| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

#39 "death voice"

 
前書き

 

 
【11月2日 PM 10:04】

Side ソーヤー

「ロットン そろそろ行きますね。ゲームもいい加減にするんですだよ」

昼から続いた私とロットンの対戦は五分五分のまま推移していた。
私もそうだが、彼も対戦相手に餓えていたのだろうか。
腕前が互角というのもあったのだろう。
負けた方が即座にコンティニューを選び、(ちなみに私も彼もキャラは変えなかった。おかげで今日一日だけでだいぶ腕が上がった気がする)エンドレスに続く対戦は全く終わる気配を 見せなかった。
シェンホアが声を掛けてくるまでは。

「むう…しかし……」

ロットンはコントローラーを握ったまま、モニターから目を逸らそうとしない。
画面の中では彼の操作するガンマンキャラが、私の操作する魔法少女キャラにK.O.され地面にのびているところだ。
彼としては即座にコンティニューしたかったところなのだろうが、シェンホアが良いタイミングで声を掛けてきたせいでそうはいかなかったのだろう。

「しかしも、かかしもないね。お仕事はキッチリこなすものよ。
大体あんた今日一日中ゲームしてただけじゃないですか。
何のためにこの街に来たと思ってるですか」

モニターの中ではコンティニューを促すカウントダウンが始まっている。
ロットンはそれを未練がましげに見つめている。サングラスを掛けたままで。
よくそんな状態でゲームが出来るものだと思うが、特に何かツッコミを入れるつもりはなかった。
人にはそれぞれ拘りというものがある。これだけは譲れないというものが。
それは他人が踏み込むものでもないだろう。
第一そんな状態の彼相手に、五分の成績しか残せてない私に何かをいう資格もない。
例えば私が圧勝していたとすれば、外してみたらどうかと勧められるのだろうが。

「……止むを得ん。ソーヤー、この借りはいずれ」

そう言ってロットンは渋々立ち上がる。
私もゲーム機の電源を切って、コントローラーから拡声器に持ち帰る。
まだこの街に来る前、遠い昔にさる理由で(認めたくはない自分自身の若さ故の過ちとだけ申し上げておきましょう)声帯を切り裂かれた私は、この拡声器なしでは喋る事が出来ない。
単純に声が出せなくなるというだけではなく、酷い鬱状態に入ってしまい、話すどころか身動きすらしたくなくなるのだ。

ちなみに今使っているのはスティックタイプの携帯用拡声器。
これを喉に押し当てて使うのだ。
ただ、最近チョーカータイプのものが出たらしいので、そちらに切り替えようかとも考えているのだが。
(そうしたいのには理由がある。以前出張業務中に拡声器を壊してしまったことがあるのだ。お陰で仕事中に鬱状態に入り込んでしまい、散々な目に会った)

『デ…ふたリの仕事ッて…やっパリ… 例の…犯人ヲ探す……ことなノ?』

腰に手を当ててロットンを睨みつけているシェンホアに訊ねる。

「ええ、そうなんですだよ。最初はその予定じゃなかったんですけどね」

肩を竦めながら返答するシェンホア。
ロットンはコートでも取りに行ったか、リビングの奥へとある部屋に入っていった。

ところで、私の声は拡声器によって補完されているわけだが、中々のデスヴォイスに仕上がってる。
これだと微妙なニュアンスなど伝えるには不便なのだが、 元々それほど深い付き合いをしてる知り合いがいるわけでもない。
それもあってか別に不満など感じていない。
慣れてくるとこのヴォイスにもキュートさがあり、味わい深くもあるのだが。

「待たせたな、シェンホア」

奥の部屋からロットンが出てくる。
予想通り日中に着ていた黒いコートを纏っている。
どうでもいいがこの街だとコートはさすがに暑くはないのだろうか。しかも黒。
私も決して人の事は言える服ではないのだが、私は基本的に日中は出歩かない。
今日は気紛れ中の気紛れだ。

「それじゃ私らは出てくから、ソーヤーは好きにしてくれてていいね。
それとも自分の(ヤサ)に帰るか?」

シェンホアに訊ねられてふと考える。そう言えば私は何故ここにいるんだろうと。

始めはたんに太陽(天敵)から逃げ出すことしか考えてなかったのですが、ロットンからゲームに誘われて。
それに付き合っていたら時が経つのも忘れ熱中してしまい、シェンホアには昼食どころか夕食までご馳走になってしまいました。

このまま二人を見送って一人でごろごろするのも良いし、自分の部屋まで帰ってもどちらでもいいわけですけど、さて……

『シェン…ホア…チョっと聞くの…ダケれど、相手の目…星は…ついテ…るの?』

「それが全然なのですだよ。取り敢えず街を彷徨いてみるつもりなのですけど、どうかしましたか?」

シェンホアが怪訝そうに聞いてくる。
ロットンは明後日の方向を向いたままだが。
一体彼の目には何が見えているのだろう。知ってしまうのも怖い気もするが。

『あなタ…たちさえ…ヨければ… 私も…連レて…いって…モラエない?
出来れば…家ニ…寄って……もらえレバ… 助か…るのだけ……ド』

私の商売道具は自分の部屋に置きっ放しにしてある。
夜ならともかく昼にアレらを持ち歩くのは、かなり気が乗らなくては無理だ。

私の商売道具というのは、仕事柄どうしても大荷物になりがちだ。
死体を入れる袋やら、解体用の道具など中々に嵩張るのだ、これが。
まあ、今回はソレらは必要ない。
今夜いるのは死体処理用ではなくて、死体を作り出す方のやつだ。
勿論それもお気に入りの道具がある。トビッキリのやつが。

「それくらいは全然構わないね。どうせなんの目処も立ってない事だし」

「ソーヤー。君の勇気と友情に敬意を表す」

あっさり了承されて、二人と一緒に夜のロアナプラへと人狩り(マンハント)に出掛けることとなりました。

犯人には些か恨みもありますからね。上手く見つかるといいのですが……









 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧