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久遠の神話

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第十五話 選択その一


                     久遠の神話
                    第十五話  選択
 上城の前に出て来たのは広瀬だった。その彼を前にしてだ。
 上城はその剣を再び構えた。その彼にだ。
 広瀬はだ。こう言ったのだった。
「君は剣士とは闘わなかったんじゃないかな」
「はい、その通りです」
 そのことは否定しなかった。彼自身もだ。
 しかしそのうえでだ。広瀬にこうも言ったのである。
「ですが貴方は」
「俺が。そうか」
 広瀬はふと樹里を見た。そのうえでの言葉だった。
「俺がその娘を狙うと考えているのか」
「違うんですか。それは」
「有効な手段かも知れないが俺はしないな」
 そうしたことはしないとだ。広瀬は断言した。
「君や他の剣士。怪物とは闘ってもな」
「それじゃあ」
「約束する。何なら文章に書いてもいい」 
 そこまでしてもいいとさえだ。広瀬は言ってみせた。
「彼女には何もしない」
「そうなんですか」
「そうだ。しかし君は別だ」
 広瀬は樹里から視線を離してだ。上城にそれを戻した。
 そしてそのうえでだ。こう彼に告げたのである。
「剣士だからな」
「だからですか」
「若し君が剣を出していなくとも構わない」
 広瀬は上城にこうも述べた。
「俺は君を倒す。それだけだ」
「それだけか」
「そう、それだけだ」 
 これが上城への言葉だった。
「剣士だからな」
「そうですか。だからここにも」
「怪物の気配を察して来た」
 これは事実だった。
「しかし。君がまだいたからな」
「それなら僕と闘うんですね」
「生き残るのは俺一人だ」
 この考えもだ。広瀬は言ってみせる。
「さて。でははじめようか」
「上城君、ここは」 
 樹里がだ。上城に顔を向けてだった。
 そのうえでだ。彼に言うのだった。
「やっぱり」
「戦いは避けないといけない」
「ええ、だからね」
 辛い選択肢だがそれでもだとだ。樹里は言うのだった。
「逃げることもね」
「まさか今その時になるなんて」
 上城は困った顔で広瀬、今の相手を見て呟いた。
 そうしてだ。剣を収めたのだった。
 彼がそうしたのを見てだ。広瀬はこう言った。
「闘わないっていうのかな」
「少なくともそれはしません」
 困った顔でもだ。それはだというのだ。
「僕は。剣士の人とは闘いません」
「そう言うんだな。けれどそれでも」
「貴方はですね」
「俺は闘う」
 顔を上げてだ。上城を見ての言葉だった。
「例え君が剣を収めてもな」
「そしてなんですね」
「最後に生き残るのは俺だ」
 こう言ってだ。その七支刀を両手に持ち掲げてだ。
 身体を右に捻り顔の高さで横にしてだ。言うのだった。
「そして俺の願いを適えさせてもらう」
「僕は。それでも」
「逃げよう、今なら何とかなるわ」
 樹里がここでまた彼に言ってきた。
「そうしないと本当に」
「逃げる、ならいい」
 広瀬は樹里の言葉を聞いてだ。こうも言った。
「君の好きにするといい」
「逃げると。それで」
「俺は追う。君だけを」
 ここでも樹里は狙わないというのだ。あくまで上城だけだというのである。 
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