戦国異伝
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第五十九話 一夜城その十二
「出陣はその後ですか」
「墨俣に兵は送る」
それはするというのである。
「よいな」
「わかり申した」
信行はこのことには素直に頷いた。
「では五郎左に使いをやりですな」
「あ奴の兵を入れる」
「そしてそのうえで」
「権六と牛助にも伝えよ」
続いてこの二人だった。
「それぞれ兵の一部を墨俣に入れよとな」
「はっ、ではそれも」
「さて、国人や四人衆をこちらに入れれば」
どうかというのだった。
「いよいよじゃな」
「美濃が我等の手に」
「美濃は治めがいのある国じゃ」
信長が最初に思うのはこのことだった。
「土地は肥えておるししかも人の行き来が多い」
「だからですな」
「うむ、非常によい国じゃ」
こうだ、信行にも話す。
「それに稲葉山の城じゃが」
「とかく堅固な城ですが」
「あの城に入るぞ」
「稲葉山の城にとは」
「そうじゃ。あの城は都に近い」
信長はそのことを見ていた。都をだ。
「清洲よりさらにな」
「都に近付く為にもですか」
「それにあの城は非常に守りもよいしな。ただじゃ」
「ただとは?」
「山城はもう治めるのに限度が出て来ておるのう」
稲葉山城は山城である。それが厄介だというのだ。
「稲葉山におるうちはよいがじゃ」
「いずれはですか」
「別の城を築くべきやもな」
こう言うのである。これは今集っている家臣達にも言っていた。
「山城ではなく、山城と同じだけ堅固な城をな」
「確かに。山城は行き来が不便でございます」
このことをだ。林も言った。
「従って政をするのにはどうしても限度がありますな」
「そうじゃ。それで平城がよいのじゃが」
「平城は守りにくいですからな」
林はまた言った。
「政を行いやすくとも」
「一長一短でございます」
ここで言ったのは大学だった。
「政を取るか守を取るかですが」
「どちらも取る」
こう言うのがだ。まさに信長だった。
「稲葉山は美濃にあり城下町も栄えておる」
「政はしやすいですな」
「山城にしては」
林や大学達以外の家臣の者達も言う。
「しかしですか」
「そこには限度があり申すか」
「そうじゃ。だから後には考えたい」
信長は考える顔で言っていく。
「しかしまずは稲葉山じゃ」
「あの城に入りそのうえで」
「まずは美濃を治めますか」
「うむ、そうしようぞ」
こうした話もしてだった。信長は今度のことも考えるのだった。そうしてそのうえでだ。彼は遂にだ。王手から詰みに進めるのだった。
第五十九話 完
2011・9・23
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