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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第九十八話 復活!ギガノスの蒼き鷹

                 第九十八話 復活!ギガノスの蒼き鷹
  「ククルだったな」
レーツェルは大空魔竜の食堂の一席で茶を飲むククルに声を掛けた。
「そうだが」
「我が友と手合い、どうだったか」
「最初は憎しみしか覚えなかった」
ククルは彼にそう答えた。
「だがな」
「認識が変わったか」
「うむ。あの男の剣と共にな」
彼女は落ち着いた声でこう述べた。
「器の大きい男だな」
「うむ」
レーツェルはその言葉に頷く。
「わかってくれたようだな」
「最初はな。違ったが」
憎しみに囚われていた時のことを言う。
「だが。何度も剣を交えるうちにわかってきた」
「そうか」
「あの男の人として、戦士としての器を」
「見極めたのだな」
「そうじゃ。ゼンガー=ゾンボルト、見事な男じゃ。あの男の器、何処までなのか見極めさせてもらう」
「それだけかな」
「というと?」
「貴殿は。それだけを見極めに我々のところに来たのか?」
レーツェルはさらに問うた。
「そこは。どうなのか」
「意地の悪い男じゃな」
ククルはその言葉を聞いて笑う。それまでになく穏やかな笑みであった。
「わらわも。わかったのじゃ」
そのうえで言った。
「人としてな。何を為すべきか」
「そのうえで先程オルファンと我々を護ったのだな」
「左様。わらわは人間じゃ。ならば人間の為に戦おうぞ」
「わかった。では貴殿を迎えよう」
「うむ」
こうしてククルはロンド=ベルに加わった。それを確認してレーツェルは話題を移した。
「ところで」
「何じゃ?」
「今飲んでいる茶は。何か」
「緑茶じゃ」
ククルは答えた。どうやら彼女は茶が好きなようである。
「そうか。緑茶か」
「下りものじゃぞ」
「ほう」
レーツェルは下りものと聞いてさらに声をあげた。
かって日本の関西地方のことを上方と呼んだ。そこから来るものを下りものと呼んだのである。主にこの茶や着物等が主流である。
「それはいいな」
「美味いぞ。一杯どうじゃ」
「そうだな。次の機会に」
「茶は日本のものに限る。それも京都の」
「さらにいいな」
「自分で入れるとな。尚よい」
「茶を自分で入れるのか」
「左様」
ククルは今度は優雅な笑みを見せた。
「こう見えても。味には五月蝿くてのう」
「結構なことだ。実は私もな」
「ぬしもか」
「料理には自身がある。和食にもな」
「よいのう。わらわも料理は得意じゃぞ」
「その茶を見ればそれはわかるな」
「そういえばクスハという娘がいるのう」
「ああ」
レーツェルはそれに応えた。
「あの娘も。料理が好きと聞いたが。どうなのじゃ」
「悪いことは言わない」
レーツェルは前以ってそう断った。
「命が惜しいのなら。彼女の料理には近寄らないことだ」
「左様か」
「かって幾人もの勇者が彼女の料理の前に倒れていった。ここまで言うと・・・・・・わかるな」
「うむ」
ククルは深刻な顔で頷いた。
「その言葉。肝に命じておこう」
ククルはクスハの料理には近寄らなかった。結果としてそれが彼女の個性を守ることになったのであった。
その頃クスハはレーツェルの言葉通り多くの戦士を葬っていた。
「あれ、どうしたんですか皆さん」
彼女はある料理を目の前にして呆然とする一同を前にして無邪気にこう応えていた。
「できたてですから。熱いうちに召し上がって下さいね」
「・・・・・・あのさあ、クスハ」
シローが彼女に顔を向ける。
「はい」
「・・・・・・これ、どうやって作ったの?」
「どうやってってて。ごく自然に」
「ごく自然に」
「今回は素材を活かしてみました」
「素材を、ねえ」
「それで。こうなったのね」
アイナもあまりいい顔をしてはいなかった。
「そうですよ。それで盛り付けも斬新に」
「斬新に、か」
凱も言葉をなくしている。さしもの勇者王もであった。
「ええ。やっぱり料理は進歩ですから」
「進歩はいいけどさ」
もう一度シローが言った。
「これは。あんまりにも凄くないかい?」
「そうですか?」
やはり彼女にはわからない。
「幾ら何でも。これは斬新過ぎるぞ」
その料理は炊き込みご飯であった。それはまだいい。問題はそこに刺さっているものであった。
それは鮎であった。生焼けの。しかもそれは頭から墓石の様に突き刺さっている。何匹もの鮎が頭から逆さに炊き込みご飯に突き刺さっていたのだ。
「美味しそうですよね」
「・・・・・・ああ」
「そうね」
皆の答える言葉には元気がない」
「アイナ様」
ノリスが前に出て来た。
「ここは私が」
「いけないわ、ノリス」
アイナは彼を制止する。
「貴方だけにそんなことは」
「しかし」
それでも彼は行こうとする。
「お嬢様に何かあっては」
「構わないわ、だって私は」
「いや、俺が行く」
シローも前に出ようとする。
「アイナは俺が護るんだ」
「シロー・・・・・・」
「皆、下がってくれ」
今度は凱が出て来た。
「皆は生身だ。だがサイボーグの俺なら」
「凱」
「何とかなる。だから」
「皆どうしたんですか、そんなに必死になって」
わかっていないのはクスハだけであった。
「大丈夫ですよ。食べられますって」
「いや、それは」
「無理かも知れないわ」
「せめてお嬢様だけでも」
「皆の前に俺が出れば」
彼等は命を覚悟していた。だがここで思わぬ助っ人がやって来た。
「皆、大変だ!」
ブリットがそこにやって来た。
「どうしたんだ、ブリット」
「敵襲だ!ギガノスだ!」
「何、ギガノス!?」
シロー達はそれを聞いて何故か救われたような顔になった。
「そうだ、すぐに行こう。かなりの数が来ている!」
「よし!」
「すぐに行きましょう、シロー」
「わかったよ、アイナ」
二人がまず出る。続いてノリスも。
「じゃあクスハ、行くぞ」
「あっ、待って下さいよ」
「敵は待ってはくれないぜ。ほら行くぞ」
「ってもう」
クスハはそそくさと部屋を後にする凱達を見て頬を膨らませた。
「折角作ったのに。何で食べてくれないのかしら」
「で、今度は何を作ったんだい?」
そんな彼女にブリットが問う。パートナーとしての務めであった。
「炊き込みご飯に鮎を入れたものよ」
「へえ、鮎を」
それだけではまともな料理に聞こえる。
「それでどんなのだい?」
「こんなの。ブリット君もどう?」
「・・・・・・早く行こう、クスハ」
答えずに出撃を促した。
「皆もう出撃しているぞ」
「あっ、待ってよ」
ブリットはわざと足を速くした。そして格納庫に向かう。既に戦いははじまろうとしていた。
敵はギガノスの前線部隊であった。既にかなりの数が展開している。
「遂にここまで来たか、ロンド=ベル」
敵の指揮官であるハイデルネッケンが彼等を見て言う。あまり器の大きそうな男には見えない。
「ここは通さぬ。我がギガノスの為にも」
「ハイデルネッケン少佐」
ここで彼に声をかける者がいた。
「大丈夫なんだろうね、この数で」
「ミン中尉か」
見ればスタークダインがいた。仲間達と別れた彼女は今はハイデルネッケンに協力しているのだ。
「あたしが言うのも何だけどさ、奴等は強いよ」
「心配無用だ」
だが彼はそれにまともに取り合おうとはしない。
「私には。これがあるからな」
「これって?」
「このギルガザムネがだ」
彼は自分の乗っているマシンを見て誇らしげに笑っていた。
「これさえあれば。どんな敵でも恐れるに足りん」
「だといいけれどね」
しかしそれに答えるミンの言葉はなおざりである。
「そのマシンは。止めておいた方がいいよ」
「グン=ジェム大佐か?」
「ああ、大佐が生き残ったのは運よくさ。今度もそうとは限らないよ」
「杞憂だな」
しかし彼はやはりなおざりな言葉であった。
「あれは所詮試作用に過ぎない」
「そうかね」
「そうだ。だがこのギルガザムネは違う。必ずやロンド=ベルを倒すだろう」
「だといいけれどね」
ミンはハイデルネッケンのその言葉を信じてはいなかった。
「それじゃま、やるよ」
「うむ」
既に目の前にはロンド=ベルのマシンが出撃していた。
「総攻撃だね、いきなり」
「愚かな奴等よ」
ハイデルネッケンはロンド=ベルを甘く見ていた。それが裏目に出るとは彼はこの時まだわかってはいなかった。
すぐに戦いがはじまった。まずはギガノスが仕掛けた。
「そのまま押し潰せ!」
「へえ」
ミンはその命令を聞いてシニカルに笑った。
「押し潰せ、かい」
「何か文句でもあるのか?」
「いや、まあ宜しくやってくれよ」
「フン」
憮然としながらもそれを黙って聞き流す。まずは数個小隊が攻撃を仕掛ける。
「おおっと!」
ハッターは軽い身のこなしでそれをかわす。
「危ない危ない」
「その割には余裕じゃない、ハッちゃん」
「ハッちゃんではない!」
キッとしてフェイにこう返す。
「一匹ヒーロー、アーム=ド=ザ=ハッター軍曹、そう呼べと言っているだろう!」
「やだ」
しかしフェイの返事はつれない。
「そんな長い名前いちいち言うのが面倒臭いわよ」
「クーーーーーーーッ!またしても!」
それを聞いてまたムキになって怒る。
「何処までも口の減らない女だ!」
「だってハッちゃんいつも同じこと言うんだもの」
「ええい、五月蝿い!」
たまりかねてそう返す。
「男ハッター軍曹、同じことを言ってはいない!」
「だからそれよ」
「何だと!?」
「ハッちゃんいつも男だとか一匹狼とかじゃない。他の言葉言いなさいよ」
「ううむ・・・・・・」
「ライちゃんみたいに無口でもいいし」
「ライちゃんか」
ライデンはそれを聞いてポツリと言う。
「ライデンでしょ?だからライちゃんよ」
「ううむ」
ライデンもそれを聞いてハッターと同じ声を出した。
「何かな」
「嫌なの?」
「いや、別にそうではないが」
違和感を感じているのは事実であった。
「ではフェイ」
「フェイリンでいいわよ」
「長くなってるじゃないか」
「あら、御免なさい」
「まあいい。ではフェイリン」
「何!?」
「今目の前に敵がいるぞ」
「あら、いけない」
「おっと、ここはこのハッター様が!」
「遅い」
「なっ、兄弟」
既にチーフが動いていた。攻撃に入る。
「戦いは一瞬で決まるものだ」
そう言うとその手に持つ銃からビームを放つ。
「おしゃべりをしている暇はない」
その前でギガノスのマシンが数体爆発する。それを見ながら冷静に述べた。
「わかったな」
「何かあの四人の個性って滅茶苦茶独特だよな」
「ああ、全くだ」
タップとライトがそれを見ながら言う。
「俺達も人のこと言えないけれどな」
「そこはそれ。俺達は俺達のやり方で」
「派手にいきますか」
「待って下さい」
その三人をルリが呼び止めた。
「あれ、ルリちゃん」
「どうしたんだい!?」
「ナデシコのレーダーに反応です」
「レーダーに」
ケーンはそれを聞いて一瞬引き締まった顔になった。
「これはギガノスのメタルアーマーのものです」
「ギガノスの」
「何処からだ!?それは」
「敵の左翼からです。数は一機」
「何だ、一機か」
「だったらそんなに驚くこたあねえな」
「いえ、これは」
だがルリの言葉には警戒が含まれていた。
「やっぱり」
「やっぱりって!?」
メグミがその言葉に顔を向ける。
「どうしたの、ルリルリ」
そしてハルカも。ナデシコの艦橋クルー達は彼女に顔を向けた。
「鷹です」
「鷹、まさか」
「はい、ギガノスの蒼き鷹が。戦場に来ました」
「なっ、あれは!」
その姿を見て動揺したのはロンド=ベルよりもむしろギガノス軍であった。
「あの蒼いマシンは!」
「間違いない!」
末端の兵士達にもそれが誰であるのかすぐにわかった。
「ギガノスの蒼き鷹が」
「まさか生きていたなんて」
「プラート大尉!」
ハイデルネッケンは彼の姿を認めてその名を叫ぶ。
「貴殿、生きていたのか!」
「生憎。死神に嫌われたようでして」
マイヨはハイデルネッケンにそう返す。
「幸か不幸か生きております」
「ヌウウ・・・・・・」
「ハイデルネッケン少佐」
今度はマイヨが彼の名を呼んだ。
「ドルチェノフ元帥閣下は。お元気でしょうか」
彼がドルチェノフ派だと知ったうえであえてこう声をかけたのであった。
「それがどうした」
「あの時の御礼をしたいと思いまして」
「ほざけ、反逆者が」
ハイデルネッケンはマイヨを見据えてそう返す。
「貴様に答えるつもりなぞ。毛頭もないわ」
「左様ですか」
だがマイヨにとってこの返事は予想通りであった。特に驚くことはない。
「では私も。動くまでです」
「何をするつもりだ、貴殿」
「ギルトール閣下の。仇を取らせて頂く」
「ギルトール閣下の!?」
「どういうことなんだ!?」
ギガノスの将兵達はマイヨの言葉を聞いてヒソヒソと囁きはじめた。
「プラート大尉が暗殺したんじゃなかったのか?」
「確かそうだったよな」
「それでどうして」
「ええい、あの男の言葉に騙されるな!」
ハイデルネッケンはそんな部下達を叱咤する。
「あの男がギルトール閣下を暗殺したのだ!それは疑うものではない!」
「けどな」
それでも彼等は囁き続ける。
「プラート大尉って確か」
「ああ、ギルトール閣下の腹心だったよな」
「それがどうして暗殺なんかするんだ?」
「そもそもあの人がそんなことするかな」
「それもそうだよな」
「前から思っていたけどそこも怪しいよな:
「ええい、うろたえるな!」
ハイデルネッケンはそれでも部下達に叫ぶ。
「何を疑う!ドルチェノフ閣下の発表を!」
「どっちが正しいと思う?」
「俺はプラート大尉がそんな人じゃないと思うけどな」
「ああ、そうだな」
「あの人は特に野心なんてないしな」
「むしろあるのは」
ここでマイヨの人望が大きくものを言っていた。それに対してハイデルネッケン、そしてドルチェノフのそれはお話にもならない。ギガノスの蒼き鷹の人望とカリスマは健在であった。
「何かおかしなことになってきましたね」
「そうね、ギガノスからの攻撃はなくなったわ」
モニターを通じてルリろミサトは話をしていた。
「それどころじゃないって言った方が早いけれど」
「今がチャンスですね」
「チャンス!?」
「はい。迎撃態勢を整えましょう。いずれにしろ」
「そうね」
ミサトはルリのその提案に頷いた。
「どのみちギガノス軍とは戦うし」
「全軍今のうちに迎撃態勢を整えて下さい」
それを受けてユリカが指示を下す。
「敵が待ってくれているうちに」
「了解」
「待ってくれているってのも妙だけどな」
その間にもギガノスの動揺は続いていた。マイヨとハイデルネッケン、どちらが正しいのか迷っていたのだ。
「クッ、ミン中尉!」
たまりかねたハイデルネッケンはミンに声をかける。
「何だい?」
「あの裏切り者を始末しろ!このままではギガノスの大儀が失われる!」
「大儀、ねえ」
だがミンはその言葉を聞いて皮肉な笑みを浮かべた。
「あんた、自分が何言ってるのかわかってるのかい?」
「当然だ!」
ハイデルネッケンは躊躇なくそう返す。
「だからだ!だからあの裏切り者を始末して来い!」
「あたしには裏切り者は別にいるように見えるよ」
「何だと!?」
「その裏切り者は」
ミンはハイデルネッケンを見据えて言う。
「あんただ!あんた達がギルトール元帥を殺したんじゃないのかい!」
「なっ!」
ハイデルネッケンはミンのその言葉を聞いて色を失った。
「あたし等グン=ジェム隊はねえ、なまじっか外にいたからわかるんだ」
「外だと!?」
「そうだ。地球にね。離れていると結構ものが見えるんだよ」
この場合は客観的に、という意味である。
「な、何を・・・・・・」
「うろたえているのが怪しいね。少佐、あんた本当のことを知ってるね」
「うっ・・・・・・」
「ほら、詰まるところがさらに怪しいね」
「だ、黙れ!」
これ以上の言葉は墓穴を掘るだけであった。だが彼は言わずにはいられなかった。
「戯言を!」
「ああ、確かに戯言さ」
ミンは返す。
「けれどね、あたしにはわかったよ。本当のことが」
「うう・・・・・・」
「これ以上あんたと一緒にいても不愉快になるだけだしね。あたしはあっちに行くよ」
「何処にだ!?」
「あの男前の大尉のところさ。まっ、あんたよりはマシだろうからね」
ミンはそう言い終えるとスタークダインを駆った。そしてマイヨの元へと向かった。
「むっ」
「プラート大尉だったね」
「うむ」
マイヨはミンに応える。
「特にギルトール元帥に思い入れはないけれどね。連中に利用されるのも癪だし」
「協力してくれるというのか?」
「まあそんなところさ。これから宜しくな」
「うむ」
「ええい、一機が二機に増えただけだ!」
ハイデルネッケンはそんな二人を見て喚く。
「やってしまえ!撃ち落せ!」
そう命令する。だが将兵達は動きが鈍かった。
「ムッ!?」
「なあ、どうする!?」
見れば彼等はまたヒソヒソと話をしていた。
「どっちが正しいと思う?」
「俺はプラート大尉だと思う」
「そうだな。それじゃあ」
かなりの数の、若手将校達を中心とした者達がマイヨの方へ流れていった。
「な、何だと!」
「予想通りだね」
「ミン中尉、貴様!」
「皆あんた達が嫌いだってさ。人望がないっていうのは辛いね」
「クッ!」
「まあ覚悟するんだね。それか逃げるか」
「おのれ・・・・・・」
歯噛みしてもどうなるものでもなかった。
「どっちにするんだい?あたしは逃げた方がいいと思うよ」
「戯言を!」
数はかなり減ったがそれでも軍としての数はまとまっていた。ハイデルネッケンはそれを見て戦うことを決意した。
「ええい、全軍攻撃だ!」
彼は指示を下す。
「ロンド=ベルも反乱軍も両方共始末してしまえ!いいな!」
自らも突っ込む。だがそれを見てもマイヨもロンド=ベルも冷静なままであった。
「愚かな」
マイヨはそれを見てこう呟く。
「今のままで。勝てると思っているのか」
「何かなあ」
ロンド=ベルではケーンが言っていた。
「今度の敵はやけに器が小せえよなあ」
「あれが。ギガノスなのか?」
クインシィは敵軍を見て仲間達に問う。
「あまり強くは感じられないが」
「確かにあの部隊の敵の指揮官はそうだな」
バーンがそれに応える。
「あまり。大した男ではない」
「うむ」
ギャブレーがそれに頷いた。
「ではこちらも全軍攻撃ってとこで」
「ああ」
皆それに頷く。
「聞こえるか、ロンド=ベルの将兵達よ」
「おろ!?」
「これは」
マイヨからの通信であった。
「今は休戦とさせてもらう。我々には大義がある」
「大義か」
クワトロがそれを聞いてふと呟く。
「そうだ、ギガノスの大義だ。ギルトール閣下の理想は最早ない」
彼が亡くなってしまったからである。マイヨはそこにいたからこそそれが最もわかっていた。
「今のギガノスに大義はない。だが私はギルトール閣下の無念を晴らす為に今戦う」
「最後まで自分が信じた男の為に戦うってわけか」
「格好いいですよね」
フォッカーとヒカルがそれぞれ言う。
「何か。しびれちゃいますよ」
「確かにな。あの旦那、輝いてるぜ」
「けれど声は」
リョーコは頷きイズミは何故かエマの方を見た。
「エマ中尉」
「!?何なの?」
「あの声。知っていませんか」
「どういうことかしら」
「声が。あの人に」
「御免なさい、私よくわからないのだけれど」
「おいアキト」
ジョナサンがそれを見てアキトに尋ねてきた。
「あのエマ中尉って人まさかよ」
「わかります!?」
「俺でもわかったぞ。どうやらああしたことにはかなり奥手みたいだな」
「ええ、まあ」
「しっかりした人なんだけどな。どうしたわけやら」
サブロウタが軽い声で述べる。
「大人の女の人もわからないことはあるってことで」
「そしてアキトもな」
「!?俺も!?」
ジョナサンの言葉にギョッとする。
「入ったばっかりの俺にだってわかったぜ」
「何をですか!?」
「やれやれといったところかな」
「ジョナサンの旦那って中々鋭いね」
「これでも経験は豊富なんでな」
どうやら彼はサブロウタと波長が合うようであった。
「クインシィもな。可愛いところがあるんだぜ」
「まさか」
これは殆どの者が否定した。だがジョナサンは違っていた。
「わからないのか?まあすぐにはわからないか」
「だって声がねえ」
「ええ」
ジュンコとマーベットが互いに頷き合って言う。
「彼女にそっくりだから」
「というか同じよね」
「声のことはあまり言いたくはないけれど」
「あの声こそがいいんじゃないか」
「そうかしら」
「ジョナサンから見ればそうなの?」
「そういうことさ。じゃあ行くぞ」
「了解」
ジョナサンも前に出た。その横にはシラーとカント、ナッキィがいる。
「あまり大したことはなさそうだがな」
「けれど油断は禁物ですよ」
「うかうかしてると。ドカンとやられるからな」
「ああ」
カントとナッキィに応える。
「じゃあロンド=ベルとしての俺の初陣」
「やらせてもらうか」
シラーもそれに続く。そして前にいるギガノスのメタルアーマーに射撃を放つのであった。
「見ていろ、ママ」
彼はその射撃を放ちながら言った。
「俺は。これから新しく生まれ変わるからな」
すぐに前のメタルアーマーが貫かれる。それを合図に戦いは本格的にはじまった。
戦いそのものは呆気なくかたがついた。仲間割れにより士気の落ちたギガノス軍はハイデルネッケンのまずい指揮も重なりあっという間にロンド=ベルとマイヨに迫られた。勝敗はこれで決した。
「おのれ・・・・・・」
ハイデルネッケンは目の前にいるマイヨのファルゲン=マッフを見て呻き声をあげる。
「裏切り者が」
「言いたいことはそれだけか?」
だがマイヨはその言葉に構いはしない。
「さあどうするのだ?降伏かそれとも」
「クッ!」
彼はここで逃走に出ようとする。しかしそこには青い三つのマシンがいた。
「大尉殿」
「遅れてまことに申し訳ありません!」
「我々も大尉殿と共に!」
「御前達・・・・・・!」
そこにはプラクティーズの面々がいた。彼等もまたマイヨの下に馳せ参じて来たのであった。
「大尉殿が生きておられると聞いてこちらに」
「御無事で何よりです」
「ああ、御前達もな」
マイヨのその顔に笑みがこぼれる。だが今は再開に浸っている余裕はなかった。
「おのれええええっ!」
自暴自棄になったハイデルネッケンはマイヨに向かう。だがそれは所詮かなう相手ではなかった。
「甘いな」
レーザーソードが一閃した。それで終わりであった。
「ガアアアアアアアアッ!」
「せめて最後は苦しまずに死ぬのだな」
それがマイヨが彼に送った最後の言葉だった。ハイデルネッケンはあえなく戦死したのであった。
「ううん、いいねえ」
ライトがマイヨの活躍を見て思わずうなる。
「渋いよなあ、おい」
タップも。自分達の敵だという認識は何処へやら、である。
「やっぱり影のヒーローは違うよなあ」
「ああ、これからが楽しみだぜ」
「おい、ちょっと待て」
それにケーンが口を挟む。
「ヒーローは俺だぞ。何でそんな馬鹿なこと言い出すんだよ」
「あらいたの、元ヒーロー」
「元ってなあ、おい」
ケーンはタップの軽い言葉に思わずきれかけた。『元』という言葉が琴線に触れたのだ。
「俺はそもそもなあ」
「とにかくですな」
「おっと軍曹」
「それは失礼」
アルビオンの艦橋にいたベン軍曹の言葉に静かになった。
「戦いはこれで終わりではありませんぞ」
「そうだった、それだ」
「ギガノスの蒼き鷹です。御注意を」
「了解。それじゃあ」
「ワカバ少尉!」
今度はダグラス大尉の声が入って来た。
「何でしょうか」
「今度は真面目にやれよ!さもないと始末書だ!」
「ってこの前書いたばかりじゃないですか」
「それはそれ、これはこれだ!ドラグナーが撃墜されたら十枚!戦死したら百枚だ!」
「死んだら書けないじゃないですか」
「だから死ぬな!いいな!」
「へいへい」
非常に変わったエールであった。何はともあれ今度はマイヨの軍と対峙することになった。
「安心してくれ」
しかしマイヨは彼等に剣を向けはしなかった。
「どういうことだ!?」
「それは」
シナプスもそれを見て眉を顰めさせる。ジャクリーンにもわからなかった。
「何のつもりなのだ。我々も敵ではないのか」
「私の敵は諸君等ではない」
マイヨは言った。
「私の敵は。月にいる」
その言葉に剣が含まれた。
「兄さん・・・・・・」
「それでプラート大尉」
ブライトが彼に問う。
「君達は我々とは戦わないのだな?」
「そうだ」
「では共闘か」
「いや、私は私で月に向かう。連邦軍の手は借りない」
「そうか」
「それでは。また会おう」
「あたしも行くよ」
「貴殿は確か」
「グン=ジェム隊四天王の一人ミンさ。覚えておいてくれたかい?」
「う、うむ」
実はあまり覚えてはいなかった。それどころではなかったからだ。
「あんたのその男気に惚れたよ。同行させてもらうよ。それでいいかい?」
「ああ、私はそれでも構わない」
マイヨはそれによしと返した。
「こちらこそ歓迎させてもらう」
「有り難いね。じゃあ行くか」
「月へ」
「ああ、今の戦いでもう移動要塞の前にいる部隊はなくなったしね」
ギガノスの衰退はかなりのものだった。ギルトールというカリスマ性と指導力を併せ持つ指導者をなくしたことが何よりも大きかったのだ。
そしてマイヨが生きていた。今の戦いだけでかなりの数の将兵が彼についていた。
「このまま向かうんだろ?」
「無論そのつもりだ」
マイヨもそれに応える。
「では行くぞ」
「はい」
「御供致します」
プラクティーズを中心として彼を慕う将兵達がそれに続く。彼等はそのまま月へと向かった。
「ヘンケン艦長から通信です」
「ああ」
ブライトはサエグサの言葉に応えた。
「噂をすれば、だな」
「ですね」
先程のマイヨと彼の声の件である。確かに二人の声は非常に似ているのだ。
「ブライト艦長」
モニターにヘンケンが姿を現わした。
「そちらは勝利を収めたようだな」
「ええ、まあ」
ブライトはその言葉に頷く。
「ギガノスの鷹も来ましたし」
「ああ、それは聞いている。生きていたそうだな」
「はい」
「そして今のギガノスとは対立している。そこまでは知っているが」
「彼がギルトール元帥を暗殺したというのは」
「あれはな。果たしてそうなのかと連邦軍の間でも見方が違っているんだ」
「やはり」
「私は違うと思う。彼はそうしたことをする男ではない」
「ヘンケン艦長はそう思われますか」
「君もそうじゃないのかい?ブライト艦長」
「確かにそうですが」
「おそらく何らかのややこしい事情があるのだろうな。詳しいことはわからないが」
「左様ですか」
「ではこちらも今から月に向かう。宜しくな」
「はい」
「ティターンズがここに来てまた妙な動きを見せているが」
「ティターンズが」
「ああ。どうやらザフトに手を出そうとしているらしい」
「ザフトに!?」
「ブルーコスモスが中心になってな。指揮官はバスク大佐の様だが」
「彼が」
ブライトはバスクという名を聞いて嫌なものを感じた。
「未確認情報だが核を使うのではないかとも言われている」
「まさか」
それはすぐに否定した。
「あれは南極条約で禁止されています」
「表向きはな」
ヘンケンはブライトのその言葉にこう付け加えた。
「だが。ティターンズがそれを守るような組織かどうかは君もわかっているだろう」
「ええ、まあ」
これには頷くしかなかった。三十バンチ事件があった。ティターンズは目的の為ならば手段を選ばない。少なくともジャミトフやバスクといった上層部はそうである。
「だからだ。核も使う可能性がある」
「ううむ」
「ブルーコスモスが核を調達しているらしいしな」
「彼等がですか」
「そうだ。彼等は軍産複合体だ」
今でもこうした存在はあるのだ。アナハイム社もそうであるのだが。
「核の調達位わけはない」
「それでティターンズに核を」
「それに嫌な話を聞く」
「嫌な話とは!?」
「連邦軍にも。彼等の同調している者がいるという」
「ブルーコスモスに」
「これもまた確証はないが。どうやら」
「何と。まだ連邦軍にそうした者達が」
「三輪長官はまた違うようだがな」
「あの人は違うのですか」
「この前アルスター次官がぼやいていたよ。何とかならないのかと」
「何かあったのですか?」
「欧州の指揮権まで掌握しようとしているのだ。それでアルスター次官と喧嘩になったらしい」
「それはまた」
「ミスマル司令がジャブローに入られてな。今欧州は手薄なのだ」
「しかし三輪長官は太平洋区でしょう?地球にいる人類の半分近くを預かっていますし」
地理面積においても相当なものだ。三輪の管轄下はかなり広いのである。
「流石にそれは。無理があるのでは」
「ザフト討つべしということでな。無理にでも押し通そうとしている」
「また厄介なことに」
「オースチン参謀がダカールに入られたがな」
「あの人がですか」
欧州とアフリカは地理的な関係で同じ指揮系統なのである。
「だが折り悪く南アフリカでミケーネが活動を活発化させてな。それに追われて」
「欧州まで手が回らない。それで三輪長官が主張しているのだ。
「アデナウアー次官はどうされていますか?」
もう一人の次官である。ちなみにクェスの父親だ。
「お手上げだよ。とりあえずシビリアン=コントロールは徹底させたいようだが」
「三輪長官では。それも難しいですか」
「岡長官もお忙しいしな」
「地球圏はまだまだ厄介ですね」
「そうだ。こちらとしてもあまり兵を向けられないので申し訳ないが」
「いえ、構いません」
「済まないな。どうもネオ=ジオンもまた動こうとしているしな」
「まずは敵を減らすことを考えましょう。さしあたってはギガノスを」
「やるとするか。それではな」
「はい」
こうしてヘンケンとの会話は終わった。ブライトは月に向かうように指示を出した。
「攻撃目標移動要塞」
次に攻撃目標を提示した。
「これでギガノスとの戦いを終わらせるぞ。いいな」
「了解」
「これで敵がまた一つ、だな」
「よし」
彼等は月に向かう。その間に移動要塞への情報収集がはじめられプラート博士を中心にしてその研究が進められる。ギガノスとの最終決戦の時が来ようとしていた。
「おのれ!」
ドルチェノフはハイデルネッケンの部隊が敗れ、マイヨが生きていたことを知り思わず自分の机を叩いた。そして唸り声をあげた。
「では移動要塞まで間も無くではないか!」
「はい」
報告に来た部下がそれに答える。
「そして将兵の中には」
「殺せ!」
彼は喚いた。
「反逆を目論む者は殺せ!よいな!」
「宜しいのですか?」
「構わん!プラートに近い者達は一人残らずだ!よいな!」
「は、はあ」
だがそこにまた報告が来た。
「閣下!」
「どうした!」
「また若手将校達の造反です!そのままプラートの軍に合流しています!」
「またか!」
「はい、これで軍の四割近くが。既に」
「おのれ、おのれ!」
それを聞き呻く。だが呻いたところでどうにもならなかった。
「このままでは軍の形すらも」
「黙れ!だからこそ切り札を出すのだ!」
「切り札とは!?」
「移動要塞ではないのですか?」
「フン、そんなこともわからないのか」
ドルチェノフは彼等の言葉に口の端を歪めて笑った。
「人の心を攻めるという方法もあるのだ」
「人の心を」
「そうだ。今それを教えてやろう」
そう言うと新たな指示を出した。
「アオイ=ワカバ女史を連れて来い」
「アオイ=ワカバ女史を?」
「そうだ。話がしたい。いいな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
程なくして落ち着いた雰囲気の品のいい女性が連れられてきた。もう中年になるだろうがそれでも美しさは健在であった。ドルチェノフは彼女の姿を認めてまずはわかった。
「御前達は席を外せ」
「えっ!?」
「聞こえなかったのか!?席を外せと言ったのだ」
再度部下達に対して言う。
「わかったな」
「わかりました。それでは」
「我々はこれで」
「うむ」
こうして部屋には二人きりとなった。そのうえでドルチェノフはその女性に対して言った。
「アオイ=ワカバ女史」
「何でしょうか?」
彼女はそれに応えて声をあげた。
「実はお願いしたいことがありまして」
「私にですか?」
「ええ。戦いのことで」
「私はもう軍から身を引いた人間ですが」
「いえいえ、管制官としての貴女の御力を借りたいのです」
「私の!?」
「そうです、禅僧を終わらせる為のね」
ドルチェノフはここで嘘の笑みを浮かべた。
「それではいけませんかな」
そのうえでまた言った。
「今我が軍は圧倒的に有利な状況にあります。私はそうした状況下で敵を攻撃する趣味はない」
これもまた嘘であった。
「戦力差がはっきりとしていれば虐殺になりますからな」
「それで。私に何をしろと!?」
「彼等に停戦を呼び掛けてもらいたいのです」
「停戦を」
「左様、その気品のある御声で」
ドルチェノフは彼女を見据えて言う。
「宜しいでしょうか」
「停戦をですか」
「それだけです。その為にわざわざ捕虜収容所から御呼びしたのです」
ギルトールは無闇な虐殺を嫌う男であった。確かに彼は独裁者であり能力なき者は不要とまで言い切っていたがそれでも武器を持たぬ者、非戦闘員を害する男ではなかった。捕虜に対してもあくまで丁重であったのだ。
これは今のギガノスも同じもであうr。もっともこれはドルチェノフが捕虜のことにまで頭を回す余裕がなかったからなのであるが。
「戦いを終わらせる為に」
「私の力を」
「お願いできますかな」
彼はここに最後の陰謀を企てていた。そしてそれで以ってロンド=ベルを迎え撃とうとしていたのであった。
ロンド=ベルの作戦はおおよそ決まろうとしていた。主だったメンバーとパイロット達がマクロスのブリーフィングルームに集まっていた。
「それでその移動要塞だけれどね」
ミサトがパイロット達に説明をする。
「ちょっち普通じゃやっつけられないみたいなのよ」
「やっぱりな」
「まあそんなこったろうと思ったぜ」
ケーンとタップがそれを聞いて頷く。
「じゃあここは普通じゃない方法ってわけだな」
「よくわかったわね、ライト君」
「いやあ、それ程でも」
「それでその普通じゃない方法だけれどね」
「俺のダブルゼータでドカンとやっちまうとか?」
ジュドーが言った。
「いやいや、私のアシュラテンプルのバスターランチャーで」
「それも考えたけれど無理なのよ」
「あら」
「それは。どういうことなのだ」
「移動要塞ってね。あちこちにとんでもない射程の兵器を搭載しているのよ」
「ふん」
「運動性もメタルアーマー並でね。どうにもならないのよ」
「それじゃあどうしようもないじゃない」
カナンがそれを聞いて言う。
「どうすればいいだよ、それじゃあ」
宙も言う。
「だからね。普通じゃない方法をやるのよ」
「それは一体」
「衛星を使うの」
ミサトはこう述べた。
「衛星を」
「ええ」
「ええい、せい」
「イズミさん、ここで無理のある駄洒落は止めた方が」
「ちょっと。力が抜けたな」
プルとプルツーが今回の突っ込み役であった。
「廃棄衛星を使うのよ」
ミサトはまた説明した。
「それをぶつけると」
「ええ」
そしてライトに顔を向ける。
「その衛星のコントロールはライト君に任せるわ」
「俺のマギーちゃんでと」
「そうよ。期待してるわよ」
「了解。そういうことなら」
「で、それで移動要塞をぶっ潰したらギガノスとは殆ど終わりなんだよな」
「ええ、もう彼等には残された戦力はあまりないから」
ミサトは今度は豹馬に答えた。
「後は正直どうにでもなるわね」
「よっしゃ、ほなそれで決まりやな」
「そうでごわすな」
「月が解放されますね」
「これでまた一つ敵が減るのね」
「そうだな。ただな」
「ただ。何や?」
「あのドルチェノフっての、何かせこいことしそうなんだよなあ」
「せこいことって何なの?」
「そう言われると細かいことはわからねえけどよ」
ちずるにそう返す。
「けれど何かしそうなんだよ」
「何かねえ」
「マスドライバーはもう使えない筈だけど?」
リンダがそれに応える。
「それなのに?」
「また変なことするんじゃねえかな。あの鎧武者出したり」
「それはあると思うわ」
ミサトが述べた。
「けれど。あれはもう相手じゃないでしょ」
「確かに」
「今の俺達にとっちゃな」
健一も一平もそれは同意であった。
「相手じゃないよ」
「そうでごわす」
「油断はできないけれどね」
ボルテスチームの面々もそれぞれ言った。
「だから要塞をどうするのかなのよ、結局は」
「要塞を、か」
「ライト君、お願いね」
「畏まりました、三佐」
「何か貴方にそんなこと言われると妙な感じね」
「あら、それは」
「まっ、俺達究極の美形ヒーローだから」
「照れない照れない」
「・・・・・・あんた達鏡って知ってる!?」
「おろ、アスカ何言ってるんだよ」
「俺達みたいな二枚目を捕まえてさ。酷いこと言うよな」
「全く。そんなことばっか言ってるとそのうち洒落にならないことになるから」
「もうなってるぜ、それは」
「俺なんかリーゼント切られたし」
「けれど今の髪形も似合ってるじゃないか」
「そうだったらいいけれどな」
「じゃあそういうわけで作戦開始よ」
「了解」
皆ミサトの言葉に応える。
「周りのもドラグナーチームの後の二機はドラグナー3の護衛」
「よっしゃ」
「やってやるか」
ケーンとタップはそれを聞いて声をあげる。
「他のメンバーは敵メタルアーマーの迎撃。いいわね」
「了解」
「じゃあすぐに出るか」
ロンド=ベルは出撃し早速作戦に取り掛かった。まずは三機のドラグナーがその廃棄衛星に向かう。そしてコントロールを開始した。
「どうだい、調子は」
「絶好調ってとこだな」
ライトはタップにそう返す。
「このままいけば順調に要塞にぶつけられるな」
「そうか、それでギガノスともおさらばだな」
「ああ、敵はまだまだ残っているがな」
「その連中の相手もしなくちゃいけないのが辛いよな」
「けれど敵が一つ減ったらその分だけ楽になるぞ」
「そうだな」
「そういうことだ。じゃあやるか」
「おう。ところでケーン」
タップはケーンに声をかけた。彼は今は黙っていたのだ。
「どうした?やけに静かじゃねえか」
「いや、これからのことを考えててよ」
「これからのこと!?」
「リンダちゃんとのことか?」
「ああ。何か厄介な兄貴ができそうなんでな」
「ああ、それは諦めろ」
「諦めろっておい」
「あの旦那には勝てはしねえさ。何て言うかなあ」
「渋い、けど俺達は」
「そんなの欠片もねえよな」
「そういうことだ。まあリンダちゃんと一緒になれるだけ有り難いと思うんだな」
「そうそう」
「ベン軍曹もダイアンさんと仲がいいし」
「ああ、あのカップルは意外だったな」
「軍曹いい人だしな。何となくわかるけどな」
「男は顔じゃない」
「けれど顔までいいのがあの旦那と」
「ちぇっ、このままだと何か人気まで奪われそうだぜ」
「っていうか何かロンド=ベルの女の子達の間でもあの旦那人気高いぞ」
「格好いいって。プレシアちゃんが言っていたな」
「だって本当に格好いいから」
プレシアがそれに応えてモニターに現われる。
「おっ」
「噂をすれば」
「うちのお兄ちゃん抜けてるから。あんなしっかりした人いてくれたら頼りになります」
「ううむ、そうか」
「マサキの奴、方向音痴だからな」
「そうなんですよ。最近特に酷くて」
プレシアは困った顔になっていた。
「どうしたらいいんでしょう」
「どうにもならないんじゃねえかな、あれは」
ケーンがそれに対して言う。
「あそこまですげえと」
「やっぱり」
「まっ、そこは妹の力量だな」
「私のですか!?」
「駄目な兄貴の世話をするのも妹の務めかもな」
「はあ」
「そういうこと。実は俺も駄目な兄貴だし」
「タップさんもですか」
これは何処かで納得するものがあったようである。
「兄貴は妹を守って妹はそんな兄貴を支える。それでいいんじゃねえかな」
「そうそう、何か俺達らしくない言葉だけどな」
「有り難うございます、何か元気が出てきました」
「俺大概言われてるよな」
「仕方ないニャ」
「おいら達だって困ってるんだぞ」
「ちぇっ、御前等までそんなこと言うのかよ」
クロとシロにまで言われてマサキはさらに苦い顔になった。
「これでも最近道には迷ってねえけれどな」
「それはそうとや」
「何だ?」
ロドニーの言葉に顔を向ける。
「オルファンでクリストフが出て来たやろ」
「ああ、シュウか」
「あいつ。何か色々知っとるみたいやな」
「あいつの知ってることなんて誰にもわからないぜ」
マサキはそう返した。
「何でも幾つも博士号持っている天才らしいからな。あのネオ=グランゾンもあいつが設計、開発したんだ」
「そうなんか」
「あれ一機で宇宙怪獣十億は相手にできるそうだしな。まあとんでもないマシンだよな」
「御前等それに勝ったんやな」
「ああ」
「すっごい苦労したわよ」
リューネも話に入ってきた。
「生半可じゃなくしぶとくて攻撃力もあったし」
「まるで要塞だったな」
ヤンロンも言った。
「要塞か」
「今から攻撃を仕掛ける移動要塞もそうなのでしょうか」
エリスがここでロドニーにこう述べた。
「やはり」
「どうだろうな。流石にあそこまで滅茶苦茶なもんだとは思いたくねえが」
「ずっととんでもないのとやりあってるしね」
「とりあえずアウトレンジ攻撃が不可能な相手なのは確かだしな。ここはミサトさんの言う通りにしようぜ」
「そうだね」
彼等はドラグナー達とは少し離れて護衛及び警戒にあたっていた。そして暫くして目標である移動要塞が確認された。
「あれか」
皆それを見て呟いた。
「要塞というだけあってかなりの大きさだな」
「やはりと言うべきかな。こりゃミサトさんの言う通り普通にやったんじゃ無理だな」
竜馬と隼人はその要塞を見て言った。
「だから惑星をぶつけるってわけか」
「そういうこと」
ミサトは弁慶の言葉に頷いた。
「じゃあライト君頼むわよ」
「了解」
「周りはおいら達に任せろ」
武蔵がそう言って彼を励ます。
「御前は惑星だけに専念しろよ」
「ああ、やってやるさ」
いつもと比べて真剣みが増していた。
「そろそろだな」
「ああ」
衛星が動きはじめる。その時だった。
「連邦軍の皆さんへ」
「!?」
突如として放送がかかってきた。
「ドルチェノフ総統からの御言葉です」
「これは」
「女性の声か!?」
その通りであった。気品のある女性の声だった。
「ドルチェノフ総統はこれ以上の無益な戦闘を望んではおりません」
その声は語る。
「休戦の話し合いを望んでおります。繰り返します・・・・・・」
「この声は!」
ケーンがその声を聞いて思わず声をあげる。
「おい、ひょっとして」
タップがケーンに対して言った。
「ああ、間違いない、これは」
驚愕の顔で言う。
「お袋の声だ!間違いない!」
「何だって!?」
ロンド=ベルの面々も思わず声をあげた。
「あのマシンだな」
ドルチェノフはこの時要塞の司令室にいた。そしてそこからドラグナー達を見据えていた。
「ワカバ女史の息子が乗っているのは」
「はい」
部下の一人がそれに頷く。すると彼は満足げに笑ってこう命じた。
「あのマシンに通信を入れよ」
「はい」
「こちらに来いとな」
「わかりました」
部下はそれに従い通信を入れる。ドルチェノフはそれを見て含み笑いを浮かべていた。
「さて、どうするかな、ククク」
彼は自分の作戦の成功を確信していた。ケーンの様子を見て笑っていた。
「要塞に御前の母親がいる」
ドラグナーにそう通信が入った。
「何だってぇ!?」
「投降しろ。それだけだ」
そう言い終えるとすぐに通信が切られた。だがそれだけでケーンにとっては充分であった。
「畜生!」
「おい、どうしたんだ、ケーン!」
「皆、すまねえ!」
ケーンは皆に対して叫ぶ。
「俺は・・・・・・ギガノスに投降する!」
「何ィ!?」
「理由は聞かないでくれ!とにかく・・・・・・」
「馬鹿言ってるんじゃねえ!」
「投降するって正気かよ!」
「頭がおかしくなってこんなことが言えるかよ!とにかく俺は・・・・・・」
ドラグナーは前に出た。
「地球連邦軍ケーン=ワカバ少尉!これよりギガノスに投降する!」
「な、何ィーーーーーーーーーッ!」
「おいちょっと待てケーン!」
「フッハッハッハッハ!」
ドルチェノフはケーンのドラグナーの投降を見て誇らしげに笑った。
「見たか!ロンド=ベルのエースパイロットの一人が今降ったぞ!」
「ちょっと待ちなさいよケーン!」
アスカもケーンを呼び止めようとする。
「ふざけてたらぶっ飛ばすわよ!」
「うるせえ!そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!」
「場合じゃないんじゃないわよ!だから待ちなさいって!」
「っておい、ギガノスが反撃に転じてきたぞ!」
「まずい、このままでは!」
「クッ、作戦を一時中止します!」
ミサトは戦局が混乱してきたのを見て止むを得ず判断を下した。
「一時撤退!」
「止むを得ないか!」
「チッ!」
後ろにドルチェノフの高笑いを聞きながら撤退する。だがそれでも彼等は退くしかなかったのだ。
「おい、何でこうなっちまったんだよ!」
彼等はオービットベースまで退いていた。甲児がまず叫んだ。
「ケーンが投降って訳わかんねえぞ!」
「まあ落ち着け甲児君」
そんな彼を大介が嗜める。
「けどよ、大介さん」
「彼にも事情があるのだろう。そうでなければ説明がつかない」
「事情が!?」
「そうだ。それはおそらく」
「あの声だな」
鉄也が言った。
「声!?」
「そうだ。声だ」
彼はさらに言う。
「ケーンの様子が変わったのはあの声を聞いてからだ」
「それじゃああの声に秘密が」
「多分な。だがあの声は一体」
「ワカバ女史の声だったな」
「ワカバ女史!?」
「そうだ。聞いたことはないか」
「いや、悪いけど」
甲児はダグラスの言葉に困った顔をする。
「誰なんだ、その人」
「ワカバというとまさか」
「そうだ、ワカバ少尉の母君だ」
「やはり」
「どうしてその人が今ギガノスに」
「おそらくギガノスの捕虜になっていたのだろう。ドルチェノフはそれを利用したのだ」
「チッ、せこい野郎だぜ」
「だがそれでケーンはギガノスに投降した。それは変わらない」
「実の母親を人質に、か。戦略としてはあるな」
「鉄也さん、けどよ」
「ああ、だからといってここは下がるわけにはいかない」
「ギガノスを叩かなくてはな。これはもう止めることは出来ないんだ」
「けどよ、ケーンが」
甲児はアムロの言葉を聞いてもまだ戸惑いが見られた。
「このままだと何されるか。ドルチェノフだろ、あいつは」
彼もドルチェノフのことは聞いていた。だからこそ心配なのだ。
「そっちは安心してくれ」
「俺達がやる」
「おめえ等」
タップとライトが名乗り出て来た。
「俺達スクールからずっと一緒だったからな」
「あいつのこともわかってるつもりだ」
二人はそう言った。
「だから。あいつを何としても連れ戻す」
「ここは俺達に任せてくれ」
「いいのか、それで」
ダバが彼等に問う。
「厄介な仕事だぞ」
「厄介な仕事をやるのがロンド=ベルだろ」
「そうそう、今更そんなことを言っても」
「俺達だけ厄介な仕事やらないってわけにはいかないからさ」
「楽しくやってくるさ」
「楽しくねえ」
キリーがそれを聞いて面白そうに笑った。
「案外リラックスしてるみたいだな」
「まっ、緊張するのは俺達の性分じゃないんでね」
「宜しくやらせてもらうよ」
「それじゃあ頼むぞ」
「期待してるわよ」
「期待してもらって結構です」
タップが真吾とレミーに笑ってそう返す。
「期待されるのって悪くないものだな」
「というか心配よ」
「そうそう」
だがここで軽口を叩いたライトにはさやかとジュンが言う。
「何をするのか」
「あらら、それは残念」
「何はともあれやってやるからな」
「ああ」
彼等の目は諦めている目ではなかった。ロンド=ベルの面々も。今彼等はこの深刻な事態にも明るく向かおうとしていたのであった。
第九十八話完

2006・6・10  
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