戦国異伝
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第五十四話 半蔵の選択その四
「何人じゃ、それで」
「二百人でございます」
それだけいるとだ。服部はすぐに答えた。
「それだけでございます」
「二百か。充分じゃ」
家康にとってはだ。それで充分だった。
そのうえでだ。服部にこうも告げたのだった。
「主な相手はわかっておるな」
「武田の下にいる」
「真田じゃ」
真田と言ったところでだ。家康の顔が曇った。
そうしてだった。真田についての話をはじめるのだった。
「その真田には十人の腕利きの忍の者がおる」
「十勇士ですな」
「真田十勇士」
既にだ。その名は天下に知られていた。
「一人一人が並の忍百人に匹敵する程だという」
「それ位はありましょう」
服部は決して彼等を侮ってはいない。だからこそこう言うのだった。
「あの者達は」
「やはりそうか」
「はい、まさに一騎当千の者達です」
ここまで言うのだった。
「そしてその棟梁である真田幸村は」
「智勇を兼ね備え」
まだ若いがだ。そのことで知られるようになっていた。
「主信玄入道に対する絶対の忠義と清廉潔白の心を持っておる」
「はい、まさに」
「心技体を全て備えておるわ」
「その真田幸村に対することができるのは」
「徳川家にはおらん」
家康はこのことははっきりと言い切った。
「一人もおらん」
「そう言われますか」
「事実だから言える」
家康の表情はここでは吹っ切れたものだった。
「あそこまでの者は徳川にはおらん」
「天下においても」
「あそこまでの武勇と知略を持ち」
真田幸村にはそれがあるというのだ。その二つが。
「そして忠義に熱き実直な心を持っておるとなると」
「もう一人は」
「上杉家の直江兼続であろう」
彼がそうだというのだ。真田に匹敵する者だと。
「わしの家には武勇に優れた者も知略ができる者もおる」
「徳川にも」
「こう言っては何だが」
何気にだ。家康の顔が綻んだ。ここで。
「徳川の家臣は少ないが質ではどの家にも引けは取らん」
「十六神将と言われているとか」
「そうじゃ。この者達はわしの誇りでもある」
この辺りが家康だった。家臣達を大事にするだ。
そしてだ。家康の最大の誇りは何かというと。
「そして誰もが忠義ではじゃ」
「絶対のものがあると」
「そうじゃ。わしに絶対の熱い忠義を持ってくれておる」
「では忠義では」
「徳川の者はあの真田にも引けは取らん」
「しかしですか」
「あれだけの漢になるとおらん」
そしてだ。さらにだった。
「あの十勇士もじゃ」
「ではそれがしの役目は」
「その十勇士と対せよ」
そうしろとだ。服部に対して告げた。
「よいな」
「はい、さすれば」
「やってくれるか」
「だからこそ参りました」
不敵な笑みになってだ。服部は家康に答えた。
「この岡崎に」
「言うたな。ではじゃ」
「それでは」
こうしたやり取りを経てだ。服部は家康に仕えることになった。彼が従えるその二百人余りの忍達もだ。それに従うのだった。家康は忍を手に入れたのである。
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