戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第七十話 都への出陣その四
「寂しいのう。おられなくなって」
「そうした意味でも三好も松永も」
「うむ、懲らしめる」
こう応える信長だった。
「そのつもりじゃ。しかし松永久秀という者は」
「まさかと思いますが」
平手は主の今の言葉にまずは暗い顔になった。
そのうえでだ。こう問うたのである。
「松永を懲らしめぬというのではありますまい」
「正直興味はある」
実に率直にだ。信長は平手に答えた。
「一体何処まで悪党なのかとな」
「あれは蠍にございます」
平手は剣呑に日本にはいないものを例えに出した。
「毒蛇と同じだけ厄介なものにございます」
「ははは、蝮か」
「左様でございます。決して傍においてはなりません」
「美濃の義父殿と一緒じゃな」
笑いながらだ。信長は平手にこんなことを述べた。
そしてだ。平手に話すのだった。
「義父殿は蝮じゃったからのう」
「そうこられましたか」
「違うか?蠍に蝮じゃ」
「確かに。道三様も非常に剣呑だと言われてましたが」
「ならば余計に会ってみたくなったわ」
「またその様なことを仰る」
「駄目か、それは」
信長が問うとだ。平手は即座に答えた。彼もこれはというのだ。
「無論です。相手を誰だと思っておられますか」
「だからその蠍じゃな」
「主家を弱め乗っ取り公方様を殺め」
「そして東大寺の大仏も焼いたのう」
「かの平清盛でもそこまではしておりません」
これまで日の本で第一の悪人とされてきただ。彼ですらだというのだ。
そしてさらにだ。平手はこの者の名前も挙げた。
「弓削の道鏡もかくやという程でございます」
「そこまで言うと流石に悪く聞こえるのう」
「だから悪いと申し上げております」
平手はあくまで言う。
「全く。相手を何だと思っておられますか」
「だから蠍じゃな」
「左様です。蠍は見つけたら殺すのみ」
日本にはいないがそれでも言うのだった。
「それしかありませぬ」
「ではそうしてか」
「はい、天下の害を取り除きましょう」
松永は完全にそれであった。平手の中では。
「宜しいですな」
「まああれじゃ。一度見てみる」
「そのうえで決められるというのですか」
「そうじゃ。まあ三好は主だった三好長慶はともかくとしてじゃ」
今家を取り仕切る三人衆はどうかというのだ。
「あの者達は見たところ一人一人は大したことはなさそうじゃな」
「殿の相手ではないというのですか」
「そこまでは言わぬ。敵を侮っては滅びる元じゃ」
だからそれはしないというのだ。しかしだ。
「しかしあの者達は三好長慶程の器ではないな」
「さすればですか」
「油断はせぬがそれでも攻め方は存分にある」
こう話してだった。
「軍師の者達に任せる。戦のことはな」
「さすれば留守は」
平手はまたしても信長に話す。
「それがしが」
「ではな。兵糧や武具も送る様にな」
「岐阜に置いてあるそれをですな」
「うむ、送ってくれ」
「はい、それでは」
こうしてだ。輸送の話もしてだ。そのうえで、だった。
信長もまた具足と陣羽織を身に着けだ。そうしてだ。
既に出陣の用意に入っている陣に向かう。その彼にだ。
ページ上へ戻る