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久遠の神話

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第七話 中田の言葉その八


 だが、だ。彼はこう言うのだった。
「現代語訳の本があって」
「ああ、現代語訳の」
「そうしたのもあるのか」
「何種類かあるよ」
 しかもだ。それは一種類ではなかった。
「与謝野晶子もあるし」
「すげえ文学的だな」
「与謝野晶子かよ」
「他には谷崎潤一郎とか」
 次はこの作家だった。
「この人も現代語訳してるし」
「谷崎ってあれか?細雪だったよな」
「あと春琴抄か」
「ああ、それ映画になってたよな」
「そうなのか?」
 谷崎のその名作の話にもなった。
「確かな。山口百恵でな」
「って随分昔じゃないのか?」
「また古いな」
「山口百恵って」
「俺達の生まれる前だろ」
「とにかく。谷崎も現代語訳していて」
 また話す上城だった。
「他には円地文子もあるし」
「あの人もか」
「訳してたんだな」
「今だと田辺聖子」
 この人の名前も出た。
「あの人も訳してるよ」
「ああ、お聖どん」
「あの人がやるって」
「喋り方大阪のおばちゃんにならないか?」
「だよな。源氏物語が」
「そうなるだろ」
 彼等も田辺聖子にはおおよそ知っていた。
 この作家は生粋の大阪人なのだ。その大阪の血がだ。源氏物語をもそうさせているのだ。
「あの人ってなあ」
「何か女の人がどうもな」
「十代でもおばちゃんみたいな感じになるからな」
「うちの従姉の姉ちゃんみたいになるんだよ」
「従姉の?」
 上城は友人の一人の言葉に顔を向けた。
 そしてだ。こう彼に尋ねた。
「ええと、その従姉の人って」
「大阪の東淀川にいるんだよ」
 まさにだ。大阪だ。そこにいるというのだ。
「そこにいてな。大阪の専門学校に通っててな」
「専門学校生なんだ」
「ああ、ヘアーサロンのな」
 この友人は散髪と言わずにこう述べた。
「それに行っててな」
「だから喋り方が」
「ああ、田辺さんのおばちゃんのままなんだよ」
「田辺さんの」
「そうだよ。そのままでな」
 またそうだというのだ。
「あの人の作品ちょっと読んだけれど姉ちゃんが田辺さんの作品に出て来るおばちゃんそのままの喋り方と性格なんだよ、本当にな」
「ええと、その従姉の人って」
「十九だよ」
 ぎりぎり十代だ。何とか言える年齢だった。
「十九でそれだよ」
「ううん、そうなんだ」
「っていうか大阪の人ってそうだろ」
「大阪の女の人って全員そうだろ」
「なあ、べたべたな喋り方でな」
「世間じみててな」
 それがそのまま田辺聖子の作品の女性達なのだ。
「そういえば俺の母ちゃんもそうだしな」
「僕のおばちゃんの」
「うちの従妹も」
「妹も」
 まさにだ。老若男女だった。ここは神戸だがそれでもだ。どうも大阪とあまり変わりがなかった。そういうところはだ。 
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