンダムが二機潜入しています」
「二機か」
「はい。イージスは何とかそれを振り切りましたが」
「では私が相手をしよう」
「いいのですか?」
「何、構わんさ」
クルーゼは不敵に笑ってこう言った。
「中にはハイネがいるな」
「はい」
「彼なら大丈夫だとは思うが」
「ですが敵はガンダムを一機確保しています」
「そうか。シホは大丈夫か?」
「詳しいことはまだわかりませんが当分戦闘は無理かと」
「わかった。では戦闘が終わり次第下がらせよう」
「はい」
「彼女は優秀なパイロットだ。ここで何かあっては困るからな」
「わかりました。では御武運を」
「うむ」
クルーゼもコロニーの中に入った。そこへ早速カトルとトロワがやって来る。
「来たな」
「ここを通すわけにはいきません」
「さっきのガンダムは逃がしてしまったがな」
二人はクルーゼに向かう。ここでも戦闘がはじまった。
まずはトロワがガトリングガンを放つ。だがそれはあっさりとかわされてしまった。
「やはり歴戦のパイロットだけはあるが」
クルーゼの口元には余裕の笑みがあった。
「それでも私にはかなわんよ」
「気を着けて下さい、トロワ」
それを見たカトルが彼に忠告する。
「これは。相当な相手ですよ」
「どうやらそのようだな」
「用心しないと」
「では俺が狙いを定める」
トロワは冷静な声で言った。
「カトル、御前が前方で攪乱してくれ」
「わかりました」
二人は動きを合わせる。それでクルーゼに向かう。
「ふむ、二人で来るか。やはりな」
クルーゼは二人の動きを見て呟いた。
「ならば」
彼は動きを速めた。ビームライフルでトロワを牽制しながらビームソードを抜く。そしてカトルにも対する。
「二人一度に相手をするつもりか」
「このジン、かなりの」
三人の戦いがコロニーの中で行われる。その頃キラとハイネの戦いはさらに激化していた。
「この動き」
ハイネはビームサーベルを繰り出す。だがキラはそれをナイフで受ける。ハイネはその動きを見て自分達と同じものを感じていた。
「ナチュラルのものではない。まさか」
「ここでやられるわけにはいかないんだ!」
キラは叫ぶ。
「ここには皆がいるから!皆!」
サイ達に声をかける。
「ここは逃げて!」
「えっ、この声って」
ミリアリアが最初に気付いた。
「キラ、キラなの!?」
「キラなのか!?あのガンダムに乗ってるの」
「嘘だろ、そんな」
トールとカズイが声をあげる。
「キラがガンダムにって」
「しかしあの声はキラの声だ、間違いない」
サイが言った。
「じゃあ」
「キラがガンダムのパイロットに」
「あのアムロ=レイみたいに」
一年戦争の頃のアムロ=レイの話は彼等も知っていた。連邦軍の白い流星の話は最早伝説にすらなっていた。
キラは彼等の為に戦う。だがハイネも負けるわけにはいかなかったのだ。
「やられはしない」
ビームサーベルを振り下ろす。しかしそこに一瞬の隙が出来た。
「今だ!」
「!!」
ナイフを繰り出す。それがジンの胸を貫いた。それで決まりであった。
「うっ!」
「これなら!」
キラはハイネのジンから身体を離して言った。
「もう戦えない筈だ!」
「この動き、この戦い」
ハイネにもそれはわかっていた。彼はコクピットの中で呻いた。
「ナチュラルの動きか、これが!」
ジンの胸が爆発した。それを受けてコクピットの中のハイネもダメージを受ける。
「クッ、仕方ない」
これ以上の戦闘は無理だった。彼は撤退を決意した。
「ガンダムは諦めるか。だが」
退きながらキラの乗るストライクガンダムを見据える。
「あのガンダム、本当にナチュラルが動かしているのか」
彼はそう言い残して撤退した。これでコロニーの中に残るのはクルーゼだけとなった。
「そうか、ハイネもか」
「はい」
クルーゼはアデスから通信を受けていた。そしてそれに応える。
「あのハイネがそこまで簡単にやられるとはな」
「どうやら機体も本人もダメージを受けているようです。当分戦闘は無理かと」
「わかった。では下がらせよう」
「はっ」
「コロニーの中にいるのは私一人か。ならば」
彼は引き際を考えていた。今がその時だと思った。
「退くか。ここは」
カトル、トロワから離れる。そして戦場を離脱したのであった。
「シン=アスカ及びミネルバ隊に伝えてくれ」
「何と」
「これ以上の戦闘は無意味だ。すぐに退くようにとな」
「わかりました、それでは」
「頼むぞ」
それに従いシン達も戦場を離脱する。こうして戦いは終わりとりあえずキラはガンダムの動きを止めた。そこでマリューが彼に対して言った。
「来てもらいたいのだけれど」
「何処にですか?」
「戦艦よ」
「戦艦!?」
「そう、アークエンジェルにね」
「どうしてですか!?」
「ガンダムを運ぶ為よ。それでいいかしら」
「わかりました。それじゃあ」
ガンダムはまた動きはじめた。そしてアークエンジェルへ向かう。だがこの時彼はマリューに言った。
「けど。お願いがあります」
「何!?」
「皆を保護して下さい」
「皆って!?」
「あそこにいる皆です、ほら」
ガンダムでトール達を指し示す。
「皆ここにいたら危ないから。お願いします」
「優しいのね、君は」
マリューはキラのその言葉を聞いて微笑んだ。
「わかったわ。それじゃ」
「待って下さい」
そこにカトルとトロワのガンダムがやって来た。
「貴方達は」
「民間人の救助は僕達がやります」
「だからその間に戦艦に戻ってくれ」
「貴方達、まさか」
「はい、ロンド=ベルの者です」
「ガンダムを受け取りに来たが。思わぬトラブルだったな」
「そうだったの。じゃあお願いしていいかしら」
「はい」
「ではやらせてもらう」
「ええ、お願い」
サイ達はカトル達に救助された。それぞれのコクピットに入れられる。そして三機のガンダムはアークエンジェルに向かった。
「マリュー大尉、御無事でしたか」
クルー達が彼を出迎える。そこにはヒイロ達もいた。
「ヒイロ達も無事だったんですね」
「俺がそう簡単にやられるかっての」
「手強い敵だったがな」
「そうですか、そっちも苦戦していたんですね」
「御前達もか」
「そうだ。コーディネイター、決して侮れる存在ではない」
五人は言い合う。そこへムウがやって来た。
「悪いな、助けてもらって」
まずはヒイロ達に声をかける。
「それにしてもロンド=ベルの噂のモビルドールのパイロットが来るなんてな。土産がなくて申し訳ないが」
「五機のガンダムのうち四機が敵に奪われました」
ナタルが報告する。
「そしてアークエンジェルも攻撃を受けて」
「そうなの」
マリューはそれを聞いて悲しい顔になった。
「艦長以下多くの乗員が戦死です」
「それじゃあ」
「今の最高責任者はラミアス大尉です」
「私が」
「詳しいことは後で。それよりも」
「そこの少年だけれど」
ムウがキラに声をかける。
「ジンを倒したそうだな」
「はい」
キラ自身がそれに答える。
「そうですけれど」
「そうか」
ムウはそれを聞いてまずは一呼吸置いた。それから言った。
「君、コーディネイターだろう」
「!?」
この言葉に場の空気は一変した。コーディネイターという言葉がそうさせたのだ。
「違うか!?これは俺の勘なんだけど」
サイ、トール達がそれを見守る。彼等は知っているのだ。
「はい」
そしてキラは頷いた。それを認めたのだ。
兵士達が動こうとする。だがそこにサイ達四人が出て来た。
「止めてくれよな!」
「キラは私達の為に戦ってくれたのよ!」
「トール、ミリアリア」
「ここは俺達に任せてくれ」
「サイ」
「さっき助けてもらったしな」
「カズイ」
彼等はキラの周りに立つ。それでキラを護っていた。
「皆落ち着いて」
マリューがここで言った。
「この子は敵ではないわ」
「ラミアス大尉」
「驚くことでもないでしょう?戦争を嫌ってここに移ったコーディネイターがいても」
マリューはナタルにこう返した。
「違うかしら」
「それは」
「そうでしょ?キラ君」
「はい」
キラはこの言葉にも頷いた。
「僕は第一世代のコーディネイターですし」
「つまり御両親はナチュラルなんだな」
「そうです」
今度はナタルに応えた。
「オーブにいます」
「そうか」
「わかったわ。けれどガンダムに乗ってもらったからには聞いてもらいたいことがあるのだけれど」
「何ですか?」
「暫く私達と行動を共にしてもらうわ」
「それ。どういうことですか!?」
「アムロ=レイ中佐と同じパターンだと言えばわかり易いかしら。それともケーン=ワカバ少尉か」
「それじゃあ」
「そうよ。ガンダムは軍の最高機密だから。暫く私達と一緒にいてもらいたいのよ」
「ってことは俺達アークエンジェルにいなきゃならないってこと!?」
「そうみたいだな」
カズイがトールに答える。
「ここからだと。何処まで行くことになるかしら」
「それだとオービットに来ればいい」
「オービットに」
ヒイロの言葉に顔を向けた。
「そうだ。ガンダムはロンド=ベルに引き渡すつもりだったのだろう」
「ええ、まあ」
「今ロンド=ベルはロンド=ベルにいる。丁度いい」
「わかったわ。それじゃあ」
「何だ、すぐか」
ムウがそれを聞いて呟いた。
「とりあえずはそこまでだな」
「ですね」
「じゃあとりあえずは五人来てもらってるし」
「はい」
「マリュー=ラミアス大尉が艦長代理だな」
「私ですか!?」
「俺はパイロットだしな。艦長をやるには都合が悪いだろう。メビウス=ゼロで敵を迎撃しなくちゃいけないしな」
「それでですか」
「そうさ。まあオービットまでの間だからな」
「わかりました。それでは」
彼女はそれを受けるしかなかった。そしてそこにいた全ての者に対して指示を下した。
「すぐにこの場を離れます、いいですね」
「了解」
全員これに敬礼する。だがキラ達は戸惑ったままであった。
「何か大変なことになっちゃったわね」
ミリアリアが深刻な顔で皆に言う。
「このまま暫くここにいるなんて」
「そうだよ。どうなるのかな、俺達」
「ザフトの連中まだ外にいるんじゃねえの?やっぱりまずいよ」
カズイとトールもミリアリアと同じ表情であった。
「けれど。仕方ないしな」
サイは深刻な顔をしながらも現実を見ていた。
「ここは。我慢しよう」
「それしかないわね」
「そうだな」
キラもまた同じ顔であった。だが彼は別のことを考えていた。
(アスラン・・・・・・)
ザフトにいる親友のことを。考えていた。
(軍にいるなんて)
また彼と会うことになるのだろうか。その時はどうなるのか。彼は不安を胸に抱きながら今考えていた。自分一人ではどうしようもないこととわかっていながらも。

第百三話完

2006・7・6  
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