戦国異伝
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第五十三話 徳川との盟約その七
「はじまるのじゃ」
「何と。盟約を結んで終わりではなくですか」
「これからですか」
「はじまりだと言われますか」
「話はこれからよ」
家康は驚いている彼等にだ。さらに話していく。
「これからはじまるのじゃ」
「盟約を結びこれで西のことは安心できても」
「まだどころかですか」
「これからですか」
「そうじゃ。信長殿は天下を目指されている」
このことは既にだ。家康も知っていた。
「そして我が徳川はじゃ」
「生き残ることですが」
「まずは」
ここに織田と徳川の違いがあった。織田は既に百万石を優に超える、百四十万石程の大勢力である。しかしそれに対して松平はまだ出て来たばかりだ。石高も五十万石と織田の三分の一位しかない。
しかも東に武田という戦国でも屈指の敵を抱えている。それならばだった。
「まずは武田と渡り合うことじゃ」
「あの武田とですか」
「そして生き残る」
「やがて来る」
武田が攻めて来ることはだ。既に家康は読んでいた。
「それに対さなければいかん」
「それがはじまったのですか」
「今ここに」
「織田殿と手を結んでようやくじゃ」
生き残ることができるようになったというのだ。
「そしてじゃ」
「そして?」
「武田との戦以外にもですか」
「まだありますか」
「やらなければならないことが」
「織田殿と共に天下を歩む」
次に言ったのはこれであった。
「それがはじまったのじゃ」
「我等が天下をですか」
「天下取りの道を歩むのですか」
「三河の田舎者が」
「その通りじゃ。それがはじまったのじゃ」
家康は前を見て話していく。
「織田殿と手を結んだことによりじゃ」
「ううむ、生き残る為の戦とですか」
「天下の道を歩むこと」
「その二つがですか」
「今はじまったのですか」
「その通りじゃ。はじまったのじゃ」
そうした話をしてだった。家康は。
前を見たままだ。こんなことも言ったのだった。
「わしはついこの前まで今川殿の家臣に過ぎなかったが」
「それがですな」
「五十万石の大名になり」
「そして天下の道を織田殿と共に歩める」
「世はどうなるかわかりませんな」
「全くよ。世は一歩先がわからん」
家康はこうも言った。
「全く以てな」
「では。今はですな」
「岡崎に戻りそのうえで」
「我等のするべきことをしますか」
「そうされますな」
「まずは政じゃ」
家康もこのことを第一に考えていた。
「三河はまだまだ田畑も町も整ってはおらんな」
「はい、尾張を見て驚きました」
「実に田畑も広くしかも耕され」
「町は大きく栄えております」
「堤も道も見事です」
信長はそこまで整えていたのだ。ただ田畑や町を栄えさせているだけではないのだ。
「三河もあそこまでしないといけませんな」
「まさに」
「政にはし過ぎるということはない」
家康は政についてはこう考えていた。
「三河も治めれば治めるだけ豊かになるぞ」
「なりますか、三河も」
「尾張の様に」
「うむ、きっとなる」
家康は確信していた。
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