戦国異伝
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第四十七話 伊勢併呑その七
「そして越前に加賀に和泉に紀伊じゃ」
「そこを中心とし至る国におります」
「それが一向宗です」
「それぞれの国の中でも異様に多いと思える」
信長のいぶかしむ顔での言葉は続く。
「尾張でもおるがわしは六十万石を持っておる」
「そして尾張の一向宗は十万石、いえ二十万石程度の力がです」
「それだけの力を伊勢との境に持っております」
「長島に接して」
「して長島にそれだけじゃ」
老若男女で二万か三万だというのだ。
「伊勢と志摩全土を合わせて五万はおるのう」
「ううむ、尾張にどれだけの者がおるのかは把握してきていますが」
「そこから外れて妙に多いですな」
「思えばこれは」
「奇妙なことでございますな」
家臣達もだ。信長のその言葉で気付いたのだった。
「何故それだけの者が治める外におるのでしょう」
「伊勢でもそうですし」
「一向宗とは一体」
「何者でございましょう」
「そのはじまりや成り立ちはわかっておる」
それは既に把握している信長だった。彼は本願寺、ひいては一向宗のことをその開祖親鸞のことから学び知っているのである。
「確かに大きいが不可思議なまでに大きい」
「乱世に信仰を集めているとはいえ」
「それでもでござるな」
「まさかとは思うが」
どうかとだ。信長はさらに話した。
「まつろわぬ者達も混ざっておるのか」
「まつろわぬですか」
「そうした者達も」
「記紀におるな」
古事記と日本書紀だ。この国における神話の原典が書かれていると言ってもよい二つの書だ。織田家は元々神主の出なので信長はとりわけそれに詳しい。
その中からだ。信長は話すのである。
「神武帝や大和武尊命に倒されていった者達を」
「はい、実に多くおりました」
「そうした者が」
「山の中やそうした場所にですな」
「鬼や土蜘蛛の類ですね」
「ああした者達ですか」
「あれが一向宗の中に混ざっているというのですか」
家臣達がいぶかしみながら言うとだ。
信長も殻と同じ顔になってだ。そうしてまた言うのであった。
「元々一向宗は門が広いしのう」
「ではそうした者達が入ってもですか」
「おかしくはない」
「それ故に」
「まつろわぬ者達の多くはじゃ」
彼等についてだ。信長の話は続く。
「ただ朝廷に逆らっただけじゃが」
「そうしたのではない者達もいる」
「ではその者達とは一体」
「何者でしょうか」
「あれではないのか」
あれといってだ。そうして話に出したのは。
「津々木の如き者達ではないのか」
「あのですか」
「あの津々木の如き者がですか」
「本願寺に大勢入り込んでいる」
「そうだというのですか」
「確かなことは言えぬ」
それはだ。信長も今は断言できない。しかしそれでも可能性としてはだ。有り得ると話すのである。
「しかしそれでもじゃ」
「怪しいですか」
「殿はそう思われますか」
「うむ。どうにもな」
信長の顔はいぶかしむままである。そのうえでだ。
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