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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その10

 
前書き
サバイバル演習その5直後の一幕です。  

 
「さて。これで俺の話は終わりだ。明日から俺達は小隊として任務に就く!!」

殉職者達の慰霊碑の前で、忍びとして大切にしなくてはならない話をしてくれた後、私達を振り向いたカカシさんが笑顔でそう言いました。

その言葉に、私の胸は期待で高鳴り、高揚します。
夢にまで見た忍びとしての第一歩です。
私の夢への足がかりです。
ぞくりと全身が期待で震えました。

「これにて解散!とするつもりだったけれど、せっかくだからね。ちょっと親睦を深めておこうか」

ニコニコと笑うカカシさんに、私は首を傾げました。

親睦を深めるって、何をどうやって。

私の疑問は、発言者のカカシさん以外全員共通の疑問でした。
春野さんが間髪入れずにカカシさんに問いかけます。

「カカシ先生。親睦を深めるって、こんな所で何をどうするんですか?」

不思議そうな春野さんにカカシさんは事も無げに言いました。

「ん?ああ。ナルトの作ってきた弁当を皆で食べてから帰ろう。そろそろ昼飯の時間だしね」

その言葉に私はぎょっとしました。

忘れてました。
そういえば、そうでした。
カカシさんの裏をかいてやろうとして用意したお弁当の量に、そんな言い訳つけてたんだったっけ。
目に見えてカカシさんがご機嫌なのは、もしかして私、カカシさんに変な勘違いを与えてしまったんでしょうか。
例えば、私が仲間想いだとか。
こう見えて、カカシさん、仲間想いの熱い人です。
なんかちょっと変なフラグ立ててしまった気がします。
そんなつもりは微塵も無いので、内心、変な評価は困ります。
私、仲間想いなんかではありません。
そう言った方が納得させやすかったからああ言っただけです。
だらだらと変な汗をかいてしまいます。

「弁当を用意して来たサスケには悪いが、これは持って帰ってくれ」
「分かった」

カカシさんにお弁当を返されたサスケは飄々とした態度を崩さずに素直に頷く。
でも、実はそのお弁当も私が用意したんですけどね。
そんな事が春野さんにバレたら厄介なので言いませんけど。
でも、これだけ陽気が良いと、持ち帰っても食べれなくなってそうですよね。
後で残飯と一緒に肥料として家の畑にでも蒔きましょうか。
それとも、サスケのお家で小鳥や猫の餌付けに使おうかな。
サスケは良い顔しないだろうけど。
お腹壊したらまずいから、後でサスケに釘刺しておこう。
大丈夫だと思うけど念の為に。

「良いかな、ナルト?」

ぼんやりと考え事をしていたのに、突然カカシさんに話を振られた私は思わず無言で首を振りました。

「え、ええ。良いですよ」

私に断る理由は無いです。
せっかく作ったので、どうせなら食べられないよりは食べて貰ったほうが嬉しいですし。
四人で円になってお弁当を広げるとか、まるでちょっとしたピクニックの様です。
何だか居心地が悪い。

「さて。それじゃ、遠慮なく頂こうか」
「あ、はい。どうぞ」

私の声に率先して蓋を開けたカカシさんは、一言声をあげて固まりました。

「これは!!」

何だろう。
何をそんなに驚いてるの?

カカシさんの声に、私は自分の分のお弁当を開きました。

雑穀ご飯に、梅干しと黒胡麻。
鮭の切り身ときんぴら牛蒡と青菜のからし和え。
ポテトサラダの彩りにサラダ菜とプチトマトを添えた、見た目、栄養バランス共に整ってるお弁当です。

私もサスケも育ち盛りだし、忍びとしての身体造りは基本だし、食に手は抜けません。
最近は、詰め方も板について来ました。
ちょっと自慢ですけど。

そう思った時、カカシさんは驚いた声で私に問いかけて来ました。

「ナルト。お前、本当にこれをお前が作ったのか?」
「はい」

否定する必要は無いので、素直に頷きました。
早速サスケは食べ始めてます。

「美味しい…」

春野さんが呆然と呟きました。
美味しいと言われて、私はすごく嬉しくなりました。

「そう?良かった。口に合って。駄目な物があったら残して良いからね」

サスケはいつも何でも食べてくれるけど、味については何も言ってくれないんだよね。
こっちから聞けばあれこれ言ってくれるけど。
そして、実は今日のポテトサラダはいつものサラダとはちょっと違います。
それに気付くだろうか。
ポテトサラダを口に運んだサスケがちょっと固まりました。
私に視線を送ってくる。

「何、サスケ。何かまずかった?」
「いや、逆だ。お前、これに何入れた?」
「チーズ」
「ふうん」

それっきり黙々とお弁当を食べ続けるサスケに、私はちょっと聞いてみた。

「気に入ったんなら、また作ろうか?」
「頼む」
「分かった」

このサラダ、実はヒナタが考えてくれたんだよね。
味見してみたけれど、私も嫌いな味じゃなかった。
今度からポテトサラダ作るときは、いつもチーズ入れてみようかな。
栄養価もあがるし。

そんな事を考えながら、私は自分のお弁当に手を付け始めた。
やっぱり、胡麻塩じゃなくて、ただの黒胡麻にしたのは正解でした。
この鮭、ちょっとしょっぱかったです。
全体的に、塩気を抑えて置いて良かった。
味的にもバランス取れてます。

心配していた事が解消されて、ちょっぴりほっとした時でした。
カカシ先生がいつの間にか空になったお弁当箱にお箸を置いて笑顔で言ってきました。

「いやあ、うまかった。ナルトは良い嫁さんになりそうだね」

ぴしり、と空気に罅が入ったような気がしました。
事実、私とサスケと春野さんは硬直しました。
そう言われるのは、私は別に構いませんけど、でも、対外的に私は男と言う事になってるんです。
カカシさんのその言葉は、それは、男に言う台詞でもなければ、褒め言葉としてはとても微妙な一言になると思います。

春野さんは何かスイッチが入ったらしく、食い入るようにカカシさんと私を見比べ始めました。
サスケはお弁当を口に運ぶのを止めて、硬直しています。
そして私は半目になって行きました。

「……先生。僕、男です。そういう趣味でも無いので、せめてそういう台詞は春野さんに言ってあげて下さい」

私の冷たい一言に、硬直していた空気が動き始めました。
苦笑するカカシさんと、騒ぎ出した春野さんを無視して、私はお弁当に専念していきました。

うん、我ながら、美味しく出来たと思います。
今日の夜は何にしようかな。
後でサスケに何食べたいか聞いてみようっと。
なんで硬直しっぱなしなのかは分からないけど、ここまでサスケが茫然とするなんて珍しいしね。

面白い物を見せてくれたお礼に、たまには優しくしてあげてもいいでしょう。
ヒナタが教えてくれたサラダが美味しいと言ってくれたのが、すっごく嬉しかったって訳じゃありません。
サスケの呆けた顔が面白いからです。
それだけです!

 
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