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戦国異伝

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第四十二話 雨の中の戦その八


 そしてだ。彼等の多くはそのまま遠江や駿河に逃げ去っていくのだった。
 戦は終わった。終わるとすぐにだ。
 雨が止んだ。空が瞬く間に晴れていく。
 その中でだ。その空を見上げてだった。信長は馬上から言うのだった。
「勝ったな」
「はい、義元殿は捕らえました」
「嫡男の氏真殿もです」
「そしてです」
 さらにあった。家臣達は話していく。
「今川の将兵の多くも下りました」
「完全な勝ちです」
「これ以上はないまでの」
「その通りじゃ」
 まさにそうだとだ。信長も満面の笑みで話す。
「わし等は勝ったのじゃ」
「ではこれよりですな」
「勝鬨をあげますか」
「今ここで」
「うむ、そうする」
 まさにだ。そうするというのだ。
 そうしてあらためてだ。信長は。
 己の将兵達にだ。こう告げた。
「では皆の者」
「はい」
「それではですね」
「これより勝ち鬨をあげる」
 まさにだ。それをだというのだ。
「よいな。そのうえで清洲に帰るぞ」
「わかりました。それではです」
「我等も力の限り叫びましょう」
「勝ち鬨を」
「そうせよ」
 まさにだ。それをせよとだ。皆に告げるのだった。
 それを告げてからだ。彼からだった。
「では。今からじゃ」
「はい、天に向かって叫びましょうぞ」
「我等の勝ちを」
「勝ち鬨を挙げよ!」
 信長は遂に言った。
「我等の勝ちぞ!」
「我等の勝ちぞ!」
 家臣達も足軽達も叫ぶ。そしてあの言葉が出た。
「えいえいおーーーーーーーーーっ!!」
「えいえいおーーーーーーーーーっ!!」
 この声を挙げてだ。彼等の勝利を祝うのだった。そうしてだった。
 信長は己の勝利を確かめるのだった。彼は誰もが思いも寄らぬ奇襲によってだ。今川の大軍を破り義元とその嫡男氏真を虜としたのだった。
 このことはすぐに全国に伝わった。それはだ。
 表にだけ広まってはいなかった。裏にもだった。
 闇の中でもだ。話す者達がいた。彼等はだ。
 その闇の中で蠢きながらだ。信長の桶狭間での勝利について話すのだった。
「勝つとは思っていたにしても」
「それにしても」
「あそこまで鮮やかな勝ちとは」
「思いも寄りませんでした」
「全くです」
 こうだ。彼等は話していくのであった。その中でだ。
 彼等はだ。こうも話すのだった。
「しかも今川義元を捕らえるとは」
「首を取らなかったとは」
「死ねばそれまでなのですが」
「生きて虜とした」
「それも今川義元だけではありません」
 彼だけではないこともだ。彼等は知っているのだった。
 そのことも話すのだった。 
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