戦国異伝
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第六十話 四人衆帰順その六
「よいな。笑っていればじゃ」
「それでいいのですか」
「人は色々とある」
話は人生のものにもなる。
「しかし出来る限りじゃ」
「笑えるようになればいいのですね」
「笑えるならば笑う」
信長は言う。
「そうすればよいのじゃ」
「そうですか。ではこれからも」
「うむ、共にいようぞ」
信長は微笑んでいた。今は。
そうしてだ。その微笑と共にこんなことも述べた。
「それでなのじゃが」
「それでとは?」
「南蛮菓子のことを聞いておるか」
「南蛮菓子の?」
「あれは大層美味らしいのう」
楽しげな笑みになってだ。その話をはじめたのである。
「だからじゃ。今度機会があればじゃ」
「それを召し上がられたいのですか」
「うむ。そう考えておる」
信長は言った。
「どうじゃ。南蛮の菓子について食したいと思わぬか」
「殿はまことに甘いものがお好きですね」
「酒が飲めぬからな」
「何につけてもそれですか」
「わしは酒は駄目じゃ」
信長はこのことはどうしてもだというのだ。
「だからじゃ。どうしてもじゃ」
「甘いものにですね」
「そこに至る」
こう言うのである。
「そういうことじゃ。それでその南蛮菓子じゃが」
「そうですね。これは殿もですが」
「わしも?」
「甘いものを食べた後はよく歯を磨くことです」
信長を見ての言葉である。
「くれぐれも」
「歯をか」
「甘いものもいいですが」
「歯を磨かぬとじゃな」
「後が怖いですから」
「そうじゃな。わしはなったことはないが」
信長も神妙になる。そのことについては。
「虫歯は辛いそうじゃな」
「大層痛いものと聞いております」
「無駄な痛みは受けるものではない」
「さすればですね」
「うむ、では甘いものの後ではな」
「よく歯を磨かれることです」
何時の間にだ。帰蝶から言う様になっていた。
「そのことは忘れられぬ様」
「わかった。ではそのうえで」
「甘いものを召し上がられるべきです」
「それを忘れてはならんな」
「虫歯になられたいですか?」
帰蝶の言葉はここでは切実なものだった。
「それは如何でしょうか」
「まさか。そんなことはない」
絶対にないとだ。それは信長も言う。
「そんなものになりたくはない」
「それならです」
「歯は磨くことか」
「それはしっかりと御守り下さい」
「甘いものを食すにも注意が必要じゃな」
信長はこのことに気付いた。あらためてだ。
「歯は大事にせねばな」
「そうですね。くれぐれも」
そんな話もしたのだった。信長は帰蝶にあえてそんな話をした。そしてだ。
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