| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第六十一話 稲葉山入城その二


 それぞれ左右からだ。喚声が上がったのだ。
「な、何じゃ!?」
「この大きな喚声は一体」
「何があったのじゃ!?」
「何が起こったのじゃ!」
 斉藤の軍勢が一斉に浮き足立つ。ここにだった。
 墨俣から出て来た織田の軍勢の左右にだった。それぞれだ。
 また青い軍勢が出て来た。その軍の先頭には。
「何っ、あれは柴田勝家ではないか」
「佐久間信盛もいるぞ」
 二人の姿を見てだ。多くの者が驚きの声を挙げる。
「まずい、数もかなりじゃ」
「我等の倍以上はいるぞ」
「よくここまで来たな!」 
 そしてだ。あの声もだった。彼等にとってはやはり不意に聞こえてきた。
 丹羽と木下の間からだ。青い具足に蔵、そして金と銀の陣羽織の男が出て来た。彼こそは。
「織田信長!」
「馬鹿な、今は清洲にいるのではないのか!?」
「それがどうしてここに」
「しかも主な家臣達も皆いる」
 彼の後ろにだ。織田家の錚々たる面々が揃っていたのだ。
「しかもあの大軍は」
「左右の軍も合わせると」
「四万を超えているぞ」
「かなりの数だぞ」
 織田のその大軍も見られる。
「あれだけの数がいればじゃ」
「我等なぞ一ひねりではないのか」
「四万は優に超えている」
「それに対して我等は一万」
「数はもうどうしようもないぞ」
「これでは」
 こうだ。斉藤の兵達は囁き合ってだ。戦の前から飲まれていた。
 しかもだ。織田軍の中にはだった。
「おまけにあちらには安藤様がおられるぞ」
「稲葉様に氏家殿もだぞ」
「不破様までおられるではないか」
「他の家臣の方々も国人の方もとは」
「これではじゃ」
 兵達は彼等の姿も見てだ。そのうえでさらに浮き足立つ。
 それを見てだった。信長は満足した面持ちになる。そのうえでだ。
 後ろに控える池田にだ。こう言うのだった。
「効果覿面じゃな」
「どうやらあちらは全く予想していなかったようですな」
 池田もだ。その彼等を見て言う。
「殿がここにまで来られることを」
「そうじゃな。しかもじゃ」
「はい、織田の主力が一気に来るとは」
「度肝を抜かれたな、間違いなく」
「斉藤は予想しておらんかった」
「情報を掴めてもいませんでしたな」
 そのこともだ。彼等は察したのである。
「何一つとして」
「だからああなっておるのか」
 信長は今度は斉藤の兵達を見る。見れば確かに少なくなっている。しかしそれ以上にだ。彼等の弱体化が見て取れたのである。
 浮き足立つ彼等を見てだ。信長はさらに話すのだった。
「脆いな」
「確かに。ここで一撃を加えれば終わります」
「よし、決まりじゃな」
 ここまで話してだ。信長は意を決した顔になってだ。
 そのうえでだ。前に出たのだった。これを見てだ。
 左右の軍をそれぞれ率いるだ。柴田と佐久間が言った。
「ふむ。突撃か」
「総攻撃じゃな」
 それだとだ。彼等も確信したのである。そのうえで自身が率いる兵達に話した。
「ではそろそろじゃ」
「よいな」
 彼等がこう言うとだった。
 彼等の後ろに控える者達、柴田には前田と佐々が、佐久間には金森と川尻がついている。
 その彼等もだ。意を決した顔で述べるのだった。
「では我々もまた」
「殿の御命令が出ればすぐにですな」
「全軍を以て攻撃を仕掛けましょう」
「そして一気に」
「うむ、倒す」
「よいな」
 柴田と佐久間は彼等に話してだった。そのうえでだ。
 今まさに攻めんとする。しかしここでだった。
 信長はだ。突撃を言わずにだ。何とだ。
 斉藤の者達に対してだ。こう言ったのである。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧