戦国異伝
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第六十四話 焼きものその九
「他の者達もじゃ。そうせよ」
「幕府ではなく織田殿に」
「そうして天下の為に働け」
「そうするのが妥当でございますか」
「妥当であろうな」
言葉は変わらなかった。その表情もだ。
空は完全に闇となり日食が全てを覆っていた。その闇の中でだ。
義輝は言いだ。そしてなのであった。
「この闇は確かに不吉じゃ」
「まるで天下を覆う様なですな」
「邪なものを感じさせます」
「しかしそれは永遠のものではない」
まただった。義輝は明智と細川に話した。
「日食は続かぬな」
「はい、それは一瞬です」
「月食と共に」
「魔は長くは何かをできぬものじゃ」
日食も月食も魔が為すと考えられていた時代だ。だからこそこうした話にもなる。
そしてその魔はだ。長くはないというのである。
「この世に仮に魔がおったとしてもな」
「そういえばです」
明智がふとだ。あることに気付いた。そしてそのことをだ。義輝に話すのだった。
「織田殿、その織田殿のことですが」
「何かあったのか」
「はい、弟君の信行殿の騒ぎがありましたが」
「あの二回程謀反を起こしたというあれか」
「信行殿が一時出家され話は終わりましたが」
そのことをだ。明智は詳しく話すのだった。
「あの時、信行殿の傍に妙な者がいたとか」
「妙な?」
「はい、津々木蔵人という者ですが」
「聞いたことのない者じゃな」
義輝もだ。その者は知らなかった。
「一体どういった者じゃ」
「出自はわかっておりません」
それは今もだというのだ。
「しかし急に信行殿の前に出て来てです」
「して家臣となったか」
「はい、信行殿の」
「ふむ。そこまで聞いてものう」
義輝は顔を顰めさせていた。そうしてだった。
明智にだ。こう言うのだった。
「何者かわからぬ」
「それがしも。そうした者は」
「何か特徴はあったのか」
「服は常に闇の色の服だったとか」
「闇か」
「黒ではなく闇だったとか」
その色だったとだ。明智は義輝に話す。
そのことを話していてだ。彼はその顔をさらに曇らせて話した。
「黒といえば上杉殿ですが」
「黒と闇は違うからのう」
「丁度こうした色だったとか」
紛れもなく今彼等を覆っているその色に他ならないというのだ。闇のだ。
「その服を着てです」
「織田家に入り込んでおったというのじゃな」
「そして信行殿を惑わしていたそうです」
「待たれよ、確か信行殿といえば」
ここで細川がだ。その信行のことを明智に顔を向けてうえで話してきた。
「信長殿の弟殿の中でもとりわけ人格、そして政と文に秀でた御仁でござるぞ」
「信長殿の片腕と言ってもいい方でございます」
「その信行殿がか」
「はい、その津々木という者に惑わされていたのです」
そうだったとだ。明智は細川にも話す。
「あれだけの方は」
「その津々木という者」
義輝も日食の闇の中で顔を強張らせて述べる。それは夜の闇とはまた違った闇だった。何もかもを覆ってしまう。そんな闇だった。
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