久遠の神話
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第九話 戦いの意義その八
「陸自の人だがな」
「あの地方連絡部の一佐の人ですよね」
「あの人は防大出身でかつて駐在武官もしていた」
「それでそのつてで」
「外務省とも話ができる」
そうだというのだ。今も駐在武官はれっきとしているのだ。ただしかつての様に本当の意味での軍人が務めているのではない。
「だからそれもだ」
「お任せしていいですか?」
「この言葉は口にしては駄目だろうな」
工藤はふとだ。口元だけで笑ってこんなことを言ってきた。
「トラストミーだ」
「その言葉は駄目ですね」
高橋もだ。その言葉にはだ。
苦笑いになってだ。こう言った。
「全然信用できませんよ」
「そうだな。この言葉はな」
「言った人間が言った人間ですから」
鳩山由紀夫だ。この輩は責任把握能力すら疑わしい。
「ですからね」
「ではどう言おうか」
「任せてくれ、だけでいいと思いますよ」
「そうだな。それではな」
「言い換えますね」
「任せてくれ」
微笑んでだ。工藤は実際にこう言ってみせた。
「これでいいな」
「ええ、そのネタはですね」
「洒落にならないな」
「工藤さん前から思っていましたけれど」
「前から?」
「ギャグはあまり上手じゃないですよね」
こう彼に言う高橋だった。
「今一つ」
「これでも中学まではお笑い芸人を目指していたが」
「そうなんですか」
「止めて自衛官になって正解だったか」
「はい、そう思います」
高橋は真顔で答えた。
「いや、本当に」
「吉本に入ろうと思っていた」
実際に中学までだ。そう考えていたというのだ。
「吉本興業にな」
「それで漫才をですか」
「やろうと思っていた」
「ううん、相方の人とかは」
「探してそうするつもりだったんだがな」
「ピンでやられるつもりはなかったんですね」
「それも考えていたんだがな」
そうしたところはわりかし柔軟だった。
「しかし結局高校に入って落語研究会と野球部から野球部一本になってだ」
「ああ、野球だったんですか」
「神奈川でな。軟式野球だがな」
「そっちですか」
「軟式野球も楽しいぞ」
「ですよね。俺はテニス部でしたけれど」
高橋は自分はそれだと話す。
「軟式野球もいいですよね」
「ちなみに贔屓の球団は阪神だ」
「あれっ、工藤さん生まれは愛知でしたよね」
「それで親の仕事の関係で長野に移ってだ」
「自衛隊の教育隊は横須賀で」
自衛隊の教育隊はその地連によって変わる。東は横須賀で統一されるのだ。
「それでも阪神なんですか」
「駄目か?」
「いえ、巨人じゃなかったらいいですけれどね」
「そうか。まあ名古屋出身で阪神ファンはな」
「少ないですよね。ドラゴンズの本拠地ですから」
「それでも子供の頃は何も言われなかった」
そうだったというのだ。子供の頃には。
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