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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~

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#33 "Master of Jackpot"

 
前書き

現実(うつしよ)こそ夢。

夜の夢こそ真実(まこと)




ー 江戸川 乱歩 ー




 

 
【11月2日 PM 3:58】

Side レヴィ

「よぉ~二人して来てくれたのかよ。嬉しいぜぇ~街がこんな時だろ?
最近は客足も鈍っちまってんだよ。まあ、ゆっくりしてってくれや。どうせ未だ準備中だからよお。
ところで、レヴィ……」

「黙れよ、ローワン。アタシはやんねえからな」

ゼロが街に出るっていうから、暇潰しにくっついて来たのはいいけどよ……
何で選りによって、この店なんだよ。

『ジャックポット』はこの時間だってのにまだ営業を始めてねえ。
騒ぎの影響で客足が鈍ってんのか……

いつもとは雰囲気の違う店内を見渡す。
音楽も掛かってねえ、照明もごくごく当たり前なもので従業員だけが動き回ってる。
ローワンの店に来る時は、大抵営業中だからこういう光景は初めて見る。
当たり前と言えば当たり前だけど、どんな時でも馬鹿騒ぎしている訳じゃない。
こんなクソッタレな街にある、こんなクソッタレな主人のいる店でも。

「おっ!レ~ヴィ~。うちの店に興味津々かぁ?
見えるぜぇ~オメエのそのクールな瞳ん中で燃えてる熱い炎がよお。
心配しねえでも大丈夫だぜえ。
いざアンタが上がる時にゃあよお。 最っ高のステージを造りあげてやるから…」

「そんなありもしねえもんが見えるような目ん玉なら要らねえだろう。
くり抜いて代わりに銀紙でも貼っとけよ。何なら今すぐアタシがやってやろうか?」

ソファにふんぞり反るローワンを睨みつけて黙らせる。
全くこいつに喋らせてたらキリがねえ。

肩を竦めて漸く回りすぎる舌を引っ込めたローワンから、隣で突っ立ったままのゼロへと標的を換える。
そもそもテメエが用があるから此処に来てんだろうが。
何で呑気にテメエまで天井なんぞ眺めてやがんだよ!

「おい!用があんのはアンタの方だろうが!とっとと済ませろよ!」

「ん?ああ、済まん。
こんな静かな『ジャックポット』は初めてだからな。
つい周りを見てたんだ。何だかあまりにも雰囲気が違うんでな」

そう言って今度は見上げていた視線を水平へと戻し、中をぐるりと見回す。
確かにアタシも同じような事を考えてたけどよお。
テメエがそんなんじゃあローワンの野郎が、またつまんねえ事をベラベラと……

「へっ、そりゃ言いっこなしだぜ」

言わんこっちゃねえ。こうなると思ったんだよ。

「おい、ローワ……」

黙ってろ、と言い掛けて言葉を呑んだ。
野郎の口許にはいつものヘラヘラした笑みはなく、グラサンも外した本気(マジ)な目で アタシらを見てやがった。
隣を降り向きゃゼロもとっくにローワンに視線を固定していた。
アタシがもう一度ローワンに顔を向ければ、それを合図としたかのように語り始めた。
目を合わせたまま、淡々と。

「世の中なんてな、何だってかけ離れた二つのもんから成り立ってんのさ。
男と女、戦争と平和、金持ちと貧乏人。
そして、夢と現実。
その全ては遠く離れたところにあるようで、実は背中合わせでくっついてる。
決して離ればなれになる事たあねえのさ。
俺っちの店が売るのは夢。愉しくて華やかな夢を売ってんのさ、毎晩な。

けど、一皮向きゃあこうして詰まらない現実が地肌を晒す。決して客には見せねえ地肌がな。
見せる必要もねえ、見る必要もねえ。
ここにいる時ゃあ夢だけ見てりゃあいい。そうは思わねえか?

客商売ってなそういうもんだろ。この街に限らず世界中何処でもな。
だから、俺っちはこの街を愛してるぜ。この街に住んでる連中もな。
どうせ世界中どこ行っても同じだってんなら、やっぱ自分の今いる場所ってやつを愛して やんねえとな。
じゃねえと、人生楽しめねえよ。
……だからよお。俺ゃあ今街を騒がしてる奴が許せねんだよ。
商売に障りがあるからってだけじゃねえ。
ソイツぁこの街をぶっ壊そうとしてやがる。
そういうつもりはねえのかもしれねえけど、それでもその馬鹿がやらかしてんのはそういう事だろ。

バラライカみてえなおっかねえ女に喧嘩売ったんだからな。
そりゃ街もおかしくなるぜ。
店に来てる客も、なあんか愉しんでねんだよ。無理矢理はしゃいでる感じでさ……

ゼロ、レヴィ。

アンタら二人が動いてくれるってんなら俺ゃあ大歓迎だぜ。
俺に出来る事なら何でも言ってくれ。
何だかよお……
アンタらなら上手く事態(こと)を収めてくれそうな気がすんだよ。
張の旦那でもねえ、ダッチでもねえ。
アンタらさえ動いてくれりゃあ、この街にとって一番良い結果に落ち着く……
そんな気がしてんだよ。何しろ俺ゃあ、アンタらのファンだからな」

そう言って笑うローワンの顔は初めて見るものだった。
自分の宝物を自慢するガキみたいな顔、ってのは良く言い過ぎか。
ちょっと誇らしげなような、でも少し恥ずかしがってるような……

「協力してくれるというなら助かる。そのために此処まで来たんだからな」

ゼロの声に思わずローワンから目を逸らす。ちっ……アタシらしくもねえ事考えちまった。

「で、俺っちは何すりゃいいのよ?
何でもするたあ言ったけどよ。正味の話、出来る事なんざ限られてるぜ」

「ちょっと確認しておきたい事があってな。
お前さん秘蔵のコレクションの中で、ルーマニア人で双子の子供が出演してるやつがあるか探して欲しい。
ああ、キッズポルノだけじゃなくて殺人(スナッフ)ビデオも頼む。そっちの方が本命かもしれん」

「ヒャーヒャッヒャ。 またブッ飛んだリクエストだな。
何だあ?
もしかして夜の刺激が足りねえのか。さすがはアンタとレヴィのカップルだな。血が足りねえと夜も燃えねえ、ってか」

ローワンの軽口を聞き流しながら、アタシはただゼロの口から出た"双子" という単語に意識を奪われていた。

本気で動くつもりだな、コイツ。

アタシは腹ん中の奥底から込み上げてくる戦いへの期待と相棒が見せた"意志"に笑いを押さえる事が出来なかった……









 
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