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久遠の神話

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第二十六話 壬本という駒その一


                        久遠の神話
                    第二十六話  壬本という駒
 その黒い男権藤は己の屋敷の中でだ。こう己の執事に語っていた。
 彼は今食堂の長方形の白いテーブルかけで飾られたそこに一人で座っている。そのうえでだ。
 昼食、十品はある。その中のオムレツを食べながらだ。こう話すのだった。
「今日は遅れたな」
「ご昼食がですね」
「仕方がないがな」
 食事が遅れてしまったことをだ。受け入れての言葉だった。
「今日は多忙だった」
「はい」
「今日も、と言うべきかも知れないがな」 
 こう言って微笑みもするのだった。
「それでだが」
「はい。ご昼食の後ですが」
「またすぐに仕事だったな」
「書類にサインをお願いします」
 その仕事とはそれだとだ。執事は述べた。
「今日の分を」
「わかった。それでだが」
「剣士のことでしょうか」
「あの男はどうしている」
「あの駒ですね」
「早速他の剣士と戦っているか」
「追跡をはじめた様です」
 戦ってはいない。だがそれにかかったというのだ。
「そうしています」
「そうか。では間も無くだな」
「戦いに入るかと思います」
「では見よう」
 オムレツを食べ終えた。それからすぐにだった。
 オムレツが置かれていた銀の食器は執事の傍にいた給仕に下げられる。そしてだ。
 ハンバーグ、濃厚なダークブラウンのソースがかけられたそれが権藤の前に置かれた。そのハンバーグを新しいフォークとナイフで食べながらだ。権藤はまた言った。
「あの男の戦いをな」
「勝てるかどうかではなく」
「使えるかどうかだ」
 今見るのはそれだというのだ。
「それを見よう」
「はい、それでは」
「そしてだ」
「そして、ですね」
「使えるのなら今後も駒を用意して使う」
 ハンバーグを切った。そして。
 それを口の中に入れて味わいながらだ。言うのだった。
「そうしていこう」
「ではその場合はまた駒を手配しておきます」
「頼む。ああした碌でもない輩でいい」
「駒とするのはですね」
「所詮は使い捨ての駒だ」
 だからだ。それでいいというのだ。
「何の使い道もない。世の中の役に立たない輩でな」
「世の中そうした輩もいますな」
「ゴミを再利用するのだ」
 駒をだ。見下しての言葉だった。
「それだけだ。私は少しでも役に立つ者にはそうはしない」
「誰であろうともですね」
「誰かの。何処かでそうなれる者にはな」
「しかしその誰にも。何処かにも全く役に立たない者は」
「せめて私が駒として使ってやる」
 冷淡極まる声でだ。権藤は述べた。
「ゴミは捨てて燃やすだけでは勿体ない」
「再利用して燃え尽きさせるのですね」
「そうするのだ」
 これが権藤の考えであり言葉だった。
「あの壬本もだ」
「実にどうしようもない輩であっても」
「ああした輩は本当にそうするしか使い道がないからな」
 あの男の名前にだ。権藤は応えたのだった。
「だからこそだ」
「駒ですか」
「駒を使うのも政治だ」
 今度は政治の話になった。 
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