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戦国異伝

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第六十八話 足利義昭その四


「だからじゃ、できることなら下ることじゃ」
「下りそしてですか」
「織田殿に従うべきだというのですか」
「それがよい」
 これが宗滴の判断だった。
「織田殿はこのままだと確実に上洛されるだろう」
「そして上洛して、ですか」
「それからですか」
「今で六万、二百四十万石に達しておる」
 現時点で既に戦国屈指の勢力だ。だがそれがさらにだというのだ。
「それがさらにじゃ。上洛し豊かな大和や摂津等を収めればどうなる」
「その手に入れた国とその数にもよりますな」
 側近の一人がまずこう述べた。
「ですが。畿内は豊かな国が多い故」
「天下第一の勢力となられるな」
「そしてその織田殿と対峙すればですか」
「勝つのは容易でなくなる」
 そうなるというのだ。
「到底な。だからいざとなればじゃ」
「織田殿に下る」
「そうすべきですか」
「うむ、それが妥当じゃ」
 これが宗滴の考えだった。しかしだった。
 ここで彼はだ。こうも言うのだった。
「じゃがそう考えられる者がこの家にどれだけおるかというとじゃ」
「殆どいない」
「そうなのですね」
「そうじゃ。朝倉は織田家より格が上じゃ」
 同じ斯波家に仕える系列であってもだ。それでもなのだ。
「その誇りがある故にじゃ」
「朝倉としては織田殿の風下にはですな」
「つけませぬな」
「うむ、そう考える者が殆どであろう」
 このことも見抜いている宗滴だった。
「それは殿も同じじゃろうな」
「確かに。殿は誇り高い方故」
「それ故に余計にですな」
「そうじゃ。朝倉は織田家には従えぬ」
 それは無理だというのだ。朝倉家としてはだ。
「決してな」
「では我が家は織田殿とはですか」
「今後は」
「うむ。勝てぬ戦をするやもな」
 宗滴はそのことを心から危惧していた。そうしてだ。
 その皺が深くかつ多く刻まれた顔でだ。こう言うのだった。
「その時わしが生きておればじゃ」
「はい、その時は」
「宗滴様が御自ら」
「戦う。そうしなければならん」
 そのことは絶対だった。何故ならば。
「わしは朝倉の者じゃ。朝倉の為に戦をするのが務めじゃからな」
「では我等もです」
「宗滴様と共に」
「済まぬ」
 宗滴はその彼等に深い言葉で礼を述べる。一言だったがそこには確かに深いものがあった。そしてその深いものの中でだった。
 彼は立ち上がりだ。そしてだった。
 襖を開ける。そのうえで外を見る。今は晴れやかだった。
 その晴れやかな青い空を見てだ。彼はまた言った。
「奇麗なものじゃ。青い空は」
「はい、まことに」
「今日は格別見事な空ですな」
「青じゃな」
 宗滴は今度はその色について話した。 
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