久遠の神話
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第十一話 意外な素顔その一
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第十一話 意外な素顔
剣道部の部活の練習を終えたばかりの中田のところにだ。聡美が来た。
中田はやっと防具を外して手拭で顔の汗を拭っていた。聡美にしても部活が終わった直後らしくその服は弓道の袴姿である。ただしだ。
色が違う。中田は上下共紺色の剣道の袴で聡美は上が白、下が黒の弓道の袴姿である。同じ武道でもそれぞれの色がはっきりと出ていた。
その聡美がだ。道場に来て彼に言ってきたのである。
「これから乗馬部に行かれますか」
「ああ、あいつの部活知ってるんだ」
「はい」
その通りだとだ。聡美もこくりと頷いて答える。
「そうされますか?」
「そうだな。闘いにはならなくてもな」
「同じ大学に剣士がいるのなら」
「会うのも面白いな」
「面白いですか」
「ああ、あの広瀬って奴な」
彼自身のことをだ。中田は笑って話すのだった。
「結構面白そうな奴だしな」
「面白い、ですか」
「そう思わないかい?」
顔を拭いた手拭を懐に収めて言う中田だった。
「あいつあれでな」
「そうですか。私は」
「わからないか」
「少し」
戸惑いも見せて答える聡美だった。表情にもそれが出ている。
「あの方のことはよく知りませんので」
「俺だってよく知らないさ」
「それでもですか」
「ああ。何となくわかるんだよ」
笑みをそのままにして言う彼だった。
「その辺りはな」
「そうですか」
「で、あいつと会うんだよな」
「はい」
「あいつのことを知る為にか」
「若しお互いによく知り合えれば」
その時はどうかというのだ。
「闘わずに済むかも知れません。それに」
「それに?」
「あの方も今度こそ」
ここではだ。聡美は顔を伏せて曇らせた顔になって呟いた。
「わかって頂けるかも」
「?あの方」
「あっ、いえ」
言った傍からだ。聡美はだ。
言葉を自分から切ってだ。こう中田に述べたのだった。
「何でもありません」
「そうなのか」
「はい。お気遣いなく」
こう言ってだ。本当に何でもないということにしたのである。
そのうえでだ。中田にあらためて言うのだった。
「では着替えてきますので」
「じゃあ俺もな」
「はい、それでは乗馬部の厩舎の前で」
「合流だな」
「そうしましょう」
こう話してだった。二人はだ。
一旦別れてそれぞれシャワーを浴びて私服に着替えてだった。そのうえでだ。
二人は実際に乗馬部の厩舎の前で合流した。そこに行くとだ。
中田はまずはだ。苦笑いをして聡美に言った。
「やっぱり匂うな」
「馬の匂いですね」
「結構凄い匂いだよな」
「馬には馬の匂いがありますよね」
「そうなんだよな」
苦笑いのままだ。中田は聡美に話す。
「これがちょっとな」
「苦手ですか?」
「あまりな」
こう言ってから述べるのだった。
「だから乗馬とかは考えないんだよ。馬自体は好きだけれどな」
「馬はですか」
「ああ、好きだよ」
そうだというのである。
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