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久遠の神話

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第二十話 ハヤシライスその十一


 上城に対しても顔を向けてだ。その話をしたのだった。
「上城君もいいな」
「禿げることですね」
「そうだ。気をつけておいてくれ」
「ううん、今はふさふさですけれど」
「急に来る場合もある」
 禿はだというのだ。
「恐ろしいものだからな」
「ううん、禿は怖いんですね」
「試しに若禿の人に言ってみればいい」
「禿のことをですか」
「すぐに殴られる」
 そうなるというのだ。
「若しくは蹴られる」
「つまり暴力が来るんですね」
「そうだ。それだけ禿は恐ろしいものなのだ」
「確かに。怖いですね」
 上城にしても実感できることだった。何故なら彼も男だからだ。
 その男故にだ。彼は言った。
「気をつけます」
「そうしてくれよ。樹里の子供が禿げたらな」
 父は笑いながら話すのだった。
「それは悲しいことだからな」
「ちょっとお父さんどさくさに紛れて何言ってるのよ」
「むっ、何がとは?」
「だからよ。子供がどうとかって」
「だからあれだろ」
 平然としてだ。父は娘に対して言う。ハヤシライスを食べながら団欒の中でだ。
「上城君と付き合ってるんだろ?」
「付き合うってそんな」
「まさかこうして家に連れて来て一緒に御飯を食べてだ」
 そしてだというのだ。
「それで今も一緒にいて付き合っていないとかはな」
「言わないだろっていうのね」
「普通は言えないぞ」
 笑顔、温かい笑顔で娘に言ったのである。
「とてもな」
「うう、そう言うの?」
「何度でも言うぞ。上城君ならな」
「上城君がどうだっていうのよ」
「お父さんもいいからな」
 父親としてのだ。優しい言葉だった。
「高校卒業したらどうするんだ、それで」
「大学に行くつもりだけれど」
 進路のことはすぐに答えられた。樹里もだ。
 そしてだ。樹里は彼のことも話したのである。
「上城君もだし」
「そうか。二人共なんだな」
「そう。できれば八条大学にね」
 所謂エスカレーター式にだ。いきたいというのだ。
「その為にそこそこの成績は維持してるつもりだし」
「そうか。それは上城君もだな」
「ええ、まあ」
 話を振られてだ。上城はその通りだとだ。樹里の父に答えた。
「それは」
「そうか。じゃあ二人共大学を卒業してからだな」
 また笑顔で言う父だった。
「結婚は」
「だから何でそうなるのよ」
「結婚はしないよりする方がいいぞ」
「幾ら何でも早過ぎるじゃない」
「早いか?」
「私達まだ高校生だし」
 何時の間にかだ。樹里は上城との交際を認めていた。彼女の気付かないうちにだ。この辺りは父の人生経験に基く独特の誘導術と言えた。あざといと言えばあざといだろうか。
 その術にかかりながらだ。樹里は言うのだった。
「そんな。結婚も子供も」
「考えられないか」
「夢みたいな話よ」
 まさにだ、そうだと答える樹里だった。
「そんなのって」
「いや、夢じゃないぞ」
「現実だっていうの?」
「お父さんの友達は高校卒業と同時にな」
 つまりだ。樹里達より一つ上でだというのだ。 
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