戦国異伝
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第六十三話 岐阜その二
「では武田とはじゃ」
「ことを構えない」
「それが一番ですな」
「そうじゃ。武田とは手を結ぶ」
そうするというのだ。
「わかったな。武田とはことを構えぬしじゃ」
「手を結ぶ」
「そうされますか」
「さしあたってはな」
こんなこともだ。信長は言った。
「そうするとしよう」
「しかしです」
ここで言ったのはだ。池田だった。
「武田は一筋縄ではいきませぬ。そうおいそれと我等と手を組むでしょうか」
「下手にすれば逆に敵になるというのじゃな」
「はい」
まさにそうだとだ。池田は信長に述べた。
「そこは用心すべきでは」
「わかっておる。ここは贈るものも凝るぞ」
信長は池田の言葉に応える形でさらに述べた。そのうえで平手に顔を向けてだ。こう彼に告げたのだった。
「よいか。漆塗りじゃが」
「漆の箱ですか」
「それをうんと凝るのじゃ」
そうしろというのだ。
「それを武田に贈る。それにじゃ」
「さらにですか」
「爺、御主とじゃ」
平手だけではなくだというのである。林にも顔を向けてだ。彼にも告げたのだった。
「新五郎、御主も行け」
「それがしもですか」
「相手が相手じゃ」
だからだとだ。信長は林にも告げるのだった。
「御主も行って二人で話をまとめよ」
「さすれば」
「武田にしてもいい話じゃがそれでもじゃ」
油断していなかった。それも全くだ。
「この話は成功させねばばらん」
「さもなければですな」
「織田にとっては脅威になりますな」
平手も林もここで言う。
「武田が敵に回るとなると」
「今の我等にとっては」
「兵が倍あっても容易な相手ではない」
信長は武田をこうまで言うがそれはだ。決して過大評価ではなかった。その証拠に彼だけでなくだ。他の家臣達もこう言うからだった。
「左様ですな。二十四将もですが」
「真田幸村という男ですな」
「あの者、噂に聞いていますがかなりの者です」
「まだ若いにしても」
「まず武芸では慶次に匹敵する」
信長はその慶次を見て言う。
「若しくは才蔵にじゃ」
「それがしも腕には自信があります」
それはだとだ。可児も自負と共に言ってみせる。
しかしだ。それでもだとだ。可児はこうも言ったのであった。
「ですがわしができるのは槍だけです」
「それがしもですな」
このことはだ。慶次も同じだった。彼は屈託のない笑顔で話す。
「槍の他はどうも」
「御主はもう少し政や軍略を学ぶのじゃ」
佐々がその慶次に呆れた顔で声をかけた。
「才蔵もじゃがな。これで学問をせぬではまさに不便者じゃぞ」
「ははは、不便者ですか」
「笑うところではないぞ」
佐々は慶次の今の笑いにすぐに突っ込み返した。
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