戦国異伝
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第七十話 都への出陣その一
第七十話 都への出陣
義昭が信長のところに身を寄せたと聞きだ。信玄は。
一瞬眉を顰めさせた。そして言ったのである。
「遅れを取ったな」
「はい、都に上るのは我等と思っていたのが」
「先を越されました」
「そうなるとはわかっていた」
思ったいたどころではなくだ。わかっていたと言う信玄だった。
その彼がだ。こう言うのだった。
「甲斐は都から遠い。それにじゃ」
「越後の上杉ですな」
「あの者もおりますし」
「それに政もある」
何につけてもそれを第一に考える信玄だった。
「駿河や上野の領地のことがあるからな」
「その駿河等の政ですが」
どうなっているかとだ。穴山が話してきた。
「今のところは順調です」
「左様か。上手くいっておるのだな」
「はい、御館様のお考え通りに進めています」
「ならばよい。まずは政じゃ」
自分でもこう言う信玄だった。
「それを整えてからじゃ」
「そしてそのうえで、ですか」
「我等もまた」
「うむ、上洛は必ずする」
信玄は強い声で二十四将に告げる。今彼等は甲斐に集り話をしているのだ。
「その際はじゃ」
「上杉も織田もですな」
「我等の軍門に」
「織田信長。面白き男よ」
目だけでだ。笑っての言葉だった。
「あの者もわしの家臣にしたいものよ」
「虎が蛟龍を家臣とする」
「そうされますか」
「若しくは。謙信と同じか」
彼の宿敵であるだ。あの謙信ともだというのだ。
「わしと五分に戦ができる者やもな」
「そうした者は天下にそうはおりませぬ」
弟の信繁が兄に話してきた。
「御館様と渡り合える程の者は」
「後は相模の北条殿でしょうか」
今言ったのは原である。
「あの方もかなりの傑物ですし」
「それに加えてじゃ」
その二人とだというのだ。
「あの織田信長もじゃ」
「御館様と五分にですか」
「渡り合えますか」
「若しやな。面白いことにじゃ」
こうした話もする。そうしてだった。
信玄は再び二十四将に告げる。その告げることはこうしたことだった。
「では。よいな」
「はい、何時かは都に」
「我等の用意が整い次第」
「孫子の旗を都に立てる」
武田を象徴するだ。風林火山の旗をだというのだ。
「よいな。必ずやじゃ」
「そして天下に泰平をもたらす」
「我々こそが」
「うむ、我が武田がじゃ」
こう話してだった。信玄は今は政に専念していた。だが何時かはだ。上洛することを決めていたのである。
その信玄が見ている信長の要請を受けてだ。徳川もだった。
三河において出陣の用意をしながらだ。こう話をしていた。
「さて、都か」
「はじめて行くぞ、わしは」
「わしもじゃ」
大将や頭達も足軽達もだ。口々にこんなことを話す。
「どういった場所かのう」
「やはり開けておるのか」
「みらびやかな場所なのか」
こうした話をだ。徳川家の黄色い具足を身に着け同じく黄色い旗を立てながらだ。出陣の用意をしているのだ。その彼等を見てだ。
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