戦国異伝
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第四十五話 幸村先陣その二
「その為には武田にはより多くの力が必要じゃ」
「だからこその駿河ですな」
「その力の為の」
「そして駿河を治め民達を楽にする」
何故政を行うのか。信玄はそのこともわきまえていた。そうしたことが全てわかったうえでだ。彼は戦いそして国を治めているのである。
「それもよいな」
「承知しております」
「戦は天下統一の為」
「そして天下統一はです」
「民の為ですから」
「民を護れぬ者は国を治められぬ」
信玄は厳格な声で言った。
「無論天下もじゃ」
「それを為せるのは殿ですな」
「天下で果たせられるのは殿だけ」
「まさにそうですな」
「自負はしておる」
それはあるとだ。信玄自身も言う。
言うその言葉は確かな自信に依って出されている。そしてその言葉であった。
彼はだ。さらに言うのであった。
「わし以外にはおらぬ」
「では。その殿が」
「天下を治められるその中の一歩として」
「それでなのですね」
「駿河に」
「そうよ。出陣じゃ」
ここまで話してだ。信玄はだった。
出陣を命じた。そしてその中でだ。
幸村を見てだ。こう彼に告げるのだった。
「先陣は御主じゃ」
「それがしですか!?」
「そうじゃ。御主に任せよう」
幸村に対して信頼している笑みも向かせる。そうしてだった。
そのうえでだ。信玄は幸村にさらに話した。
「見事駿府まで陥としてみせよ」
「そうさせてもらいます」
「有り難き御言葉」
幸村のその言葉にだ。幸村も喜びを隠せない。そのうえでの言葉だった。
彼はだ。平伏し信玄に述べるのだった。
「それでは。見事先陣を務めさせてもらいます」
「そうせよ。そういえば御主にはじゃ」
「それがしにはですか」
「そうじゃ。見事な家臣達がおったな」
信玄が今話すのはこのことだった。
「十人程じゃったか」
「はい、十勇士といいます」
「ふむ。十勇士か」
「非常に素晴しい者達です」
幸村は彼等のことを話す時だ。完全に信頼している笑みを浮かべる。
その笑みでだ。こうも言うのである。
「それがしには過ぎた者達です」
「過ぎたというか」
「はい、それがしなぞには」
彼は実際にそう思っていた。しかしだった。
信玄はだ。その幸村にこう言うのだった。
「それは違うな」
「違うというのですか」
「人はその器に相応しい人に仕えるものだ」
「相応しいですか」
「小器に大器は入るか」
具体的にはだ。こういうことだった。
「入らぬな」
「はい。だからですか」
「そうじゃ。御主にその十勇士が仕えておるのもだ」
「それがしが。あの者達は仕えるに相応しい者だからですか」
「そういうことじゃ。それではじゃ」
ここまで話してだった。信玄はだ。
幸村にだ。こうも話した。
「その十勇士も率いて先陣を務めるがよい」
「わかりました。ではあの者達も」
「十勇士か。頼もしい者達だな」
信玄はその十勇士達についてもだ。頼もしい笑みを浮かべて話す。
「その者達も天下に必要じゃな」
「この天下にですか」
「その通りじゃ。二十四将も御主もじゃ」
彼等と同じくだというのだ。十勇士達も必要だというのだ。
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