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戦国異伝

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第六十一話 稲葉山入城その五


 信長は満足した顔でだ。こう言った。
「上手くいったな」
「まさか。お言葉だけで敵を壊走させるとは」
「一戦も交えずに勝ってしまいましたな」
「しかも多くの兵を得て」
 このことも大きかった。今も彼等のところには兵が来ている。織田はその彼等を快く迎えてだ。そのうえでさらに大きくなっていた。
 その状況を見ながらだ。彼等は信長に言うのだった。
「ううむ、こうしたやり方があるとは」
「殿のお言葉はまた別格ですな」
「こうした状況まで生み出すとは」
「斉藤に止めを刺したかの様です」
「今の斉藤と戦をするのは無駄じゃ」
 信長はこうまで言い切った。
「言ってそれで終わるのならそれに越したことはない」
「ですな。それではこれで」
「稲葉山まで一気にですな」
「一気に迫りそのうえで囲む」
「そうするべきですな」
「そうじゃ。行くぞ」
 まさにそうするとだ。信長は言う。
「とはいってもじゃ」
「とはいっても?」
「といいますと」
「最早城の攻防にもなるまい」
 信長は満足した笑みで述べた。
「あれではな」
「兵がさらに逃げて、ですか」
「そのうえで」
「そうじゃ。最早美濃はわしのものじゃ」
 ひいてはそうなるとだ。信長は満足した面持ちで言い切る。
「後は龍興めが城から逃げ出すのを待つだけじゃ」
「ではその際はです」
 山内がここで信長に進言する。
「龍興めを追いそのうえで討ちましょう」
「そうせよというのか」
「はい、逃していては禍根を残しますし」
「とはいっても所詮小者じゃ」
 信長は山内の進言を聞きはしたがだ。こう返すのだった。
「確かに執念深く生きている限り織田の前に来るじゃろうな」
「では余計に」
「だから小者じゃ」
 こう言ってだ。信長は龍興を追うことには積極さを見せなかった。
 そしてだ。こんなことも言うのだった。
「今斉藤家の者は大抵織田に入っておるな」
「確かに。奥方様もそうですし」
 その通りだとだ。山内もこのことには頷くころができた。
「斉藤家は最早織田家の親族であり臣下であります」
「あれはその中の小者じゃ。小者が逃げただけじゃ」
 あくまでそれだけだというのだ。
「所詮何度向かってきてもじゃ」
「何ということはありませんか」
「そう思うがのう」
「いえ、殿それはです」
「あまりにも楽観に過ぎます」
 大津と万見がここで主に言う。
「どんな者でも禍根ならです」
「それは取り除くべきです」
「だからだというのじゃな」
「はい、我等も辰之助様と同じ考えです」
「やはりあの男はここで捕らえましょう」
 こう言う二人だった。その話を聞いてだ。
 信長もだ。遂に頷きかけた。そこでだった。
 さらにだ。林も彼に言ってきたのである。 
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