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戦国異伝

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第四十九話 認めるその六


「また増えましたな」
「倍になっておりますが」
 五百からだ。倍というと。
「千ですか」
「千も揃えましたか」
「鉄砲も多いに越したことはない」
 また言う信長だった。
「言うたな。戦は数じゃと」
「だから鉄砲もですか」
「必要ですか、多く」
「何でもとにかく数じゃ」 
 そうだというのだ。
「斉藤にもその数で向かうが」
「向かうが?」
「まだありますか」
「戦に入る前に。あの稲葉山の城を攻める前にじゃ」
 稲葉山城を攻め落とせば勝ちである。しかしなのだ。
 その前に色々とすることがあるとだ。彼は言うのである。
「まだやることがある」
「といいますと?」
「伊勢と志摩を手に入れ浅井殿と同盟を結び」
「そして徳川殿とも手を結ぶ」
「それだけではありませんか」
「まだありますか」
「そうじゃ。今度は美濃の中じゃ」
 そこだというのだ。仕掛けるのは。
「美濃の主の斉藤義龍はどうなっておる」
「はっ、その義龍殿ですが」
 ここで滝川がだ。信長に述べる。
「最早幾許もないかと」
「そうか。間も無くか」
「病は思ったよりも重いです」
 そのだ。義龍の病はだというのだ。
「そしてその後ですが」
「息子の斉藤龍興じゃな」
「龍興殿はどうにもならない様です」
 滝川はその龍興についてはこう話す。
「そうした方の様です」
「だからじゃ。義龍が死ねばじゃ」
「攻めるのではありませんな」
「それはまだですな」
「うむ、まだじゃ」
 攻めはしないというのだ。それは。
「あちらから来れば退けるがな」
「こちらからは攻めはしない」
「では」
「伊勢や志摩と同じじゃ」
 こう言うのである。
「そういうことじゃ」
「では、ですか」
「あの時と同じ様にですね」
「謀で、ですか」
「斉藤の中を切り崩しますか」
「そう考えておる」
 実際にそうだとだ。信長は話す。
「まあそれはあの国の主が代わってからじゃ」
「義龍殿は手強い」
「だからこそ」
「賢い者には下手な謀は打てん」
 これもまた事実だった。信長は義龍は決して侮ってはいなかった。どういう者か知っているからこそだ。彼は今は慎重なのである。
 それでだった。今は仕掛けないとしてだ。時を待つのだった。
 その間にだった。市がだ。
 近江に入った。そこでだ。
 目の前にいた長政はというと。
「あっ・・・・・・」
「これは」
 お互いにだ。声を出してしまった。市は。
 その若い毅然とした顔立ちの若い男の顔を見てだ。こう言うのだった。 
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