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戦国異伝

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第六話 帰蝶その十二


「馬草を外に出しました」
「まず馬を外に出したのか」
「そしてそれがしはその間にです」
 それからだと。さらに話すのであった。
「馬の寝床の草を一気に引き出しました。大きなゴミごとです」
「ゴミごとか」
「その後で昨夜に用意しておいた新しい寝床の草を入れました。ああ、勿論小さいゴミはそれを入れる前に箒で履いておきました」
「その様にしてか」
「ゴミを引き出すのはこれを使いまして」
 言いながらであった。鉄の大きな熊手を出してきたのだった。見ればその熊手にはまだ草がついていた。使ったのは明らかであった。
「それでなのです」
「それでと申すか」
「左様です、それで早いうちに済ませました」
「わかった」
 信長はここまで聞いてまずは頷いたのであった。
「そういうことか」
「駄目でしょうか」
「駄目とは言うておらぬ」
 信長はそれは否定した。
「むしろじゃ」
「むしろ?」
「よい」
 ここ笑ってみせた信長だった。
「こうしたやり方があるか。実に面白い」
「はあ」
「木下秀吉といったな」
 あらためて彼のその名も問うた。
「そうだったな」
「左様ですが」
「貴様はこれから侍大将だ」
 名前を聞いてからまた告げた言葉はこれであった。
「よいな、もう足軽ではないぞ」
「えっ、私がですか」
「弟も立場を上げる」
「秀長もですか」
「あれは見させてもらってからだがな」
 そのうえでだと言ってもだ。約束はしたのであった。
「そうさせてもらうぞ」
「私が侍大将にですか」
「さらに功を挙げればさらにあがる」
 信長はさらに言ってみせた。
「よいな、それではだ」
「はあ。何か信じられませんが」
「信じればよいのだ。貴様のその力でなったのだからな」
 秀吉のそのきょとんとなった顔を見てだ。そうして語るのであった。
「存分に信じよ」
「左様ですか」
「さて、それではこの厩にじゃ」
 信長は秀吉に告げ終えてから。あらためて厩を見てだ。そうしてそのうえで村井と丹羽に対して話すのであった。
「馬を入れるがこれからは厩の掃除の仕方は決まったな」
「そうですね、確かに」
「それは」
 二人も信長のその言葉に頷いた。
「それでは。これからは」
「そう致しましょう」
「うむ、その様にな」
 また言う信長であった。
「それでは馬に乗るか」
「何と、朝乗られたばかりですぞ」
「それでもですか」
「ははは、わかっておる」
 二人の家臣の言葉にはだ。顔をあげて笑ってみせて返すのであった。
「今はそれはせん。夕刻じゃ」
「それで御願いします」
「政があります故」
「そうじゃな。それもたんまりとあるからのう」
「堤に田畑です」
「それと町もです」
「楽市楽座は全ての町でせよ」
 信長はその中でこう言った。
「よいな、それはな」
「それは今まで通りしておりまする」
「道についても」
「それでよいのじゃ。田畑と町があってこそじゃ」
 その二つをとりわけ見ていることがはっきりわかる言葉だった。 
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