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戦国異伝

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第六十五話 飛騨からの使者その六


「名を何という」
「おいら?おいらは大蛇っていうんだ」
「ふむ、大蛇というと」
「そうだよ。生きもの、特に蛇を使うんだ」
 それが彼の術だというのだ。
「蛇にかけては絶対の自信があるよ」
「そうか。では後で見せてもらおう」
「思う存分見せてやるさ」
 彼も強気だった。その他にはだ。
 童顔に鞠と同じだけ大きな者もいた。その両手には巨大な鉄の爪があり装束は灰色だ。信長はその彼にも声をかけたのだった。
「御主の名は何じゃ」
「僕は獣っていうんだ」
「獣か。ではその爪でじゃな」
「うん、これで戦うんだ」
 まさにその爪でだというのだ。
「これでも素早さにも自信があるから」
「ではそれも見せてもらうか」
「期待しててね、お殿様」
 獣もまた子供じみた感じだった。声もである。
 彼にも話を聞いてだ。一人の鎧、南蛮のそれを見た。
 銀色に輝き紅い羽織さえしている。その羽織を見て信長は言った。
「それは南蛮のマントじゃな」
「はい、左様です」
「それでございます」
 その通りだとだ。からくりと煙が答える。
「この者実は南蛮の者でして」
「どうもこの国に流れ着いてきたそうで」
「ううむ、堺で南蛮の者は見たが」
 信長は兜で顔まで覆っているその南蛮の者を見て述べる。
「こうして甲冑まで見るとはな」
「ほら、その兜を外せ」
「そして殿にその顔を見せよ」
「わかった」
 片言のたどたどしい言葉でだ。甲冑の中から声がした。
「それでは」
 こう応えてからだ。その兜が外された。するとそこから彫の深い白い顔に青い目、赤い燃える様な髪の若い男が出て来た。その者を見てだ。
 信長の家臣達もだ。一様に驚きこう言い合うのだった。
「ううむ、まさかここで南蛮の者を見るとは」
「これまた大きな者じゃな」
「全くじゃ、柴田殿と同じだけはあるな」
「慶次や才蔵にもひけは取らん」
「これは大きいぞ」
「私の名前はヨハネス」
 騎士はそのたどたどしい言葉で名乗ってきた。
「ヨハネス=トリスタン=フォン=ローリンゲン」
「ヨハネス?」
「ヨハネスでいい」
 信長にこう返したのだった。
「お殿様、私をそう呼ぶといい」
「わかった。ではヨハネスよ」
「はい」
「御主の術は何じゃ」
「槍、馬」
 そしてだった。
「それと剣」
「刀を使うのか」
「違う、剣」
 こう答えてだ。その手にだ。
 両手に持つ途方もない大きさの十字の剣、それだけでヨハネスと同じだけの大きさの剣を出してきてだ。こう信長に言ってきた。
「この剣を使う」
「随分と大きいのう」
「この剣と楯」
 見ればヨハネスの背には巨大な楯もあった。 
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