久遠の神話
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二十二話 広瀬の礼儀その十一
「生き残る為にだ」
「強くなることに執着はないのですね」
「幾ら強くなっても目的を果たせないのなら意味はない」
そこは割り切っていた。見事なまでにだ。
「だからだ」
「強くなられることに興味はなく」
「生き残ることに興味がある」
そちらにはなのだった。
「ただそれだけだ」
「そうですか。では」
「話はこれでいいかな」
「はい」
もう終わったとだ。聡美も広瀬に答えた。
「有り難うございました」
「最後まで生き残るのは俺だ」
またしてもその目を強くさせて述べた広瀬だった。
「そのことだけは確かだ」
「ですか。願いの為にも」
「願いがなければ」
ふとだ。広瀬は彼にしては珍しい顔も見せた。
遠い目になったのだ。そのうえでの言葉だった。
「俺もここまでは戦いにこだわらない」
「人はそうですね」
そして聡美はだ。達観している言葉だった。
その言葉でだ。独り言めいて呟いたのである。
「何かがあるからこそことを為せる」
「それが人じゃないかな」
「そうですね。神々も」
聡美は今度は彼等のことを述べた。人ではない彼等のことをだ。
「そうですし」
「神々?それは神話のことかな」
「神話は御存知でしょうか」
「一応は」
知っているとだ。答える広瀬だった。
「知っているさ、それは」
「そうですか。ならお話は早いですね」
聡美は広瀬のその話を聞いて笑顔になった。微かなものであるが。
そしてその笑顔でだ。こう広瀬に話したのである。
「神々は己に似せて人を創りました」
「その姿に性格も」
「そうです。人はそうした意味で神と同じなのです」
「そうなるな。ただ」
「ただ?」
「君は神々と言うが」
複数形であることをだ。広瀬は指摘したのである。
「それはどうしてなのかな」
「それが何か?」
「神とは言わないのはどうしてなのかな」
広瀬が聡美に問うのはこのことだった。
「神々と言うのは。君はギリシアにいたからギリシア正教じゃないのかな」
「ギリシア正教ですか」80
「そう、それじゃないのかな」
「はい、それは」
どうかとだ。聡美も答えてきた。しかしだ。
その返答は広瀬の予想したものではなかった。それはこうしたものだった。
「私にはです」
「君には?」
「はい、あまり関係のないものです」
こう広瀬に言ったのである。
「それはです」
「ギリシア正教が関係ない」
「そうです。私には」
「じゃあ君はギリシア正教の信者ではない」
「そうです」
まさにだ。その通りだとだ。
聡美はだ。淡々と広瀬に答えたのだった。
「私はそうです」
「ギリシア人なのにか」
「そうしたギリシア人もいますが」
「ではカトリックなのかな」
聡美の話からだ。こう考えて言った広瀬だった。
「カトリックは欧州中にいるのだから」
「いえ、カトリックでもありません」
そのことも否定する聡美だった。
ページ上へ戻る