戦国異伝
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第一話 うつけ生まれるその七
しかし吉法師はだ。その彼にはとりわけ頑なであったのだ。
「平手殿がお嫌いなのか?」
「いや、どうもそうではないらしい」
「それは違うのだな」
三人はここで吉法師の政秀への感情も推察した。
「どうやら」
「違うな」
「そうなのか」
「うむ、どうやらだ」
林だった。彼が他の二人に述べていた。
「吉法師様はとかく癇の強い方だな」
「ご気性はかなり荒いな」
「刀を振るわれることも多い」
まだ幼いというのにだ。吉法師のその気性の荒さはよく知られるようになっていたのだ。実際に刀を振るってそれで罪人を成敗したことすらあった。
「嫌いな者には声さえかけぬ」
「悪者を手打ちにしたことすらあった」
「さすれば」
「しかし平手殿には違う」
林はまたこのことを指摘したのだった。
「政のことでも問うことがあるな」
「そして戦では信秀様だな」
「どちらかだな」
「左様、吉法師様はとかく難しい方」
指摘されるのはこのこともだった。
「その様な方があそこまで問われる」
「御父上であられる信秀様に対してと同じ」
「さすれば」
「そうじゃ、信じておられる」
これは間違いないというのである。
「平手殿をな」
「それであの御様子というのは解せぬな」
「全くだ」
柴田も佐久間もこのことには首を傾げるばかりだった。
「わからぬところの多い方だが」
「何を考えておられるのか」
「しかし平手殿を頼りにされているのは確かだ」
林はそれは間違いないというのだった。
「それはだ」
「ううむ、我等とて吉法師様はまだわからぬところの多い方」
「さすればここは」
「見させてもらおう」
これが林の出した結論だった。
「今はな。そうするしかあるまい」
「そうだな、今はな」
「時もあるしな」
こう話してだった。三人は今は様子を見ることになった。そして吉法師は寺で学んだ後は戦の真似事をして遊ぶようになった。その時であった。
ここには彼の弟である勘十郎も来ていた。彼は常に身なりを正しくしていて穏やかだった。まるで夜盗の如き身なりの兄と違いその評判はよかった。
「いや、見事な方じゃ」
「うむ、よく学ばれるしのう」
「しかも馬の乗り方もよい」
「字もよく書かれる」
民はこう言ってむしろ彼の方を敬愛していた。しかし当の勘十郎はある時兄にふと声をかけられたのであった。
「勘十郎、そなた戦を学んだことはあるか」
「兵法の書なら幾冊か」
彼はこう兄に答えた。
「読んでおりますが」
「それはいいとしよう」
吉法師は兵法の書を読んでいることはいいとした。しかしここでこうも言うのであった。
「しかしだ」
「しかし?」
「それだけでは駄目だ」
こう言うのであった。
「それだけでは基礎を固めただけじゃ。土台に過ぎぬ」
「土台ですか」
「土台からさらに城を築く」
「城をというと」
「来るのじゃ」
また弟に告げた。
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