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戦国異伝

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第六話 帰蝶その一


                 第六話  帰蝶
 初陣を飾った信長だったがあちこちの国でだ。それぞれの大名が大きく動いていた。
「そうか、北条がか」
「左様です」
 松井が信長の前に控えて述べていた。
「河越の戦に勝ちました」
「それも大勝利だそうだな」
「八万の両上杉、そしてその他の関東の大名達の軍をです」
「僅か八千の兵で破ったか」
「まずは講和を結ぶふりをして」
 松井は信長に対してだけでなく彼の周りにいる他の家臣達にも話していた。彼等もまた松井のその話を耳を離すことなくしかと聞いているのだ。
「油断させそのうえで夜襲を仕掛けました」
「そうか。十倍の敵をそれで破ったか」
「北条氏康はそれにより関東を手に入れました」
 松井はこうまで言った。
「扇谷上杉は滅亡、山内上杉も最早適わず越後の長尾を頼るようです」
「長尾をか」
「左様です。長尾も越後を統一しておりますが」
「その長尾だが」
 信長は長尾について話をはじめた。
「どうやら信濃の豪族達を迎え入れたようだな」
「はい、村上に小笠原です」
 今度言ってきたのは武井だった。
「武田に敗れたあの者達が長尾を頼っております」
「さすればだ」
 信長はここまで話を聞いてからまた述べた。
「長尾は北条、そして武田を相手にすることになるな」
「だとすればです」
 それを聞いてだ。金森が言った。
「長尾は両家により潰されてしまいますな」
「確かに。関東を制する北条と信濃を制した武田に」
「揉み潰されますな」
「長尾もこれで終わりでしょうか」
「いや、そうはならん」
 だが、だった。信長はここで言うのだった。
「長尾は強い。これまで一度も敗れたことがない」
「越後の龍長尾景虎」
「その男はですか」
「武田も北条も確かに強い」
 信長はこのことも認めた。
「しかしだ。こと戦においては長尾はさらに強い」
「越後の龍はですか」
「まさに軍神だと」
「そう仰るのですか」
「この三つの家は容易ではない」
 信長の目が光った。
「おそらく。このまま力を蓄える。傷を受けて暫しの間動けなくなることはあってもだ」
「左様ですか、この三つの家は」
「そこまでなのですか」
「強いというのですね」
「その通りだ。しかしその河越の戦だが」
 信長はそこに話を戻してきた。
「やはりあの白がものを言ったな」
「はい、その通りです」
 松井もその通りだと述べた。
「夜の中にです。その白い鎧も兜も旗もよく見栄えたそうです」
「それでは同士討ちの心配はないな」
 信長はそれを聞いて述べた。
「戦が終わり目的を果たしたと浮かれ酒を飲み寝ている兵なぞ。どうということはない」
「北条の白、まさか夜戦においても目立つとは」
「そうしたことにも使えましたか」
「そこまでは考えませんでした」
「そしてだが」
 信長は今度はだ。池田に顔を向けた。そのうえで彼に問うのだった。
「勝三郎」
「はい」
 池田は主の言葉に応えた。
「毛利のことでござるな」
「そうだ、毛利も勝ったそうだな」
「はい、厳島の戦に勝ちました」
 こう主に述べるのであった。
「陶晴賢は敗れました」
「五千で二万の兵が敗れたか」
「まさかとは思ったが」
「陶もまた」
 他の家臣達は池田のその話を聞いて述べた。 
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