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戦国異伝

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第六十八話 足利義昭その六


「では野戦はない」
「只でさえ不利ですから」
「そうなれば我等は観音寺城を囲む」
 信長の頭の中でそこまでできていた。そうしてだった。
 長谷川にだ。今度はこう言ったのである。
「では他の者達も呼べ」
「戦のことで」
「事前にやることがある。すぐに呼ぶのじゃ」
 こう話してだった。そのうえでだ。
 すぐに来た長谷川以外の家臣達にだ。同じことを話す。
 そうしてだった。彼はこう言うのだった。
「観音寺の城を囲めば近江の国人達に声をかけるぞ」
「そのうえで国人達の六角からの離反を誘う」
「そうされますか」
「そうじゃ。そしてじゃ」
 さらにだった。信長は話していく。
「観音寺の他の城を攻める」
「観音寺以外のですか」
「他の城をですか」
「攻められるというのですか」
「木を切るにはまず枝からじゃ」
 その木が何かはもう言うまでもなかった。
 そしてその枝を攻めよと言うのである。
「枝を全部切れば木はもうどうというものではないな」
「はい、確かに」
「言われてみれば」
「堅城といえど一つではどうにもならぬ。それに」
「それに?」
「それにといいますと」
 家臣達は信長のその言葉に問うた。今の言葉は誰も予想していなかった。
 だが、だった。ここで竹中が言うのだった。
「観音寺の城にも弱みがありますな」
「ほう、半兵衛か。流石じゃな」
「あの城は確かに堅城です。しかしです」
「攻め方はあるのう」
「あります。では観音寺の攻略は」
「御主に任せる」
 織田家の軍師になった彼にだというのだ。
「見事観音寺の城を攻め落とすのじゃ」
「畏まりました」
「そして他の城や国人達には逐次わしが命じる」
 攻めることや懐柔についても話すのだった。
「まああれじゃ。箕作じゃな」
「はい、あの城が最も重要です」
 まさにそうだとだ。竹中がまた話してきた。
「あの城は観音寺の城の最も重要な支城故に」
「あそこを攻め落とせばかなり違う」
 信長は楽しげな笑みを浮かべつつ述べた。
「国人達も他の城も対応を変えてくるわ」
「ではまずは箕作を攻め落とし」
「そのうえで他の城をですか」
「そうじゃ。そうするのじゃ」
 これが信長の考えだった。
「それからで充分よい」
「わかりました。さすればです」
「攻めるその時には」
「さて、義昭様も間も無く来られる」
 そのことについては楽しげな笑みになる信長だった。そうしてだった。
 今度は平手にだ。こう話すのだった。
「爺、悪いがじゃ」
「留守役ですな」
「前にも言ったが頼むぞ」
「お任せ下さい、それでは」
 平手も落ち着いた顔で頷く。彼のその言葉を受けてからだ。信長はこんなことを言ったのである。
「今回は勘十郎達を連れて行きたい」
 信行に信広達、弟達を見てのことだった。
「都を見せたいのじゃ」
「それがし達をですか」
「だからだというのですか」
「うむ、都は見ておくことじゃ」
 このことを真面目に話す信長だった。 
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