久遠の神話
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第十二話 一人ではないその五
部屋に入るとだ。聡美は笑顔でこう言った。
「大蒜とオリーブですね」
「ああ、いい匂いだろ」
「それとトマトと」
見ればだ。トマトも切って炒めていた。
「それで、ですね」
「大蒜は外せないにしてもな」
「ソースは幾つか用意されてるんですね」
「日本のやつだけれどいいよな」
「はい」
聡美は微笑んで中田に答える。今二人は台所とリビングから話している。
「日本のソースも好きです」
「ならいいさ。ミートソースにナポリタンにネーロもあるからな」
「ネーロ?」
ネーロと聞いてだ。上城と樹里が問い返した。
「何ですか、それ」
「それもパスタのソースなんですか」
「ああ、あれだよ」
中田はそのネーロというソースについて話した。
「イカ墨のあれだよ」
「ああ、あれですか」
「イカ墨なんですか」
「それのことをイタリアじゃこう呼ぶんだよ」
そのネーロだというのだ。
「そうなんだよ」
「成程、そうなんですか」
「イタリアの呼び方なんですか」
「美味いぜ」
中田はそのイカ墨のソースについて笑顔で述べた。
「ちゃんとオリーブオイルもあるからな」
「パスタには欠かせませんね」
オリーブオイルについて聡美はにこりと笑ってこう述べた。
「あれがなければ」
「パスタは作るなってな」
「そうまで思います」
「パスタはスパゲティな」
それだというのだ。パスタは。
「じゃあ楽しんでくれよ」
「はい、それでは」
聡美は中田のその言葉にも応えた。そしてだ。中田は聡美にも言った。
「じゃああんたもな」
「ええと、お手伝いすることは」
「それはいいからな」
手伝いは無用だというのだ。
「休んでおいてくれよ」
「じゃあ」
「テレビな。二人と一緒に観ておいてくれ」
具体的にはそうしてくれというのだった。こうしてだ。
聡美もソファーに座ってだ。その鬘のタレントを観た。彼女はすぐに言った。
「この人は」
「わかるんですか」
「御自身を偽っておられますね」
こう言ったのである。
「頭も。そして」
「そしてですか」
「秘密があります」
「秘密っていいますと」
「浮気をされていますしよくない方々とも交際があります」
聡美はそのタレントを観ながらだ。樹里に話していく。
「若い独身のアナウンサーの人と浮気をされていて。それに」
「よくない方々というのは」
「マフィアですね」
聡美の口から剣呑な言葉が出て来た。
「日本では暴力団でしょうか」
「その人達とですか」
「お店をしていてその関係で」
そのタレントを観ながらだ。淡々と話していた。
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