戦国異伝
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第六十六話 漆塗りその三
そのうえでだ。林が信長にこう言ってきたのである。
「して文が来ております」
「ほう、誰からの文じゃ」
「信玄入道からです」
他ならぬ彼からの文だとだ。林もいささか緊張して言うのだった。
そしてそれを聞いてだ。信長もだ。
その目をすぐに真剣なものにさせてだ。林に問うたのである。
「して新五郎よ」
「はい」
「その文は今あるな」
「こちらに」
林は応えてだ。すぐにだった。
その文を出してきてだ。その文をだ。
すぐにだった。信長に差し出した。信長はその文を取りだ。
封を開いて中身を読む。そのうえで言うのだった。
「爺も新五郎もよくやったな」
「?といいますと」
「その文に書かれているのは」
「そうじゃ。甲斐の虎が言ってきたわ」
確かな笑みで言う信長だった。
「我等と手を結びたいとな」
「何と、それではです」
「我等の務めは」
「ここまでは見事じゃ」
よくできているというのだ。しかしだった。
信長は二人にだ。こうも述べた。
「しかしわかるな。務めというものはじゃ」
「九百九十九里を以て半ばですな」
「その道の」
「そういうことじゃ。まだ半ばじゃ」
だからだ。最後まで果たしてこそだというのだ。
そのことを告げてだった。信長は二人にさらに話した。
「御主等なら問題はないと思うが。よいな」
「はい、承知しました」
「それでは最後の最後まで気を抜きませぬ」
「そうしてくれ。ではな」
こう話してだった。さらに話す信長だった。
「手を結ぶとなれば手ぶらでは済まぬ」
「ではこちらもですか」
「贈りものをですか」
「そうじゃ。茶器を贈ろうぞ」
ここでも茶器だった。信長はだ。
「信玄入道も茶の道を知っておるそうじゃからな」
「さすればなのですか」
「武田殿にも茶器を」
「そうする。無論いい茶器を贈る」
それも絶対だった。しかしだ。
それに加えてだ。信長は二人にこうも話した。
「そしてそれを入れた箱じゃが」
「漆塗りですな」
平手が言った。
「それですな」
「その通りじゃ。茶器だけでは駄目じゃ」
それだけではないというのだ。
「箱もまたよいものにするぞ」
「だからこその漆ですな」
「しかも只の漆塗りではない」
信長はここでこんなことを言った。
「それじゃ。よいか」
「はい、それでは」
「どういった漆塗りでしょうか」
「それはじゃ」
信長はその漆の話をしてだった。そのうえでだ。
実に念入りに細かいところまで決めてだ。その茶器を武田に贈ったのである。
その使者は当然平手と林だ。甲斐に向かう道中でだ。
平手に対してだ。林はこう言ったのだった。
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