戦国異伝
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第六十六話 漆塗りその十
「紅い酒を飲んでおったな」
「その様ですな。どうやら」
「紅の血の様な酒を」
「葡萄で作った酒か」
信長はいぶかしみながら述べた。
「それはこの国で作られるかじゃな」
「はて。葡萄での酒といいますと」
「それはどういったものでしょうか」
「葡萄から作られる酒ですか」
「米からではなく」
「世の中には色々なものがあるのう」
信長は言いながら首を捻りもした。
「紅い、しかも葡萄から作る酒とはな」
「まるで鬼が生き血を飲む様ですな」
「それに似ておりませんか」
家臣達のうち何人かがこう言うとだった。
信長もだ。それに応えて言うのだった。
「そうじゃな。南蛮人は鬼にそっくりじゃしな」
「左様、あの酒呑童子等とです」
「妙に似ております」
「まるで鬼そのものの様です」
「そうとさえ思えます」
「鬼というものはじゃ」
それはどういったものかともだ。信長は話す。
「あれなのかのう。南蛮の者達だったのやもな」
「南蛮の者達が鬼だった」
「そうだと」
「そんな風にも思える」
信長は言うのだった。
「それは有り得ぬか」
「流石にそれはと思いますが」
「何しろあの者達は最近になってこの国に来ていますし」
「ですから」
それでだというのだった。
「それはとてもです」
「ないかと」
「左様か」
今一つ釈然としない顔のままで述べる信長だった。
「それはないかのう」
「それがしはそう思いますが」
「それがしもです」
家臣達はまた信長に述べた。
「普通はありません」
「平安の頃にこの国に来るとは」
「しかしあまりにも似ておる」
信長はまだ言う。袖の下で腕を組み釈然としない顔で。
「どうにもな」
「鬼と南蛮人が」
「あまりにも」
「それとじゃ。南蛮人の顔は赤いしじゃ」
また言う信長だった。
「しかも鼻が高い」
「あれですか。天狗」
「それにも似ていると」
「妙に似ているな」
また言うのだった。天狗にもだ。
「鬼に天狗。普通は一つにならぬがな」
「しかしどちらにも似ている」
「南蛮人というのは妙ですな」
「だからこそ面白くもある」
信長はまた笑ってみせる。
「酒はどうしても駄目じゃがな」
「葡萄のものでもですか」
「それは変わりませんか」
「酒なら何でも駄目じゃ」
酔うものはだというのだ。
「身体が受け付けぬ。飲んだら頭が痛くなるわ」
「左様ですな。殿は昔からそうでした」
柴田がここで話す。
「酒だけはどうしても」
「そうじゃ。わしは甘いものの方がよい」
「まことに。ですから柿や蜜柑なぞを」
「そういうのは好きじゃ」
信長の甘いもの好きについて話される。
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