戦国異伝
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第六話 帰蝶その四
「もっと余裕が欲しいところだ」
「申し訳ありません」
「しかし。わしがこんな人間じゃ」
己のことも言う信長だった。
「それを考えれば丁度いいのかもな」
「宜しいですか」
「わしはこうした人間じゃ。そしてそなたや信広が真面目な者だとそれで丁度よかろう」
「そういうものでしょうか」
信行は兄のその言葉に今は首を捻るばかりであった。
「兄上のことは承知しているつもりですが。それでも私が真面目でよいとは」
「そなたにそれに」
平手をちらりと見てだ。少し笑ってから述べた。
「爺もおるからのう。それでよいのじゃ」
「殿は少し勝手が過ぎますぞ」
その平手の言葉が来た。
「茶を嗜まれるのはよいのですが」
「茶はいいものじゃな」
ここで信長は平手の話に合わせてきた。自然とその顔が綻んできている。
「あれは心が落ち着く」
「左様、何も常に槍や弓ばかりを持つわけではありますまい」
「そうじゃな。それにわしは」
信長はここで己のことも話すのであった。
「酒が駄目じゃからな」
「そういえば殿は」
「確かに」
「酒を飲まれませぬな」
「駄目なのでしたか」
「うむ、飲めん」
居並ぶ家臣達の声にも頷いて返した。
「どうも身体が受け付けん。甘いものの方がよい」
「そういえば兄上は昔から果物がお好きでしたな」
信行もこのことを覚えていた。流石に幼い頃から供にいただけはある。
「それでなのですか」
「柿も好きじゃし蜜柑も西瓜も好きじゃ」
まずはこうしたものを挙げていくのであった。
「そうした甘いものをふんだんに食えるようにもしたい」
「さすればです」
林がそれを聞いて述べてきた。
「民にそれを作らせ売らせればいいのです」
「そういうことじゃな。何も米だけ作らせればいいというものではない」
信長も林のその言葉を受けて頷いた。
「それではじゃ。これからは民に様々なものも作らせる」
「はっ」
「胡麻でも胡瓜でもじゃ。とにかく作れるものを作らせよ」
こう命じた。話は何時しか政のものになっていた。
「そして民には年貢よりもじゃ」
「年貢よりも」
「どうされるのですか?」
「こちらに納めさせる分は低くさせよ」
これがそうしたものへの信長の言葉だった。
「よいな。民には多く取らせよ」
「多くですか」
「米よりも多くですか」
「そうじゃ。それでさらに多く作らせるのじゃ」
信長は自然に笑っていた。そのうえでさらに言うのであった。
「さすればそこからさらに豊かになるからな」
「民でなく国も」
「全てがですね」
「そういうことよ。それに」
ここでまたふとした感じの言葉を出してきた。
「先程柿の話をしたな」
「はい、確かに」
「それをしましたが」
「それで思いついたのだがな」
そしてだ。その己の考えを家臣達に告げるのだった。
「道を整備する。そしてじゃ」
「道を整備するだけではなくですか」
「さらにですか」
「一里ごとに目印として木を植えよ」
これがその信長の考えだった。
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