久遠の神話
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第十八話 教師その十
「そうして時が来ればお考えになって下さい」
「そうすればいいんですか」
「いつかわかるでしょう。そして」
「そして。ですか」
「君が戦いにおいて何をするべきかも」
それもだ。わかるというのである。
「ですから。今は頭の中に入れておいて下さい」
「わかりました」
このことは頷くことができたのだった。その話をしたうえでだ。
高代は今度こそ本当に上城と別れた。まずは彼から校舎に戻っていく。
そして後に残った上城がだ。悩む顔でだ。
鈍い足取りで校舎に戻る。そうしてだ。
樹里のところに、今は食事を終え自分の机で雑誌を読んでいる彼女にだ。声をかけたのである。
「あの」
「どうしたの?大学に行ったんじゃなかったの?」
「ちょっと話したいことができたんだ」
こう話してだ。そのうえでだった。樹里にこう言ったのである。
「いいかな」
「ひょっとして」
「うん、戦いのことでね」
まさにそのことでだというのだ。
「ちょっといいかな」
「わかったわ」
樹里も頷きだ。そのうえでだ。
二人はその場を後にしてだ。校舎の屋上に出た。その青い空を見ながらだ。
彼はだ。こう言ったのだ。
「高代先生だけれど」
「先生が?ひょっとして」
「そうなんだ。剣士なんだって」
このことだ。樹里に話したのだ。
「先生自身か言われたよ」
「じゃあやっぱり」
「そう。間違いないよ」
高代が剣士である、そのことがだというのだ。
「あの人もね」
「それで先生も戦うのかしら」
「そう言ってたよ。先生も適えたいことがあるからって」
「そうなの。それでなの」
「けれどね。先生はずっと先生だったよ」
二人のよく知っている高代のままだったこともだ。彼は話した。
「紳士で優しくてね」
「けれど剣士なのね」
「うん、それで戦うと言ってるんだよ」
「とてもいい人だけれど」
「剣士なんだ」
彼と戦わなくてはならない、これが現実だというのだ。
この現実を述べてだ。上城はだ。
あらためてだ。樹里に尋ねた。今二人は同じ空を見上げている。
その中にある白い雲のうちの一つを見てだった。上城は言った。
「僕は本当にどうしたらいいのかな」
「戦うのか。どうするのかよね」
「僕は先生とも戦いたくないよ」
その雲を見つつだ。彼は言うのだった。
「絶対にね。けれどね」
「どうしてもわからないのね」
「どうしたらいいのかな」
雲は空に流れるままだ、しかしだ。
彼はその心を流れさせる訳にはいなかった。それでだ。
思案に耽る顔のままでだ。言ったのである。
「剣士としてね」
「本当にこれからね」
「どうしたらいいのか。わからないよ」
こうした話をしてもだ。上城はわからなかった。
だが樹里はだ。その彼に言うのだった。
「ねえ。何でもね」
「何でも?」
「何でも言っていいから」
こうだ。同じ雲を見上げながら彼に告げたのである。
「私にね。言いたいことがあればね」
「言っていいんだ」
「ええ、いいわ」
微笑んでだ。上城に告げたのである。
「何でも言いたいことがあればね」
「いいの?愚痴なんか言っても」
「いいわ」
それでもいいとだ。その微笑みで彼に言うのだった。
「好きな時に好きなだけね。それで上城君が何かを掴めるのならね」
「僕が何かを掴めるのなら」
「そう。だからね」
「うん。答えを出すよ」
上城もだ。樹里の気遣いに感謝してだった。
そのうえで彼も微笑みだ。こう言ったのだった。
「絶対にね」
「そうしてね。ずっと一緒にいるから」
「うん、そうするよ」
新たな相手が出て来た。だがその彼には樹里がいた。その優しさに感謝しつつだ。彼は戦いに対してどうするかの答えを考えていた。それを必ず出すことをだ。
第十八話 完
2011・12・14
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