戦国異伝
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第五十三話 徳川との盟約その三
彼そのものと言っていい織田の色で出て来てだ。彼は言ったのだった。
「おお、よく来きたな竹千代よ」
「はい」
微笑みだ。家康も信長に顔を向けて応える。
「お久し振りです」
「そうじゃな。お互いに大きくなったのう」
「そうですな。それでは」
「さて、積る話をしようか」
「そうしましょう」
こうしてだ。信長は己の家臣達を背にしてだ。86
家康を前にしてだ。そのうえで話すのだった。
まずは昔話だ。それからだ。
家康を見てだ。こうも言ったのだった。
「しかし御主少し太ったのう」
「そうでしょうか」
「幼い頃はもう少し痩せていたぞ」
こうだ。笑って話すのだった。
「しかしそれでもじゃな」
「はい、鍛錬は怠ってはいません」
それはだとだ。家康は信長ににこりと笑って話した。
「日々続けております」
「剣に馬にじゃな」
「それと水練も」
それもだ。怠ってはいないというのだ。
「雨でも雪でもです。続けています」
「そうか。そういえばそれはじゃ」
「信長殿に言われた幼い頃からです」
そうしているというのだ。
「続けております」
「真面目じゃのう、相変わらず」
その真面目さにだ。信長は笑いながらだ。そのうえで言うのだった。
「御主らしいわ」
「それがしらしいですか」
「うむ、らしいぞ」
微笑んでだ。こう家康に話すのである。
「そして律儀じゃな」
「律儀ですか」
「そうじゃ。律儀じゃ」
また言う信長だった。
「それがよいのじゃ」
「しかもよいと」
「律儀はそれだけで価値がある」
信長は家康に話を続ける。
「特に今の世ではじゃ」
「戦国の世にあっては」
「何時誰が裏切るかわからぬ」
それがまさに戦国の世だ。信長も多くの裏切りを見てきている。
それでだ。家康にも言うのだった。
「そうした世にあって御主の律儀は宝よ」
「それがしはただ不器用なだけですが」
「不器用と律儀は違うぞ」
家康の謙遜はそうではないと返してだ。
信長はだ。家康にさらに述べた。
「聞いておる。御主は相手が誰でも交わした約束は守るな」
「その様に心掛けているつもりです」
「そしてそれを果たす」
ここでも家康の謙遜を打ち消して述べる。
「それこそがよいのじゃ」
「そうであればいいのですか」
「してわしはどうじゃ」
にやりとした笑みになった。それでだ。
あらためてだ。家康に問うたのだった。
「わしはあの頃から変わっておるか」
「大きくなられました」
信長の問いにだ。家康はまずはこう返した。
それからだった。彼は家康に述べた。
「しかしよいところはそのままですな」
「同じか」
「はい、同じです」
微笑みだ。そうだと話す家康だった。
「何か今こうしていても」
「あの時と同じか」
「そう感じます」
実際にだ。そうだというのだ。
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